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襲撃者④

 リーダー格の男が、上段に構えていた鋼鉄製の剣を叩き付ける様に振り下ろす。しかし、その渾身の一撃は、シャルルの持つ銅の剣によって簡単に弾かれた。剣と共に、男はバランスを崩して倉庫の床に転がった。


「バ、バカな。この俺がこんなに簡単に負けるはずが・・・」

 そう呟く男の鼻先に、銅の剣が突き付けられる。

「まだやりますか?僕は構いませんけど」

 10人以上の男達を相手取ったにも関わらず、シャルルは全く息を乱していない。そんなシャルルを見て、リーダー格の男は剣を手放して両手を挙げた。


「降伏する。オマエは何者なんだ。この俺を、この人数をものともしないとは・・・」

 問われたシャルルは、飾ることもなく自分の立場を答える。

「え?ただの護衛ですけど。金貨3枚で雇われた」

 男は唖然とした表情を見せた後、ガックリと肩を落とした。


 それから暫くすると、マリアとダリルが倉庫に姿を現した。元々予測していたこともあり、全く驚いた様子もない。

「さすがシャルル様ですわ。この人数をいとも容易く退けるとは」

「左様でございますな。しかも無傷とは、いやはや驚きです」

 感嘆の声を上げるマリアの後ろで、ダリルが深々と頭を下げた。

「まあ、最初から分かっていたので、そんなに大変ではなかったですよ」


 シャルルの元に歩み寄ったマリアが、縛り上げられて床に座る男を確認する。その瞬間、その瞳が大きく揺れた。

「そうでなければ良いと思っていましたが・・・もう、オシマイですわね」

 その言葉を耳にした男が、力なく項垂れた。

「この者達は、盗賊として宿場町の衛兵に引き渡します。あと、盗賊と結託していた金鯱亭にも、それ相応の罰を受けて頂きますわ」

 そう周囲に告げると、マリアは足早に倉庫を後にした。



 翌朝、酒場で熟睡したままだったCランクパーティを叩き起こし、辺境伯領の都であるサリウに向けて出発した。順調に進めば、夕刻にはサリウに到着するはずである。


「シャルル様は、サリウに到着したら何かご予定はございますか?」

 隣に座るマリアに問われ、シャルルは思いを巡らせる。

 急ぐ旅ではないし、特に予定もない。

「特に決まってはいませんけど、ステータスボードの登録くらいですね。失くしてしまって・・・

 あ、でも、無理かも知れません。身分を証明するものを何も持っていないので。でも、ギルドに登録する時には必要ですよね。ああ、困ったな・・・」

 その話を聞き、マリアがシャルルに提案した。

「では、ステータスボード登録の際に、私が保証人になりますわ」


 ステータスボードも、所詮は国の機関が管理しているものだ。本人の素性が怪しかろうと、重要人物の保証があれば、いくらでも新規に発行する。しかし、保証人になるとういうことは、万一の場合、その人物の責任を取らなければならないのである。つまり、それだけの覚悟と力がなければ、保証人を引き受けたりはしない。当然、保証してもらう側も、それ相応の覚悟が必要になる。


「いや、そこまでしてもらう訳には・・・」

「そう、ですか」

 シャルルに断られて、マリアは表情を曇らせて顔を伏せた。


 その隣で、シャルルは無表情のまま、視線を窓の外に向けた。

 確かに、願ってもない申し出だ。しかし、それだけに安易に受ける訳にはいかない。マリアはあくまでもビジネスパートナー。今こうして護衛しているのも、金貨3枚という契約があればこそだ。別に、マリアを不審な人物だと思っている訳ではない。むしろ、信頼に値する人物だと思っている。しかし、それは、あくまでも仕事上の話であり、私的な感情ではない。


 シャルルは下男扱いをされていても、パーティの皆を信頼していた。

 荷物を持たされたり、不条理に殴られたりもしていたが、それでも、シャルルに魔物から助けてくれた。遅れるシャルルを、追い付くまで待ってくれたりもした。

 だから、シャルルは信じていた。

 本当の仲間だと、自分もその一員として大切にしてくれているのだと。

 シャルルは全幅の信頼を預けていた。

 何も疑わず、何も見ず、何も考えず、気付かないフリをして。


 でも、シャルルは道具でしかなかった。

 扉を開けるカギでしかなかった。

 そう、シャルルは道具でしかなかった。

 逃げるための生贄でしかなかった。


 だから、今のシャルルには誰も信じられない。

 笑顔で差し伸べられる手を、握ることができない。

 善意の言葉だと頭では理解しても、心が拒否してしまう。

 シャルルには、他人を心から信じることができない。


 何となく、気まずい空気が流れる。

 馬車を照らす太陽は徐々に傾いていく。

 もう、サリウは近い。

 やがて、馬車の外から護衛の冒険者の声が聞こえてきた。

「サリウの街が見えてきました。もう少しで到着します」


 サリウは高い防壁に囲まれた城下町である。この地が、ユーグロード王国に対する最前線であることもあるが、それ以外にも理由がある。サリウがダンジョンの管理をしている都市であるためだ。常態では、ダンジョンが近隣にあるからといって特に問題はない。しかし、稀にダンジョンから魔物があふれる事件が発生する。魔物暴走パレードだ。その際、真っ先に襲われる街が、このサリウなのだ。


誤字・脱字のご指摘ありがとうございます!!

感想も嬉しいです。もうしばらく頑張って更新します。

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