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それぞれの道⑧

「ご、50キロって・・・そんなの、動ける訳ないじゃん!!」


 左右合わせて100キロの枷を付けられたパテトが叫ぶ。しかし、イアは相変わらずの無表情で、淡々とした口調で答えた。

「獣化すれば良いのではないかと提案します」

 ポンッと、それを聞いたパテトが手を叩いた。

「確かに・・・獣化!!」


 魔力と気をコントロールできるようになったパテトは、首輪を装着したままの状態で、いとも容易く獣化に成功する。それを見たイアの目が、僅かに開いた。

 全身に澱みなく流れる気。同時に行われている魔力の練成。どちらも、イアの想像を超える美しさであった。それを、首輪をした状態で実行していることに、イアは畏怖の念さえも覚えた。


「うん。まあ、重いけど、どうにか動く位のことはできそう」

 獣化を果たしたパテトが、片足50キロの重りを付けたままで飛び跳ねる。


「おいおい、絶対におかしいだろアレ。いくら獣化したからって、あんなに動けるはずがないだろ。しかも、首輪が付いたままなんだぞ?」

 呆れた口調のエリウが、パテトを見て溜め息を吐く。

「同意。ですが、少し本気で指導する気持ち上昇」

 ここでエリウとの会話を切り、イアも虚空から取り出したナイフを両手に装備する。

「実戦で学習です―――行きます」


 飛び跳ねていたパテトがイアに気付き、迎撃態勢に入る。だが、それよりも早く、懐に飛び込んだイアの膝がパテトの顎先を掠めた。

 間一髪で初撃を躱したパテト。しかし、慣れない重りでバランスを崩し、そこを狙ったナイフが真横に振り抜かれた。その攻撃を回避するため、パテトは腕をクロスさせて防ごうとする。更にその一瞬の隙を突き、イアの蹴りが放たれた。蹴りはパテトの腹部を的確に捉え、深々と内臓を抉る。


 パテトは衝撃を逃がすこともできず、息を吐き出しながら後方に吹き飛んだ。地面を何度も転がるものの、その回転を利用してどうにか立ち上がる。しかし、すぐに腹部を押さえながら、片膝を地面に突いて蹲った。


 パテトが今までに体験したことがないほどの、強烈威力の蹴りだった。

 今の一発で、肋骨が折れたかも知れない。

 鳩尾より少し上辺りが、ズキズキと痛む。

 明らかに異常である。パテトは今、両足に合計100キロの重りが付いているのだ。それを軽々と蹴り飛ばすなど、普通の者ではまず不可能だ。


 ゴクリと唾を飲む。それが合図になった。


 甲高い金属音が鳴り響く。同時にパテトが地面を転がる。手にしていたナイフでイアの攻撃を受け止めたものの、その衝撃のまま吹き飛ばされたのだ。


「攻撃はナイフで受け流す。受け止めてはダメ。20点」

 イアは自らが手にしているナイフを動かし、何度も説明する。

「ズバッときて、これをシュララランです」

「何で、説明するときだけ、擬音なのよ!!」


 立ち上がったパテトが地を這うように走り、左右に移動してフェイントを混ぜながらイアに迫る。微かに残像を残した動きに、イアが目を見張った。

 しかし、パテトの放った斬撃は軽々とイアのナイフに阻まれる。

「動きが単調。狙いが安易。でも、フェイントは良好。60点。もっと、キュイイインときてザザザンとしたら100点になる」

「だーかーらー、そこが音だけじゃ分からないっての!!」

 パテトが横に回転し、連続でナイフ叩き込む。全て受け流されるが、後方に宙返りして再び距離を取る。初手から近接では分が悪い。離れた位置から虚を突かなければ、攻撃が当らない。


 パテトはナイフを構え、左右前後にユラユラと動く。その速度を徐々に速めながら、再びイアに向かって飛び込んだ。陽炎のような揺らめく足運び。更に緩急をつけた事により、全く動きが読めない。しかも、加速する事によって、幾重にも残像が発生した。

 刮目するイア。それでも、歴戦の猛者は、幻惑を防ぐため目を閉じる。気配を感じ、手にしているナイフを虚空に突き出した。

 

 再び響き渡る金属音。しかし、今度はイアが衝撃にバランスを崩す。すかさず、イアの腹部にパテトの蹴りが打ち込まれた。後方に吹き飛ぶイア。それでも、その勢いを利用して後方に宙返りをして両足で着地した。


 常に無表情なイアが笑みを浮かべる。

「まさか、暗歩とは驚愕です。直後の蹴りも効果的。90点。もっとギュイーン、ドバンとすれば120点です」

「お腹空いてきたあ・・・」

「ム、聞いていませんね。粉砕します」


 イアの指導は続く。しかし、我慢ができなくなったのか、途中でエリウも参加した。寝る時間も惜しみ連戦を重ねるパテトは、ナイフの扱いに習熟し、ついに斬撃を飛ばし始めた。そんな技を教えていないイアは直撃を受け、激昂して大暴れ。


 足技のバリエーション、コンビネーション共に見る間に上達していくパテト。最終的には、2人がかりで、ようやく互角になっていた。


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