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ダムザ・ユーグロード

 その頃、正式に国王より後継者として指名されたダムザは着実に権力の座を固めていた。



 自室に置かれた深紅の椅子に腰を掛けたまま、ダムザは思案する。


「父は凡庸ではあるが、国を維持するだけならば問題はないだろう。だが、この俺なら、ムーランド大陸に残る小国を侵略して従属させ、領土を拡大することができる。俺なら、隣国を支配し、アルムス帝国をも血の海に沈めることができる。この俺は、この世界に唯一の王として君臨することができる王の中の王になることができる!!」


「その通りでございます」

 独り言と思われたダムザの言葉に、艶のある女性の声が同意を示す。

 声の主はリリスだ。


 ダムザが皇太子に即位すると同時に、イリアがパーティから脱退した。

 既に、ダムザにはパーティとして活動するつもりはなかった。今更、魔物相手に危険を犯す必要がないのだ。一時期は妃にしようと考えていたイリアではあるが、近頃は何かと反抗的な態度を見せていたため、ダムザは存在が煩わしくなっていた。公爵令嬢ということもあり、対応に苦慮していた所での離脱である。正直なところ、都合が良かった。


 その後、イリアの代わりとして加入したのが、このリリスである。


 国民が勝手に言い始めたことではあるが、ダムザはラストダンジョンに巣食っていた魔王を討伐したことになっている。その時のパーティメンバーの人気は絶大であり、皇太子になった今でも、英雄としての体裁を保たなければならなかった。つまり、為政者として、パーティを組んでおく必要があるのだ。それ故に、空いた穴は塞がなければならない。


 ダムザとリリスの出会いは偶然であった。


 ダムザが女遊びをするために呼び付けた遊女の中に、リリスが混ざっていたのだ。妖艶な雰囲気と熟れた豊満な肢体。ダムザは一瞬で虜になった。しかも、リリスはハイレベルの攻撃魔法を使うことができ、更に僧侶系の魔法をも使いこなしてみせた。

 ダムザは有無を言わせず自分のパーティに引き込み、それ以来、自分の身の回りの世話までさせている。


「ダムザ様、それならば、早急に王位を継承されるべきです。左大臣のリシュレ様に宰相への昇格を約束し、内政を全面的に任せることをお約束なされば、国王様に進言して頂けるかと思います」

 真っ赤な飲み物を手渡し、その艶めかしい指先でダムザ頬を撫でる。


「ふむ、父は政務に疲れておられる。上手く進言すれば、離宮で隠居されるかも知れないな。

 よし、分かった。早速、リシュレに相談してみよう。

 ・・・そうだ、そうだな。

 確かに、父が隠居されるのを待っている必要はない。俺が、父に隠居する様に勧めれば良いのだ!!

 今すぐ、リシュレを呼んでくれ!!」


 ダムザに相談されたリシュレは快諾し、すぐさま国王アレクスウス・ユーグロード三世へと進言された。アレクスウスは常々穏やかに暮らしたいと考えていたため、その提案を検討することにした。


 ダムザは救国の英雄として国民に人気がある。それに、ラストダンジョンに帯同したパーティメンバーも補佐している。正妻として迎えるララ・ローランドは気品ある美女であり、しかも筆頭侯爵家である、ローランド家の長女だ。若き国王の後ろ盾としても十分である。

 危惧するとすれば、まだ年若く政務に関して未成熟だといったところだけだ。しかし、それも左大臣であるリシュレが全面的に支援すると約束するのであれば、国王としても父としても何の憂いもない。


 リシュレから進言された翌日には、アレクスウス国王は、早くも皇太子ダムザに王位を譲ることを決定した。余りにも早い王位継承に対し、第一王子であるカインを始め多くの貴族が反対したものの、国王が決定を覆すことはなかった。


 リリスがダムザに譲位を進言して僅か3日後、急遽戴冠式が執り行われ、国民に対して新国王ダムザ・ユーグロードの誕生が公表された。


 王宮の最上階で、王都パノマの街並を眼下に捉えるダムザが呼び掛ける。

「リリスよ」

「はい、国王陛下様」

「今まで通りで良い」

「はい、ダムザ様」

「オマエの言葉通り、俺は国王となった。俺は世界の覇権を握るぞ!!」

「当然でございます。ダムザ様は、世界の王たる器でございますから」

 リリスは真っ赤な飲み物を手渡し、ダムザの肩にその豊かな胸を押し付ける。


「答えろ。まず、俺は何をするべきだ?」

「はい。まずは、第一王子であるカイン様を辺境の地、イシュプロントに移されるべきかと。太陽は2つあってはなりません。王都に置いていては、必ず担ぎ出す者が現れます」

「よし、明日にでも、カインをインシュプロント辺境伯に任じて追い出そう」

 リリスがダムザに絡み付き、首筋に舌を這わせる。


「その次は」

「世界中から上質な魔石を集め、武器を大量に生産し、このムーランド大陸の統一を。そして、ラナク海峡を渡り、アルムス帝国を。その向こう側にあるギガンデル神国を滅ぼして全世界をダムザ様の手に」

「ククク、胸が躍る、血が滾るわ。

 俺の足下に、全世界がひれ伏すのだな・・・ハハハハハハ!!」

「その通りにございます」


 ダムザが歪な笑みを浮かべたまま、リリスに指示する。

「よし、早急に世界中の魔石を集めろ。金はいくらでも使って構わん」

「承知致しました」


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