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タンガニ湖の呪竜②

 オーズはシャルル達に今後の課題を提供した後、高笑いしながら走り去った。どこに行ったのか分からないが、凄まじい速度で、一瞬にして見えなくなった。


「ごめん、悪いけど、3時間だけ、3時間で良いから寝かせて・・・」

 オーズを見送ってすぐに、シャルルはそう言い残して眠りに落ちた。丸7日間、一睡もしていないのだ。これは仕方ない。


 シャルルは地面に大の字になり、まるで死体のようにピクリとも動かない。

 その前で、パテトはアイテムボックスから取り出しおていた肉を、焼けた端から大きく開けた口に放り込んでいる。イリアはその隣で、大量の肉に胸焼けしながらも、両手を合わせて神に祈りを捧げる。


 7日振りに再会した2人は、互いの成長を感じていた。パテトの荒々しいだけであった魔力と闘気は穏やかになり、それでいて力強さを増している。今までも溢れんばかりだったイリアの魔力は更に膨大になり、神々しい色彩も混ざり始めている。一体何をしていきたのか互いに問わないが、自分自身のことを考えると、過酷な試練を耐え抜いてきたことは疑いようがなかった。


 3時間後、パテトの平手がシャルルの頬を連打した。

 パパパパパパン!!という連続音が響き渡り、シャルルが飛び起きた。


「な、な、な、な、何だ、魔物の襲撃!?」

 立ち上がって周囲を見渡すが、笑顔のパテトと、両手で顔を覆うイリアの姿しかない。

「おはよう。さあ、タンガニ湖に向けて出発しようよ」

「え?ああ、もう3時間経った?いや、何かほっぺがヒリヒリするんだけど?」

「・・・回復魔法ヒール

 イリアが小さな声で、回復魔法を唱えた。


「何か釈然としなけど、とりあえずタンガニ湖に向かおうか」

 シャルルは首を傾げながら、身支度を整える。パテトとイリアは既にいつでも発てる状況だったため、すぐにイシリアを後にした。


 イシリアは廃虚となっていたが、北へと続く道は整備されていた。他国との貿易のために開いているランズフロントから神都リーズへ向かう道は、この1本のみであり、イシリアの存在の有無に関わらず必要不可欠なのだ。


「ねえねえ、水竜って強いの?」

 パテトがシャルルの前に回り込み、後ろ歩きしながら訊ねる。

「さあ、よく分からないけど、あの白竜と同等の四竜でも深手を負わされる可能性があるなら、かなり強いんじゃないかな?」

「ふうん」

 パテトがニヤリと笑った。



 イシリアを出発して2日目の昼過ぎ、シャルル達はタンガニ湖に到着した。道中はやはり竜士族による見回りがあるためか、魔物の姿を目にすることすらほとんどなく、何の障害もなかった。


「それにしても、かなり広いな」

 呆ける2人の間で、タンガニ湖を眺めながら呟いた。


 対岸は霞んで見えるほど遠く、右も左も水面の終わりが見えない。透明度が高い水質にも関わらず、中心部に近付くに従い深い青色に染まっている様子から、水深がかなり深いことが分かる。面積が広く、水深も深い湖。これならば、水竜が棲んでいても不思議ではない。


「あっち、煙が上がってるけど」

 パテトが見詰めている方向に、明らかに人為的な煙が立ち上っていた。湖畔が木々で視界が悪いため何があるのかは確認できないが、その方角に誰かが住んでいることだけは間違いなさそうだ。

「とりあえず、行ってみようか。水竜の情報も入手しないといけないし」

 シャルルの提案に、2人とも同意して頷いた。


 白煙の方向へと伸びる道を進んで行くと、唐突に木々が途絶え、広々とした空間に出た。それなりの規模の街であることから、シャルル達が知らないだけで、ギガンデル神国内では著名な街なのだろう。

 

 湖側に3メートル以上はある木製の柵が作られていて、所々補修作業が行われている。よく見ると、湖側から何箇所か、放射線状に街並が破壊されていた。

 

「これは、水竜だろうな」

 シャルルの呟きに、イリアが反応した。

「としか思えませんね。でも、あんな柵なんて、作るだけ無駄な気もしますけど」

「だよねえ。竜士族は武闘派揃いなんだから、迎え撃てば良いのに」


 脳筋仲間のパテトが、当然、雑な意見をする。しかし逆に、竜士族が防御を固めようとしていることを考えれば、水竜は途轍もない化物だということになる。オーズも「四竜と互角」のような口振りであった。


「―――そう簡単ではないのだよ」


 不意に、3人の背後から声が掛けられた。振り返ると、丸い帽子を被り長い白髭を垂らした老人が立っていた。その小柄な老人は凛とした佇まいで、シャルル達を見詰めている。漠然と眺めている訳ではなく、観察しているといった感じだ。

「ところで、お前さん達は何者だ?見たところ、竜士族ではないし、竜士族を伴っているようにも見えないが・・・」


 指摘されて、シャルルはようやく気付いた。

 確かに今、同行している竜士族がいない。


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