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デスリー商会⑤

 突然の申し出に、マリアが言葉を失う。そして、徐々に顔を朱に染めていき頭のてっぺんから蒸気を噴き出した。

「そ、そ、そ、それって、シャル、シャル、シャル様は、私を、あい、あい、あい、愛してらっしゃると!!わ、わたくしも、シャル様―――――」

「あ、あの、マリアさん?落ち着いて下さい。別に、愛の告白とかではないので、そんなに熱烈にという・・・・・ヒイッ!!」

「私がお仕えするお嬢様では不服だと、シャルル様はそうおっしゃるのですな?」

 眼光鋭く、決死の構えを見せるダリル。目をグルグル回して茹るマリアと、鬼神と化しているダリルの狭間で、シャルルは苦笑いするしかなかった。


 2人が落ち着いたところで、シャルルは理由を話し始める。最初からこうしておけば良かったのであるが、可能であれば自分のスキルの内容を話したくなかったのだ。それほどまでに、シャルルのスキルは希有であった。


「これから話すことは、決して公言しないと約束して下さい」

 僅かに落胆したマリアと、取り乱したことを恥じ入るダリルが同時に頷く。

「分かりましたわ」

「このダリル、命に代えましても」

 シャルルも頷き返し口を開く。

「実は、僕には特殊なスキルがあります。それは、相手のスキルをコピーするというものです」

 その意味を理解した2人が絶句する。


 この世界には、1つだけ何かしらのスキルを所持している者がいる。その中でも、特殊なスキル―――戦闘に役立つ、或いは魔法の行使に影響があるスキル―――を持っている者は1割にも満たない。その僅か1割の者は、ハイランクの冒険者や高位の聖職者になっている。

 しかし、稀にスキルを2つ顕現させる者が出現する。これは更に稀な存在であり、「天賦の才」と呼ばれ、何かしらの偉業を成し得る者とされている。更に、スキルを3つ顕現させる者は歴史上数人しかおらず、世界を救う聖者、あるいは英雄になっているのだ。

 そして、たった1人にしか顕現しないスキルはユニークスキルと呼ばれ、幻のスキルと言われている。


 シャルルは今、その2つを持っていると言ったのだ。他人のスキルをコピーする能力は、間違いなくユニークスキル。しかも、コピーする能力であれば、3つどころか無限にスキルを増やすことができる。


 有り得ない状況に飛んでいた意識が、2人の元に戻ってくる。

「そ、それは、本当ですの?」

「ええ、でも、僕は世界を救う勇者なんかにはなりませんけどね」

 ここで、シャルルが視線を落とす。

「コピーするには、条件があるんです。相手のスキルを確認したあと、その後で・・・」

「相手を抱きしめなければならない―――ということですわね?」

「・・・すいません」

 頭を下げるシャルルに、少し照れた様子のマリアが両手を広げた。

「ど、どうぞ、思う存分抱きしめて下さい!!さあ!!」

「あ、ありがとうございます・・・」

 オズオズとマリアに近付き、シャルルは真正面からマリアを見詰める。


 商談相手としか捉えていなかったため意識していなかったが、改めて見るとマリアはかなりの美少女だ。今日は長い銀髪をサイドテールにし、首筋の絹のような素肌が見えている。長い睫毛の下にある髪と同色の瞳は大きく、光を反射して美しく輝いている。真っ赤なドレスから僅かに見える胸元の膨らみが、健康的でありながら妖艶さも醸し出している。


 シャルルの思考がオーバーヒートする。

 良いのか?鑑定スキルを得るためとはいえ、本当に抱きしめても良いのか?でも、この状況で抱きしめないとなると、それはそれで問題な気もする。よし!!

「失礼しまちゅ・・・」

 盛大に噛むシャルル。

 それでもシャルルは震える足を踏み出し、正面からマリアを抱き締める。少しだけシャルルの方が高いため、包み込むような格好になった。シャルルの腕の中に、柔らかな温もり、そして甘い香りが満ちていく。


 シャルルはコピースキルを発動条件を、1つだけ伝えていなかった。それは秘密にしていたというよりも、恥ずかして口にできなかったのだ。


「このまま、キミを世界の果てまで連れ去りたい―――」


 マリアの耳元で、シャルルの囁きが炸裂した。

 その瞬間、マリアの顔が熟したトマト以上に真っ赤に染まり、シャルルの体を抱きしめ返した。その表情からも、マリアの中でキュンキュン音が鳴り響いていることが分かる。


 そう、コピーのスキルを発動させる2つ目の条件は、「抱きしめた時に歯の浮くセリフを吐く」なのだ。よく見ると、シャルルの方がマリア以上に真っ赤に染まっていた。


 シャルルが、グルグルと目を回している。

 し、死にたいっ!!

 世界の果てってどこ?

 ラストダンジョン?

 いつか刺されると思う・・・


 こうして鑑定スキルをコピーしたシャルルは、マリアに懇願され、定期船ではなく純白の帆船でラナク海峡を渡ることになった。目的地がシャルルと同じ、辺境都市サリウであること。そして、マリアからの護衛依頼を受諾したこともその理由である。


 いずれにしても、シャルルは無事に因縁深いユグロード王国を脱出することに成功したのである。


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