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襲撃者①

 ラナク海峡―――――

 ユーグロード王国があるムーランド大陸と、アルムス帝国があるエストランド大陸を分断している海峡である。その潮流は凄まじく、1日に2度訪れる潮止まりを狙わなければ渡航することはできない。2キロメートルほどの海峡であるが、その間を約2時間で渡り切らなければ外海へと流され、二度と戻っては来れない。

 そのため、ユーグロード王国とアルムス帝国の2大強国は小競り合いのみで、大規模な戦闘を繰り広げたことはない。その小競り合いさえも、停戦条約が締結されて以降、この10年以上は起きていない。



 潮止まりを狙い、シャルル達が乗る帆船も出港した。

 天候も穏やかで、順調に進めば1時間ほどで対岸に到着する。その港町の名はソマリ。そこからがアルムス帝国の領土である。そしてソマリから陸路で2日の距離に、シャルル達が目指すサリウはある。


 全長が30メートル以上はある純白の帆船。シャルルはこれほどの船で航海するのは初めてで―――いや、そもそも船に乗るこ自体が初めての経験であるが―――甲板から身を乗り出し、熱心に海を眺めていた。傍から見ると、初めて都会に来た田舎者そのものだ。


「そんなに覗き込むと、海に落ちますわよ」

 マリアに声を掛けられ、我に返ったシャルルがバツが悪そうに振り返る。穏やかな笑みを浮かべるマリアに対し、内心で羞恥に悶えるシャルルは必死に話題を変えた。


「そ、そういえば、鑑定スキルですけど・・・」

 鑑定スキルの名を出した途端、今度はマリアが耳まで真っ赤に染まる。先程の擬似ラブシーンを、鮮明に思い出したのだろう。それでも、どうにかシャルルの話に相槌を打つ。


「名前と現在の職業、レベル、それと体力、力、魔力、防御力、スキル名―――」

「そう、ステータスボードに明記されている内容が、覗き見れるというスキルですわ。ただ、相手のレベルが自分より高い場合や、高度な隠蔽魔法が使われていると見えないこともありますわね」

「あと・・・」

「あと、何ですの?」

 シャルルがその先を続けようとすると、マリアが怪訝な表情をする。


「あとは、適性?潜在能力、かな?剣、弓、格闘技、魔法、特殊技能・・・その人の潜在能力が、ランク付けされて見えるみたいですね」

「それ、知らないんですけど・・・・・」

「え?」


 マリアからジト目を注がれ、シャルルが言葉に詰まる。このステータス2とも言える情報は、もしかするとシャルルだけにしか見えないのかも知れない。


 その後、検証してみた結果、ステータス2はシャルルにしか見えないことが判明する。


「何か、ズルイですわ。私のスキルをコピーしたのに、私より高性能なスキルになるなんて、何か納得できませんわ」

 拗ねて背を向けるマリア。頭を掻きながら、何か良い言い訳はないものかと必死に脳ミソを働かせるが、シャルルには何も思い浮かばない。


 シャルルが苦悩していると、頬を膨らませたままのマリアが振り返った。

「それで、私にはどんな潜在能力があるんですの?」

 面白くはないものの、自分の潜在能力が気にはなるらしい。


「細かいステータスは無視して、職業の適性だけで良いですか?えっと、マリアさんは、商人がB」

「Bなんですの?確かに・・・私、相場が読めませんし」

 おいおい・・・

 シャルルが声に出さずにつっこむ。


「ですけど、政務官がS。それに、軍師の適正もSになってますね」

 Sランク査定など、どの職業でも、ほぼ存在しないランクである。

 Sランクの政務官であれば、大都市の経営、或いは、王族や大貴族の政務を取り仕切る者に相当する。Sクラス軍師が間違いでなければ、大国の将軍になれるレベルだ。


「商人なんか辞めて、どこかの国か貴族に士官した方が良いような結果ですね。まあ、あくまでも、僕の鑑定なので、どこまで信憑性があるか分かりませんが・・・ハハハ」

 シャルルが愛想笑いを浮かべながら顔を覗き込むと、マリアは何か考え込んでいた。


「ソマリが見えてきたぞおおお!!」

 その時、帆先で航路の確認をしていた船員が、甲板に向かって叫んだ。その声につられるように前方をに視線を移すと、オレンジ色を基調とした街並が見えてきた。アルムス帝国側の港町、ソマリである。


 シャルルはソマリを眺めながら、今後の予定を思案する。

「いよいよ、アルムス帝国だ。まずはマリアの護衛としてサリウに向かい、そこから帝都を目指そう」

 シャルルに何か目的がある訳ではないが、冒険者ギルドの登録は王都の中央ギルドでしかできない。


「少し急ぎますので、ソマリで荷物を下ろしたら、そのままサリウに向かいます。よろしいですか?」

「僕はマリアさんを護ることが仕事なので、決定に従うだけです。気にしないで、先を急いで下さい」

 シャルルの意志を確認したマリアは、大きく頷いた。


 純白の帆船は何の問題もなく、予定通りソマリに入港した。


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