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神都リーベと神竜③

「え?竜士族の方なら一緒に来ましたけど」


 門番に対して、平然とシャルルが告げる。

 その言葉を受けて門番がシャルルの周囲を確認するものの、どう見てもパテトとイリアの2人以外に誰もいない。


 どうしても、リーベに入りたいという気持ちは理解できる。筋肉、いや力も申し分ない。個人的には許可したところではあるが、門番が法律を捻じ曲げて特例を作る訳にはいかない。それに―――

 門番が視線を上げると、シャルル達の後ろに数百人もの行列ができていた。通常であれば、1日平均でも2桁ほどしか門を通行する者はいない。それは、ギガンデル神国が鎖国状態であることが大きく影響している。他国の者、商人が往来しないからである。


「個人的には通してやりたいのだが、やはり、竜士族の同行は必須だ。それは、お前が信用できる者だという証明になるからだ」


 もう一度同じ言葉を繰り返す門番に対し、ここまで静かにしていたパテトが口を開いた。

「だあ・かあ・らあ、一体どこを見てんのよ!!同行している人なら、目の前にいるじゃない。アンタ、この人達が見えないの?」

 そう言って、パテトが後方の行列を指し示す。

「この方々が、私達の同行者です。全員で327人いらっしゃいます」

 パテトの大雑把な説明に、イリアが細かい内容を追加した。


 ここにきて、門番はようやく状況を把握した。今日は通行する者が多いと思っていたが、その行列そのものがシャルル達の同行者だったのである。


「まあ、正直なところ、皆さんはアナライの街を復興するために、資材や人手を求めてリーベに来たんですけどね。まあ、それでも、一応同行者には違いないので・・・通っても良いですか?」


 唖然としていた門番が、頷くことで通行を許可した。いくら用事があるからといって、プライドが高く気難しい竜士族が同行するなど有り得ないことである。同じ竜士族としてそれが分かるだけに、門番にはこの状況が信じられなかった。


 シャルル達が通り過ぎ、同行してきた竜士族の順番になる。そこで、門番は先頭の中年男性に声を掛けた。

「あの者達は、一体何者なんだ?」


 すると、先頭の中年男性は、シャルル達に背中を見詰めながら答えた。

「我々の英雄ですよ。彼等のことは、未来永劫アナライで語り継がれていくでしょうね」

 竜士族が他種族に対し、これほどまでに高い評価をするなど考えられないことだった。


「ようやく来たのか?待ちくたびれたぞ」

「お仕置き確定」


 不意に背後から声が聞こえ、門番が街の方向に振り向く。そして、そこでシャルル達に声を掛けている人物を目にして驚いた。その2人は、このギガンデル神国では誰もが知っている人物だった。


 身体に沿った真っ赤な衣服に身を包み、不遜な態度で仁王立ちする女性。深紅の髪に深紅の瞳。存在そのものが赤い。

 もう1人は、動き易さに重点を置いたゆとりのある青い服を着用し、青藍の髪に青藍の瞳の女性。存在そのものが青い。


「あっ!!」

 シャルルは全くの初対面であったが、その2人を目にしたパテトが反応し、テクテクと歩み寄っていった。

「とりあえず、お腹空いたから何か食べたい」

「何だそりゃ!!」

「挨拶必須」

「お師匠様達、お疲れ様です。えっと・・・お腹空いた」


 「お師匠様」という単語を耳にし、シャルルは赤と青の2人がパテトの修行を手助けした人達だということに気付いた。そうであるならば、2人はオーズのことを知っているかも知れない。


「初めまして、シャルルと申します」

 シャルルが声を掛けると、赤い女性が振り向いて右手を差し出してきた。「私はエリウ・ベリマサ。そして、こっちが」

「イア・リドムル」

 エリウ、イアと、シャルルは順番に握手を交わした。


「僕はオーズさんから、『リーベに来るように』と言われてここまで来ました。お2人は、オーズさんがどこにいるかご存知ですか?」


 シャルルの問いに、エリウが苦笑いしながら答えた。

「オーズさん、ねえ・・・まあ、ワタシ達はそのオーズさん(・・・・)に言われて、アンタ達を迎えに来たんだ」

「同行拒否不可能」

「ねえ、お腹空いた」


 リーベは山頂にあるとはいえ、竜の都らしく広大な都市である。右も左も分からない状況で1人に人物を探すなど、雲を掴むような話だった。かなり時間が必要だと思っていた矢先の申し出に、シャルルは安堵して頭を下げた。


「よろしくお願いします」

「ねえ、お腹す―――ブヘッ」

 パテトがエリウにぶっ飛ばされて、大通りを100メートル以上転がっていった。


 シャルルは事情を説明し、その場でアナライの人達と別れた。シャルル達が再びアナライを訪れる時には、必ず綺麗な街並を取り戻していることを約束して。


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