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デスリー商会③

 鈍い音を響かせ、次々と壁にめり込む男達。周囲の壁に人型のオブジェが完成していく。

 一人として剣を振ることさえできず、見事なまでに飛んでいった。それでも、外にいた者達が異変に気付いて戻って来たこともあり、人数的にはほとんど変わらない。


「おい、コイツかなりやるぞ!!」

「逃がさないように囲んで魔法をぶっ放せ!!」

 その声と同時にシャルルの周りに、一重二重と人垣が形成されていく。そして、その後方では杖を構えた男達が呪文の詠唱を始めた。

 魔石の近くで魔法など使用すると大惨事になる可能性もあるが、そんな事を考える余裕もないのだろう。


「燃えろ燃えろ、この手に燃え盛る炎を宿し、敵を燃やし尽くせ―――ファイヤー!!」

 魔力を高め、呪文を唱えた魔法師の杖から炎が噴き出した。

 ペシ・・・

「え?」

 シャルルは自分に向けられた炎を、片手で軽く払い落した。炎はシャルルに火傷すら与えられず、床で呆気なく燃え尽きた。唖然とする魔法師。それでも、その隣にいた魔法師が異なる呪文を唱え始める。


「バカが。舐めて下級魔法なんか使うからだ!!

 大気に宿る火勢よ、我が声に応え敵を殲滅する凶器となれ―――塵すら残さず燃えてしまえ、ファイヤーボール!!」

 魔法士が掲げる杖の先端に、直径1メートルほどの炎球が出現した。魔力で圧縮された炎は球体の中で荒れ狂い、周囲に熱波を巻き起こす。球体の内部は鉄をも焦がす高温に達しているはずだ。もしアレが直撃すれば、人間など瞬時に焼き尽くしてしまうに違いない。

 その中級魔法であるファイヤーボールが、シャルルに向かって一直線に飛翔する。

 ペシ・・・

「え?」

 シャルルは飛んで来たファイヤーボールを、片手で軽々と弾き飛ばした。唖然とする魔法師。そんな魔法士に向かい、シャルルが厳しい口調で注意する。

「アナタは、アホなんですか!?

 こんな場所で炎系の中級魔法なんか使ったら、大惨事になるでしょ。もし、ここにある魔石に燃え移るようなことがあれば、この街くらいは余裕で消し飛びますよ!!―――ウォーターランス」


 シャルルの指先に、爪楊枝サイズの水製の槍が魔法師の数と同じだけ現れる。そして、その水槍が後方で立ち尽くしている魔法師に向かって飛翔した。次の瞬間、鈍い音とともに、魔法師達も壁のオブジェに仲間入りした。

「む、無詠唱で・・・しか、しかも中級魔法を手加減するなんて・・・・・」


 それを目の当たりにした残りの者達が、半泣き状態で武器を手にして叫ぶ。

「もう、全員で囲んでやってしまえ!!」

「「「おおお―――――!!」」」


 しかし、取り囲む事も時と場合によっては悪手となる。

 10人が同時に剣を叩き付け、誰もが「討ち取った」ことを確信した。しかし、振り下ろしたはずの剣が、中途半端な位置で停止していた。シャルルが銅の剣で、10人もの剣撃を受け止めていたのだ。

 有り得ない光景に驚愕する男達。しかも、シャルルが無造作に銅の剣を払うと、10人全員の剣がはね上げられてしまった。万歳の体制で無防備になった腹部に、シャルルが回転して剣の柄を叩き込んでいく。


 悶絶する間もなく、崩れ落ちる男達。

 その姿を見た残り全員が、一斉に襲い掛かる。シャルルはその攻撃を僅かに体を動かすだけでかわし、擦れ違いざまに首筋に手刀を落としていった。

 成す術も無く圧倒的な力の差によって倒されていく仲間を目の当たりし、残りの3人が出口に向かってて逃走を企てる。


「仲間を見捨てて逃げるとか、ちょっと許せないんだよね!!」

 何を思い出したのか、超絶不機嫌な表情に変わったシャルルは、ポケットに入れていた投擲用の小石を投げ付けた。その小石は視認できない速さで飛び、寸分違わず後頭部を打ち据えた。

「あ・・・・・ま、まあ、多分、死んでない・・・かな」


 小石によって床に倒れ伏した3人を最後に、デスリー商会に所属する者達の討伐が完了した。その時間、僅か10分。一般人より少しだけ強い、というレベルであれば、シャルルが相手では仕方が無い。


 シャルルは転がる男達を避けながら、魔石が詰め込まれた木箱に歩み寄る。これを回収しなければ、何のために来たのか分からなくなる。

 アイテムボックスを思い浮かべながら、シャルルが木箱に触れた。その瞬間、確かにそこにあったはずの木箱が一瞬にして消える。消えたといっても、消滅した訳ではない。シャルルのアイテムボックスに収納されただけだ。


 シャルルは全ての木箱をアイテムボックスに収納すると、悠々とその場を後にした。



「ただいま帰りました」

 30分程で戻って来たシャルルを、マリアは笑顔で出迎える。

「ご無事で何よりですわ」

 それは、目的を達成したことを喜んでいる笑顔ではない。近くまでは行ったものの、相手が多過ぎて断念した。或いは、アジトの場所が分からず、何もしないまま戻って来た。そう捉えていただけだ。本当にそのままの意味で、無事に戻って来たことが嬉しかったのだ。


「任務が完了しました」

「は?」


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