表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

215/231

それぞれの道⑦

 湖から飛び出したパテトは、宙を舞っている巨大魚を岸辺に蹴り飛ばす。そして自分自身も、陸地に向かって宙返りした。


「―――信じられない」

「同意。魔法で魚を焼かされるなんて・・・意気消沈です」

「そこじゃないだろ!!」

 的外れなコメントに、エリウがイアに突っ込みを入れる。そんな2人の眼前では、パテトが巨大魚の頭に齧り付いていた。


 見られていることに気付いたパテトが、エリウに対し舌を出す。

「自分の食い扶持は、自分で獲ってくれば?」

「いらんわ!!」

 パテトも全く関係ないことを口走り、エリウが地面を踏み付けた。


 エリウが「信じられない」と評したのは、魔法の首輪をした状態で獣化したことに対してである。確かに、気のコントロールをさせるために竜気を込めた首輪を取り付けた。しかし、こんな短期間で、あの状態のまま獣化できるようになるとは、想像の埒外だったのだ。


 エリウの予定では、前半の3日で気の存在を認識し、少しでもコントロールできるようになる。その程度で、十分に合格のつもりだった。獣化をスムーズに実行することにより、神獣化への負担を減少させる。そして、後半の3日で、イアにより武術指導をする。そういう予定を組んでいたのである。たった1日で気をコントロールし、しかも、首輪を装着した状態で獣化するなど、全く想定すらしていなかった。


 もう、エリウは認めざるを得なかった。

 ―――パテトは天才である、と。


「ああ、食べた、食べたあ!!」

 巨大魚を骨だけ残して食べ尽くし、地面に寝転んだ状態で飛び出したお腹を撫でるパテト。その姿を目にしたエリウは、思い直して呟いた。

「いや、天才などでは、断じてない」


 首を左右に振りながら否定するエリウの横を、姿勢を正したイアが通り過ぎて行く。向かう場所は、パテトの所である。予定よりも早いが、ここで指導係りが交代するらしい。


 満腹になり寝そべるパテト。その気の抜けた顔を、無表情のイアが見下ろした。表情が微塵も変わらないため、パテトにはイアの考えが全く分からない。しかし、その身体から発せられる殺気を感じ、パテトは慌てて横に回転した。

 その刹那、パテトが寝転んでいた場所に、ナイフが根元まで地面に突き刺さった。イアは地面に突き刺した2本のナイフから手を放し、パテトに告げる。


「では、今から武術訓練を始めます。武術の担当は私、イアです。攻撃力強化及び、生存率向上のために、ナイフを使用することを推奨します」


 イアは自ら突き立てたナイフを指差し、そうパテトに告げた。パテトはナイフを見下ろし、不満そうに口を尖らせる。得意としてきた無手の格闘を、真っ向から否定された気がしたのだろう。その態度を予測していたかのように、イアが続けて口を開いた。


「貴女の戦闘は近接スタイル。拳や蹴りによる攻撃が主体。しかし、それでは対戦相手に制限がある。現状では、戦力外になる戦闘が数多に存在」

「あ・・・うん。そうかも」

 パテトはイアの言葉に、素直に同意する。


 シャルルや仲間達が戦っているにも関わらず、援護どころか戦闘に参加すらできないことがあった。その時の阻害感や無力さを思えば、自分のちっぽけなプライドなど些細なことに感じられたのだ。

 封魔の爪も貰いはしたが、耐久力に問題がある。当初は良かったが、今のパテトが全力を出すと、かなりの確率で折れてしまうだろう。それに、やはり引っ掻くという動作では力の伝達効率が悪いのだ。


「ナイフを逆手で持ち攻撃する。斬る、殴る、刺す、慣れれば何でも可能。更に蹴り。現状、蹴りに威力皆無。猿も殺傷不可。ナイフの修得及び、蹴りの威力向上すべきと判断します」

「うん、分かった」

 再び、素直に頷くパテト。その瞬間、今度は両足に何かが取り付けられた。


「え?」

 パテトが自分の足首を確認すると、そこには、素材が不明の青い輪が取り付けられていた。その輪を目にしたパテトは、今回は流石に気付いた。これは、イアが造った特殊な魔法器具だろう、と。その予想は、当然のように的中する。


「では開始するので、そのナイフを手にして下さい」

 イアの攻撃を避けたため、少し離れた位置に突き刺さっているナイフに手を伸ばす。そして、何気なく足を一歩前に踏み出した。

 次の瞬間、パテトは前のめりに倒れ、顔面を地面にしたたか打ち付けた。前に出したはずの足が、微動だにしていなかった。そのためバランスを崩し、見事に顔面を強打したのだ。


 口に入った土をペッペッと吐き出しながら、パテト自分の足に付いている青い輪を見詰める。今度は、意識的に力を込め、全力で足を動かす。


 ―――動かない。


「おりゃあ!!」

 少し動いた。

「どりゃああああああ!!」

 足が持ち上がり、下ろした瞬間地響きと共に地面が揺れた。


「片足50キロです」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ