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神都リーベと神竜⑥

「うむ・・・そうだな、先を続けよう。  娘が家出をして3ヶ月が過ぎ、そして4ヶ月が過ぎ、とうとう半年が過ぎた。約束の3ヶ月を過ぎても、一向に娘は帰ってこない。国王であるため、自由に動き回ることができないガリトラは、配下の者達を捜索に出した。その数は100人を超えていた。しかし、それでも娘の行方は全く分からなかった」


「追っ手に気付いて、逃げていたとか?」

 パテトの問いに、オーズが首を左右に振る。


「確かに、肝心の相手が見付からないように隠れていたのでは、いかに竜士族の精鋭といえども簡単に見付けだすことなど不可能だ。もとより、ガリトラの娘は四竜以上の実力者だった。もし見付けたとしても、本人に帰国の意思がなければ、どうすることもできない。

 そして1年が過ぎ、3年が過ぎたある日のこと、ついにガリトラは政務を私に丸投げし、娘の捜索に旅立った」


 ここまで聞けば、思春期を迎えた子供たちにはありがちな話に思える。そして、それを親が捜しに行くなど、普通のことのように感じる。これの一体どこに、他種族を忌避し、邪な気に支配されてしまう原因があるというのだろうか。


「それで、見付かったんですか?」

 何気ないシャルルの問いに、オーズは表情を曇らせる。


「・・・見付かった」


 その返事を聞き、シャルル達は安堵する。しかし、逆にオーズの表情は更に険しくなった。


「見付かったのは、墓だ」


 思いもよらなかった結末に、シャルルの動きが止まる。言葉を探すシャルルに代わり、イリアが口を開いた。

「それは、病気・・・などではないのですね?」


「そうだ」

 オーズが目を伏せたまま頷く。


 その態度で、シャルルもイリアも、そしてパテトも何が起きたのか理解した。その答え合わせのように、オーズが状況を説明する。


「名前をまだ言っていなかったが、ガリトラの娘はフィラルといった。フィラルはこの国を出たあと、船に乗ってアルムス帝国に渡ったのだ。ちょうど、お前達とは逆の道順を辿ったということになる。そして、オスティに上陸し、陸路で帝都に向かった。ここまでは、しっかりと足取りが残っていた」


 オーズはシャルル達を見渡したあと、項垂れて話を続ける。


「分かっている。お前達が悪いわけではない。それでも、心のどこかで割り切れない気持ちがあるのだ。すまぬな・・・  オスティを発ったあとの経路は全く分からない。しかし、最終的に、フィラルの墓は旧都近くで見付かった。ワシは直接見ていないが、寂れた場所にひっそりと建てられていたらしい」


「それは、人間のせいなんですか?」

 恐る恐る口を開いたシャルルは、振り返ったオーズの表情に一瞬たじろいでしまう。


「普通の人間如きに、竜士族でも有数の実力を持つフィラルをどうこうできやせぬ。しかし、いくら強くても病には勝てない。それも、その種族特有の伝染病に罹患してしまうと、抵抗力がない我々はひとたまりもない」

「それが人間のせいだと?」

「違う!!」

 シャルルの問いに激昂し、オーズが叫んだ。


「違う。病は人間のせいではない。病にかかったフィラルを、人間が見捨てたのだ」


「え?」

 シャルル達は3人とも同じ表情をしていた。


「病に倒れたフィラルを、人間どもは手当てもせず放置した。その果てに、異国の地で、故国に帰ることも、再び家族に会うこともできずに死んだのだ!!その心労が元で妃は亡くなり、ガリトラは、我兄は暗黒面に堕ちたのだ!!

 誰が責められるというのだ・・・そんな兄を、娘を見殺しにされた親を、一体誰が責めることができるというのだ!!」


 静まり返る玉座の間。  しかし、シャルルの言葉がその沈黙を破った。


「いや、責める」


 その言葉に、周囲の視線がシャルルに集中する。しかしシャルルは全く動じることなく、その先を続けた。


「気持ちは分かる。でも、そのことについては何の罪もない現代の人達を、襲って蹂躙するなど決して許されない。もし、それを許してしまったら、恨みに終わりはなく、この世界は闇み閉ざされてしまう」

「な、何を、きれいごとを!!」

「きれいごとだ!!それでも、終わりにしなければならない。負の力に加担し、この世界を闇に閉ざすなど、僕には許せない!!」


 オーズの厳しい視線を受け止め、シャルルが吼える。

 この様子では、竜士族の大半は邪竜に同情的だと考えるべきだ。だからこそ、白と黒の四竜は邪竜についたのだ。


 そして、黙り込むオーズに、シャルルは気になっていたことを告げる。 「それに、今の話はおかしい。辻褄が合っていない。それに、その話は何者かに作られたように感じる」


 オーズが勢い良く顔を上げ、再びシャルルを睨み付けた。


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