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神都リーベト神竜⑦

「むう・・・た、確かに、少し感情的になったな。国王として、あるまじきことだ」


 オーズは自戒すると、一度目を閉じてシャルルを見詰める。

「真実とは、双方向から検討して然るべきだ。ワシの話は、あくまでも伝聞に過ぎない。親族のこととはいえ、国王として中立の立場をとろう。

 当代の勇者シャルルよ。魔王、邪竜ガリトラに会い、真実を解き明かせ。もし・・・もしも世界に仇なす存在であるならば、討伐も止むを得ない」


 オーズの言葉を聞き、シャルルが頭を垂れる。


「邪竜はタンガニ湖を挟んだ反対側の山、伏竜山の頂上にいるだろう。山の麓まで、エリウに送らせるとしよう。大丈夫がと思うが、仮に返り討ちにあったとしても、ワシは感知しない。では、よろしく頼むぞ」


 オーズはそう言い切ると、身体を翻して歩き始めた。その背中は、未だに逡巡しているように見えた。


 玉座の間に沈黙が下りる。

 誰もが複雑な心境のまま、何を言って良いのか分からないように見えた。しかし、ただ1人、いつもと変わらないパテトが口を開いた。


「で、話は終わりなんでしょ?とりあえず、何か食べ物が欲しい。リーベに辿りついてから、まだ何も食べてないんだけど」


 イリアが思わず吹き出す。

「プッ・・・もう、何それ?緊張感も何もないんだから」

「まあ、確かにお腹空いたし、腹ごしらえしてから連れて行ってもらおうか」

 イリアの言葉を受けて、シャルルがエリウに視線を送る。


「じゃあ、ワタシが美味い店に連れて行こう。パッパと食べて、サッサと行くぞ。こう見えても、ワタシは忙しいんだからな」


 そう言うと、すぐにエリウが歩き始める。その後ろにパテトが慌てて続き、2人を視界に収めたシャルルとイリアがそれに従った。



 エリウが案内した先は、なんと城内の食堂だった。近衛兵や事務官等、城内に勤務する者達が無料で食事が摂れる従業員食堂のようなものだ。


 リーベの名物が食べられると思っていたパテトは憤慨しているが、構わずエリウはカウンターから声を掛ける。

「日替わり定食4つね」


 結論から言うと、異常な美味さだった。

 不満顔をしていたパテトは結局5人前を平らげ、シャルルとイリアも無言でフォークを口に運んだ。それは、当然のことである。誇り高い竜士族の、しかも王城で提供される食事が、巷の食堂に負けるはずがないのである。


 食事が終わりそうになった頃、エリウがシャルルに訊ねた。

「それで・・・実際のところ、どうなんだ?

 ぶっちゃけ、お前達はワタシよりは強いはずだ。パテト1人だけでも、最後は2人がかりじゃないと相手にならなかった。ガリトラ様は別格だが、白と黒はどうにかなるだろう。ワタシが訊きたいのは、もし、ガリトラ様に勝てたとしたら、そのときはどうするのかって話だ」


 真剣な眼差しを受け止め、シャルルが答えた。

「何がどうあっても、僕は討伐しようなんて思ってませんよ。状況はだいたい分かりましたし、ね」

 シャルルの返事を聞き、エリウはホッと旨を撫で下ろす。


「そうか・・・それなら良い。口ではああ言ってはいるが、王も本当は命を絶つなどといったことを望んではいない。もし・・・もしも可能であるならば、どこかに誤解があるならば、それを解いて、また一緒に暮らせれば良い。そう思っているはずだ」


「分かってます」

 その言葉に、シャルルが小さく首肯する。


「よし、そろそろ行くか!!」

 エリウが立ち上がり、それに少し遅れてシャルルとイリアが席を立つ。パテトは満腹で動けないようだ。


 そんなパテトの首根っこを掴んで持ち上げると、エリウがそのまま歩き始める。その先に見えるのは、巨大な中庭のスペースだ。


 中庭に到着すると、離れた場所にシャルル達を待たせ、エリウが声高に変身した。


「竜化!!」

 見る間に、人型であったエリウが巨大な竜に変化していく。


 真っ赤な竜。レッド・ドラゴンとも呼ばれる美しい竜だ。30メートルを優に超える巨体から巨大な翼を生やし、長い尻尾が左右に揺れる。これだけ巨大なレッド・ドラゴンなど、まず存在しないだろう。亜種もいるが、これほど純粋な赤に染まる可能性はゼロだ。


 思わずシャルル達が見とれていると、赤竜に変身したエリウが急かす。

「落ちないところに、どうにか乗れ。途中で落ちたらまず助からないからな。どこかn適当に掴まってろよ」

「え、ええ・・・マジで」


 姿勢を低くしたエリウの背中にパテトが飛び乗り、シャルルがイリアをお姫様抱っこの要領で、抱きかかえて跳んだ。パテトが不満そうな顔をしているが、ズボン姿のパテトには必要ない手助けだ。


「乗ったな?よし、出発するぞ。だいたい2時間もあれば到着するからな。そのつもりで準備しておけよ」


 エリウはそのまま浮き上がり、ダンガニ湖方面に向いた。そして、そこから一気に加速する。音速さえも超えるその速度は、3人の悲鳴を置き去りにして、一瞬にして空の彼方に消えて行った。


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