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それぞれの道⑤

「とりあえず、貴様が修得しなければならないことが2つある。その1つが―――ほら、それだ」

 「それ」と言われたパテトが、自分の身体を見下ろす。しかし、「それ」はどこにも見当たらない。そんな様子のパテトを見たエリウは、クツクツと笑う。

「違う。そうじゃないだろ。アホだなあ」

 アホと言われ、ムッとした表情で再びパテトが顔を上げた。


「それ、とは、気のコントロールのこと。エリウは感覚で説明するから伝わらない。具体的な名称で文法通りに話すべき。30点」

 イアの口調もいかがなものかと思ったが、パテトはその説明で合点がいった。この首輪が装着されている限り、体内で気をコントロールしなければ何もできないのだ。


「認めたくはないが、潜在能力でいえば貴様はワタシよりも上だろう。だが、現状ではその半分も力を発揮できていない。なぜだと思う?」


 そう問われたパテトは、これまでのことを思い出す。スタミナ配分ができず、自滅したことがあった。神獣化は、自力ではできない。そもそも、力のコントロールがままならない。


「獣化にしろ、竜化にしろ、変身するためには多大な魔力と気力を消費する。そして、変身後に活動するためには精神力、気のコントロールが重要になる。だが、貴様は、そのどちらもなっちゃいない。ただ力任せに、才能だけで強引に捻じ伏せているだけだ。そのままだと、力を100パーセント発揮することなど不可能だ」


 パテトはエリウの言葉を、素直に受け入れた。それが、パテト自身もずっと考えていたことと同じだったからである。


 そもそも、獣化はともかく、神獣化を果たした者は歴史的に考えてもほとんど存在しない。それほどの力が秘められているにも関わらず、自前の魔力だけでは変身できないなど、おかしな話である。そのような、分不相応な力が宿るなどということは有り得ない。つまり、パテト自身が未熟なため、上手くコントロールできていない。そう考える方が自然である。

 しかし、パテトは自分を鍛える術を持っていなかった。一体何が自分に不足し、それをどう補えば良いのか分からなかったのだ。しかし、目の前にいる2人は、それを与えてくれると言う。


 思わず笑みを浮かべるパテト。そんなパテトの首根っこを掴み、エリウが告げる。

「とりあえず、腹減ったから魚獲って来い」

「は?」


 次の瞬間、パテトの身体が宙を舞い、目の前にある湖に落下した。


「ああ、言い忘れたけど、その湖の水温は2度だ。気をコントロールできなければ、直ぐに体温を奪われて死ぬぞ」


 その声が聞こえたのか否か、パテトの身体は零度に近い水中に沈んだ。凍り付くような水温により、瞬時に体温を奪われる。手足を動かそうとするが、思うように動かない。焦れば焦るほど身体から力が抜けていき、徐々に水面が遠くなっていく。足掻いて、もがいて、息が続かなくなるが、水面に浮かぶことさえもできない。


 獣化さえできれば、こんな寒さなどどうとでもできるのに。

 そう考えているうちに、全身が動かなくなり、パテトの意識は遠くなっていった。


 パチパチと火が弾ける音が響き、パテトが目を覚ます。ゆっくりと身体を起こすと、そこは湖に投げ込まれた場所だった。目の前で、エリウとイアが焼き魚を頬張っている。

 一体どうなったのか。ずぶ濡れの服に、装着されたままの首輪。自分の姿を見れば、一目瞭然であった。グリュルルとお腹が鳴り、その音でエリウとイアが、パテトが目を覚ましたことに気が付いた。


「おう、どうにか生きてるな?まさか、一度も浮いてこれないまま沈むとは、思ってもみなかったぞ」

「軟弱。マイナス50点」


 余りの空腹と全身を襲う倦怠感で、パテトには怒りの感情さえも湧いてこない。モソモソと動き出し、2人の元へと歩み寄る。そして、焚き火の周囲に刺してある焼き魚に手を伸ばす。しかし、その手はエリウによって叩き落とされた。


「貴様は、何をしてるんだ?」

「何って・・・」

 弾かれた手を反対側の手で包みながら、パテトは呆然と顔を上げる。


「アホか。自分の食い扶持は自分でどうにかしろ。ワタシは魚を獲って来い、と言ったはずだ。獲れなきゃ貴様のメシは無い」

「メシではなく、食事」

「うるさいなあ。今はどうだって良いだろ」

 パテトは2人の会話を聞きながら、自分の置かれた状況を少しずつ把握していく。


 そんなパテトに、魚を咥えたエリウが告げた。

「気のコントロールをしろ。それができなければ、貴様は何も食えない。その首輪を着けたままで、獣化をしてみせろ。食えるかどうか以前に、それができないようなら貴様の旅はここまでだ。親の仇を討てないまま、どこかで隠れて暮らせ」


 パテトが小刻みに震える。自分に対する怒りと羞恥心で、プルプルと震える。

「・・・やってやる。そして、後で絶対にぶっ飛ばしてやるから!!」


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