表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

229/231

神都リーベと神竜⑤

「シャルルよ。いや、当代の勇者よ。お前は、魔王である邪竜を討伐するために来たのであろう」


 オーズの問いに、シャルルは少し考えて答える。

「討伐・・・というのとは、少し違うかも知れません。これまでに、僕は2人の魔王と戦いましたが、討伐したのか?と聞かれれば、否と答えるしかないでしょうね」

「ふむ、それは、どういう意味なのだ?」

 身を乗り出すオーズに、シャルルは言葉を重ねていく。


「これまでの見聞により、最初は1人だと思っていた魔王が4人いることが分かりました。そのうちの1人、エルダーリッチは失意と悲しみの果てに闇に堕ちた者でした。彼は大切な人を取り戻し、笑顔で天に召されましと。そして2人目の魔王であったスライムもまた、絆を失い闇に堕ちた者でした。彼もまた、大切な人と和解し、その呪縛から解き放たれました」


「ふむ」

 オーズは頷くと、シャルルに先を促す。


「ですから、まだ会ったことのない2人にも、魔王になってしまった理由があつのではないかと思っています。暗躍する何者かに唆され、何らかの呪いに縛られているのではないかと、そう考えています」


「なるほど・・・確かに、わざわざイルミンが頭を下げに来た理由が分かるというものだ」

「イルミン?」

 その瞬間、イリアが持つ杖から、オーズに向かって真空の刃が放たれた。当然イリアの魔法ではなく、人形が行使した魔法である。オーズはそれを難なく弾き返したが、常人であれば即死レベルの威力だった。

「い、いや、ワシは何も言っていない・・・」


 そこで一息吐き、イルミン人形を見詰めて気持ち悪い愛想笑いを浮かべた。


「シャルルよ。お前に質問しよう。邪竜と呼ばれる存在が、一体何者なのか知っているか?」

「多少は聞きましたけど、単なる噂話の域を出ないものばかりなので、正確なことは全く知らないと言って良いと思いますね」


 オーズは正直なシャルルの言葉に頷き、話を始めた真意を語り始めた。


「お前達が魔王と呼んでいる邪竜は、元ギガンデル神国の王、ワジの兄、ガリトラ・ギガンデルだ。その強さは竜士族の中でも並ぶ者など無く、この国にたった2人しかいない神竜の1人だ。ワシは黄竜。そして、兄は白銀流だ」


 黄竜とか白銀竜だとか、シャルルにとっては初めて耳にする竜の名称である。首を傾げていると、それに気付いたオーズが補足説明をする。


「黄竜とは、白、黒、赤、青の四竜をまとめる頂点たる存在であり、当然、その能力も四竜よりも遥かに高い。しかし、白銀竜とは、その黄竜の更に上に位置する存在だ。四竜程度では瞬殺される可能性すらあるほどに、限りなく強い。仮に、ワシが全力で戦ったとしても、十中八九負ける。それほどまでに、相手が強いということを理解しておくことだ」


 オーズの説明に、エリウとイアがしきりに頷いている。その説明が、正しいからこその反応であろう。


「そして、もう1つ。なぜ我兄である国王ガリトラが、邪竜と呼ばれるようになったのか。それを、お前にも知っておいてもらいたい」


 オーズの真剣な眼差しを受け止め、シャルルがゆっくりと頷いた。


「ガリトラは、国民のことを真剣に考える王であるとともに、他種族にも門戸を開き、他国との共存共栄と平和を願う良き指導者でもあった」

「そんな人物が、邪竜になるなって思えませんが」


 イルミン人形を抱き締めていたイリアが、思わずといった様子で声を出す。オーズはそれに嫌な顔ひとつ見せず、話を続ける。


「今から、1200年ほど前のことだ・・・

 当時、ガリトラには思春期を迎える一人娘がいた。我々竜の寿命は長い。それは、人生そのものが長い、というよりは、大人の期間が長いということだ。成人して暫くするまでは、成長速度は余り人間と変わらない。つまり、その娘は、生まれて17年目といった年齢だった。ちょうど、お前さん達と同じような感じだったかの」


 オーズの視線がパテトとイリアを捉える。


「ひとり娘であったこともあり、ガリトラは溺愛した。しかし、当然、娘はそんな親に対し反抗的な態度をとる。そして、ある日。とうとう、置手紙を残して家を飛び出した。

 ガリトラは当然激怒し、加えて不安にかられ、即座に娘を連れ戻しに行こうとした。だが、それをガリトラの妻が制止した。手紙には、諸国を回り、3ヵ月程度で帰宅する旨の書き込みがあったからだ。娘は見た目は若い女性でも、中身は四竜でさえも勝てないほど強かった。よほどのことがない限り、痛い目に遭うのは相手の方だ。しかし―――」


 オーズの表情が曇る。この後の展開が、決して楽しい話ではないことが容易に想像できる。しかし、オーズはこれから先の話を、聞いて欲しいと思っているようだった。


「それで、その後、一体何があったのですか?まだ、邪竜になる要因があるようには思えなかったのですが・・・」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ