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タンガニ湖の呪竜①

 シャルルが虚空の一点を見詰める。すると、そこに魔法陣が浮かび上がり、イルミンが姿を現した。その両手には、パテトとイリアの手が繋がっている。約束の7日。今日が、その7日目だ。


 着地したイルミンが2人に手を放した。


「パテト、どうだった?」

 シャルルが問うと、首と足に見たこともない輪を装着したパテトが、腰に手を当てて胸を張った。

「多分、今戦ったら、シャルルをぶっ飛ばせると思う」

 そう宣言するパテトを、シャルルが眺める。

 確かに、以前より魔力が増している気がするし、気の流れがスムーズになっている様に見受けられる。それにしても―――

「で、その輪は何?」

 問われたパテトは、首の輪を手で撫でながら答えた。

「ああ、コレ?取っても良いんだけど、まあ、人生常に修行だから」

 パテトの口から、「修行」という単語が飛び出した事にシャルルが驚く。シャルルの認識は、パテトは才能に胡坐をかいた天才。という残念な人であった。本気で口にしているのであれば、相当強くなっているに違いない。


 面倒臭そうなのでパテトを放置し、シャルルはイリアの方を向いた。よく見ると、イリアはいつも手にしていた杓杖を持っていない。代わりに、見たこともない歪な形の杖を手にしている。しかも、衣服まで変わっている気がする。


 シャルルの視線に気付いたイリアが、笑顔で説明した。

「これは、イルミンから頂いた世界樹の杖です。所有者の魔力を高める効果があると共に、杖自身が膨大な魔力を有しています。ですから、強力な魔法が行使できるようになるんですよ」

「世界樹の杖って・・・ほとんど伝説の装備品じゃないのか?」


 すると、イリアの隣に立っているイルミンが口を挟んだ。

「本来、世界樹の杖はハイエルフ以外の者が適合することはない。だが、イリアの魔力は、世界樹とリンクしたのじゃ。もしかすると、先祖の誰かが、ハイエルフと何らかの繋がりがあるのかも知れぬ。それと、これは、増えすぎた害虫駆除の謝礼でもある」

「害虫駆除?」

 シャルルの問いに、イリアとイルミンが目を合わせて笑った。


「いずれにしても、じゃ。これで一応修行は終わりじゃ。各々、それなりにレベルアップした。と、思う。まあ、何もしないよりはマシじゃろ。では、ワシは帰る。最終決戦には、気が向いたら参戦してやるからの」

 言い終えると同時に、イルミンが人形と入れ替わった。


 イルミン人形をイリアが抱き上げ、定位置である杖に絡ませる。すると、それを待っていたかのように、オーズが口を開く。

「では、修行の成果を見るためにも、卒業試験をするぞ」


「何ですか、それ?もう、イヤな予感しかしないんですけど」

 半分寝落ち状態のシャルルが、オーズに愚痴を溢す。既に十分鍛えられたし、今更、そんな試験が必要だとは思えなかったのだ。

「それでな、卒業試験というのはだな―――」

 他人の言葉に、オーズは全く耳を傾けなかった。


「ここ、イシリアから北に2日ほど行った所に、タンガニという名の湖がある。古より、その湖には巨大な水竜が棲んでいるのだ。竜士族が竜化したものではなく、本当の意味での竜だ。水竜は特に暴れることもなく、ずっと周辺の住民達と共存してきた。のだが・・・」

 話しをしていたオーズの表情が曇る。


「最近になって、湖周辺の街を襲撃するようになったのだ。被害は甚大で、近隣の街が全滅しそうな気配で非常にマズイ。野生の竜は魔法は使えない。その代わりに、体表を覆う鱗が堅固で、更にブレスが強力なのだ。並みの竜士族では勝てぬ。討てるとすれば、四竜以上の存在だけだ」


 そこで、イリアが口を開いた。

「それは卒業試験でも何でもなく、私達を利用して、その水竜を退治させようとしている、だけではないですか?そもそも、四竜に討てるなら、その人達に討伐させれば良いではないですか」

 イリアの隣で、ポンと手を打ち、パテトが何度も頷いている。イリアに言われて、ようやく状況を把握したらしい。


「そうなのだが・・・」

 バツが悪そうに後頭部を掻くオーズ。渋々といった感じで、話しを続ける。

「知っていると思うが、四竜のうち白と黒は邪竜に味方をしている。現在、都に残っているのは赤と青のみ。今の状態で双方は互角なのだ。もし仮に、赤か青が水竜の討伐で深手を負えば、その隙を突いて邪竜側に都が攻められる可能性が高い。だが―――」

「住民を見捨てる訳にはいかない。と?」

「そうだ」

 シャルルの言葉に、オーズが大きく頷いた。


「なるほど、その卒業試験やりますよ。その水竜に勝てないようでは、白竜や黒竜にも勝てないでしょうし。今回は貸し、ということで」

 シャルルが承諾すると、パテトとイリアも同時に頷いた。


「感謝する。無事に討ち取ったなら、その後は東に向かい、神都リーベを目指すと良い」

「了解しました」


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