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サリウの動乱③

「ところで、お伺いしたのですが・・・」

 壁に掛けられている額縁に視線をやったシャルルが、辺境伯に訊ねる。

「ここに掛けられている石板は一体何ですか?」

 室内にいた全員が送る視線の先には、額縁に入れられた巨大な石板があった。それは本当に巨大なもので、縦3メートル、横も2メート余りある。それを、金に物を言わせて特注した巨大な額に無理矢理押し込み、強引に壁に掛けてある。


「ああ、これか」

 シャルルの問いに、クルサード辺境伯が答えた。

「これはな、この城を建設した時に発掘された物を、記念として飾ってあるのだ」

「と、申しますと?」

「この地には元々、古の神殿があったそらしい。それが、過去に起きた戦により崩壊したそうだ。

 そして、今から約150年前に、我が祖先が皇帝よりこの地を任された時のこと。この場所に城を建てようとしたところ、建設中に偶然発見されたのがこの石板だ。しかしな・・・」

 辺境伯が石板を見上げ、大きく溜め息を吐く。

「この通り、古の文字で書かれているため、何が書いてあるのか読めぬ。帝都の学者にも問うたが、誰にも解読できなかった。古の神殿に保管されていたものだ。一体何が書いてあるのか、ワシも知りたいとは思っている」


「近くで見させてて頂いても良いですか?」

 シャルルは立ち上がると、巨大な石板に歩み寄る。そして、石板を見上げながら無詠唱で呪文を唱えた。「アナライズ」と。

「・・・地に魔王在り。天は堕ち、神の祝福は途絶え・・・全てが、暗黒の業火に焼き尽くされる・・・」

「これが読めるのか!!」

「お父様!!」

 立ち上がった辺境伯を、マリアが制止する。




「天が叫び、森が燃え上がり、あらゆるものが消滅する


 甦りし者達が大地を埋め尽くし、腐臭に埋没し、生ける者無し


 彼方から轟く咆哮。割れる海、深紅に染まる空


 灼熱の息吹と、氷結する突風に、動く者無し


 真っ赤に染まった目は、反逆と動乱を


 姿ある者は無く、姿無き者は闇に沈む


 ここに在る事が罪ならば、願わくば即座に終焉の時を」




 読み終えたシャルルが、ふうっと深く息を吐く。

 これは、過去に起きた出来事を後世に残そうとした記録だ。つまり、魔王と戦った古の人達が、実際に見聞きしたことを石板に刻んだものだ。


「これは、いつ頃のものなのですか?」

 振り向いたシャルルが、辺境伯に訊ねた。

「1000年以上前のもの、そう言われておるな」


 シャルルはアナライズの魔法で、再び石板を解析する。

 すると、その結果もやはり1200年前と示された。この石板は、過去に起きた魔王との戦いを記録したもので間違いない。しかし・・・


「この石板が読めるとは、本当に驚いたぞ。それで、結局、何が書かれているのだ?」

 クルサード辺境伯の問いに、シャルルではなくマリアが答える。

「お父様、何も聞いてらっしゃらなかったのですか?

 この石板には1000年以上前の、魔王と人間の激しい戦いが記録されていたのですわ。まあ、ただ、いくつか疑問が残りますけど・・・」

「う、うむ、そうなのか。うむ、そうだな。魔王との戦いが記録されていた。おう、は、激しい戦いが、古より繰り返されていたのだな。うんうん」


 分かっているのかいないのか、そんな辺境伯を横目に、シャルルもマリアと同じことを考えていた。

 確かに、疑問が残るのだ。ただし、それを疑問として捉えるならば、現在信じられている全ての伝承を覆さなければならない。いや、書き換えなければならない。


「クルサード辺境伯様、少しお訊ねしたいのですが。

 このような古の文字で書かれた石板は、他にも存在しているのでしょうか?」

 突然の問いにも関わらず、辺境伯が鷹揚に頷いた。

「うむ、あるな。古の遺跡から発掘されたものもあるが、エルフや竜種などの長命種が所持していることもあると聞く。まだ発見されていないものもあるだろうし、帝都の博物館にもいくつか貯蔵されているようだ」

「ありがとうございます」


 今までとは違い、頭を下げたシャルルの表情が少しだけ明るくなる。以前と同じとまではいかないものの、少しだけ生気が戻った気がする。

 伝承の発掘か・・・これは面白そうだ。

 しかも、ギルドに登録しなくても、勝手に探すことができる。

 うん、これだ。当面は、伝承を探して旅をしよう。


「何となく、何を考えているのか分かりますけど・・・

 有力者の後ろ盾がございませんと、入れない場所が多いと思われますわ。そもそも、ギルドに入らなければ発掘の許可が出ません。勝手に侵入すると盗掘になりますわ。それに、そもそもステータスボードを所持していなければ、ギルドに登録することもできませんわよ」


 マリアの言葉でシャルルは少し考える。

 だが、とりあえず全て先送りにする。自分のために、誰かを利用するなどしたくなかった。



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