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デスリー商会④

「え?」

 シャルルの口から飛び出した信じられない言葉に、マリアは思わず瞬きを繰り返した。

「じゃあ、証拠を見せましょうか」

 そう宣言すると、シャルルはその場に木箱を1つ取り出した。


 突然目の前に現れた木箱に驚くマリア。

「ア、アイテムボックス持ちでしたのね・・・」

 更に、木箱の中に詰め込まれた深紅の魔石を見て、マリアは目を見開く。この木箱が5箱分あると聞き、本当にデスリー商会を殲滅してきたことを理解した。


 飄々としたシャルルを見詰めながら、マリアは思案を巡らせる。

 それにしても、異常過ぎますわね。たった1人で、私達が総力を上げても潰せなかったデスリー商会を、しかも30分以内に壊滅させる戦闘力。一体何者なのでしょうか。


「後で船に乗せるにしても、とりあえず、今は僕が保管しておきましょう」

 シャルルは木箱に触れると、再びアイテムボックスに収納する。


 こうしてみると、アイテムボックスは破格のスキルである。シャルルが持つアイテムボックスの収納量は無制限であり、貴重品を常に大量に持ち運ぶことができる。持たない者と比較すると、かなりのアドバンテージだ。

 食料や水はもちろん、日常生活に必要な物は可能な限り収納されている。あの巨大なミスリル製の扉も、ここに眠っている。現状、シャルルに鋳造の技術はないが、ドワーフや錬金術師に会う機会があれば、武器の作り方を指導して貰えば良い。


 そこに、後始末を終えたダリルが戻ってきた。

 ダリルの報告によると、町の役人が一応被害状況などの確認をしたものの、ほとんど調査もしないまま遺体を回収して行ったらしい。この町の役人にも、かなりの金額がバラ撒かれているようだ。


「では、ひとまず僕は帰ります。明日の朝にでも、魔石の受け渡しをしましょう」

「承知致しましたわ」

 マリアは首肯すると、自身の商船が停泊している場所をシャルルに伝える。

 普通であれば「シャルルが魔石を持ち逃げするかも知れない」と、懐疑的になるところであるが、マリアは全く心配していなかった。シャルルが本気で持ち逃げするつもりであれば、ここに戻ってくる理由が無いからだ。


「では、今回の報酬を、お支払いしなければなりませんわね」

 マリアは依頼が達成された時点で、即座に報酬を支払うことにしている。それが、お互いの利益でもああり、信頼を勝ち取る手段でもある事を理解していた。

「それについては、魔石の受け渡しが完了した時点で請求します。とりあえず、お金ではありません」

「お金ではない?」


 頭上にいくつものクエスチョンマークを浮かべるマリアを尻目に、シャルルは頭を下げて退室した。


 翌朝、朝食を済ませ、シャルルは教えられていた場所に向かった。

 そこは定期船が発着する港ではなく、商船が利用する波止場だった。海流が渦巻くラナク海峡を渡らなければならないため、停泊している商船はどれも大型だ。


 その中に、ひときわ目を引く船がある。純白の船体に、商船に似つかわしくない大型の帆が2本も立てられている。そのスリムな船体は、商船というよりは軍船に近い。


「シャルル様、お待ちしておりましたわ」

 恭しく頭を垂れるダリルの背後から、マリアが姿を現した。真っ赤なドレスを纏うマリアは、元々の美貌と相俟って大輪の薔薇のように見える。

「これが、私の船ですわ」

 マリアが手で示したのは、あの純白の帆船だった。


「うわ・・・何か、足場が安定しないのは落ち着かないな」

 タラップを歩きながら、少し揺れる度にシャルルは足に力を入れて踏ん張る。その姿は傍から見ると滑稽で、マリアはつい声を掛けてしまった。

「シャルル様は、船は初めてのようですわね。そんなに力まなくても、波の動きに合わせれば大丈夫ですわ」

 マリアに見抜かれ頬を赤く染めたシャルルは、言われた通りに身を任せてみる。揺れた反動で海に放り出されるのではないかと危惧していたが、その方が無駄に力を使わず、しかもバランスが取れることを理解した。

「な、なるほど」

 ぎこちない笑顔を見せるシャルルに、マリアも屈託のない笑顔を浮かべる。


 空の船底に案内されたシャルルは、昨日回収した魔石入りの木箱を並べる。魔石は普通の石よりも比重が大きく、木箱5箱分でも船の喫水線が沈むほどであった。


「これで、依頼は完了ということで良いですか?」

「はい、間違いございません。では、報酬をお支払い致しますわ」

「ああ、それなんですけど・・・」

 シャルルは言い難そうに、口元をパクパクと動かす。それを見たマリアが笑顔で応対した。

「私にできることであれば、何でもおっしゃって下さい。私個人では無理であっても、我が家にできることであれば、何でもやらせて頂きますわ。シャルル様は、それだけのことをして下さいましたから」


 マリアの力強い言葉を聞き、ようやく意を決したシャルルが顔を上げる。そして、誰も想像しなかった報酬を要求した。


「マリアさんを、抱きしめても良いですか?」

「は?」


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