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完全なる竜③

「Ш Я Б Ю И」


 再び、白竜から竜語魔法が放たれる。

 それでも、構わずシャルルが疾駆する。あと数メートルという所で、シャルルを一陣の強風が打ち付けた。それは、先程降り注いだ白刃の強化魔法であった。辛うじて剣で受けるが、その勢いを止めることができず、鈍い音と共に吹き飛ばされた。地面を受身も取れないほどの勢いで転がり、百メートル以上先で地面から突き出していた巨岩に激突し、ようやく止まる。


 追い討ちはない。真の強者は、弱者にトドメなど刺さない。何度起き上がったところで、自らに傷を負わせる事ができないと知っているからだ。


 ―――そう、シャルルが何度立ち上がり、何度立ち向かっても。


 巨岩を深紅に染め、シャルルが吐血しながらも立ち上がる。その目には、未だ燃え尽きない闘志が窺える。それを確認した白竜は、一足飛びにシャルルとの間合いを詰めた。


「まさかとは思うが、通常の戦闘であれば己が勝てるなどと思ってはいまいな」

 剣を地面に突き立て、杖代わりにしたシャルルが白竜を見据える。

「ならば、斬り掛かってくるが良い。全力で、だ」


 白竜の言葉が罠であろうが、自信であろうが、もはやシャルルには関係がなかった。全力での一撃を放てる力が、既に残されていなかったのだ。これで討てなければ、勝てない。


 全身全霊を込め、正真正銘最後の攻撃を仕掛ける。剣を振り上げ、神速を乗せた必殺の一撃を放つ。空気が裂け、風が分断される。音を追い越す剣先が、白竜の頭上から閃光を伴いながら落下した。

 2人を中心に衝撃波が広がり、一瞬遅れ低い衝撃音が響く。そして、直下に直径数十メートルはあろうかというクレーターが発生した。


 直撃した。必殺の一撃は、白竜を確かに捉えた。しかし、シャルルの目に浮かんでいる感情は、絶望であった。


 シャルルの剣を、白竜が素手で受け止めていたのだ。


「もう、気が済んだであろう」


 呆然とするシャルルに対し、手刀を振り上げる。

 シャルルにはもう、避ける体力は残っていない。

 パテトが飛び出すが、間に合うタイミングではない。

 イリアのどんな魔法も、白竜には届かない。

 逸早く反応していたフィアレーヌが、竜化と同時に飛行する。

 飛行するフィアレーヌを目にした白竜の表情が激変した。

 シャルルを投げ飛ばすと、剣を抜いて突撃してきたフィアレーヌの細い腕を掴んだ。


「は、放せ!!」

 フィアレーヌは近衛騎士団の副団長をしいていたほどの強者だ。しかも、現在は竜化までしている。ザックの言葉を借りれば、飛行まで可能な鬼竜級の竜士族である。それでも、白竜は無造作に手首を掴んだまま放さない。そして、軽く当身をするとフィアレーヌの意識を刈り取った。


「フィア!!」

 パテトが叫ぶ。そして、震える足でシャルルが立ち上がる。

「フ、フィア・・・」


 白竜はシャルル達を気にも留めず、その場で「竜化」と口にする。すると、白竜の身体が巨大化し、見る間に1匹の白い竜へと変化した。

 全長が30メートルを超える純白の竜。その姿には、神々しさすら感じられた。フィアレーヌを手に掴んだまま、背中の翼を軽く動かす。たちまち烈風が吹き荒れ、シャルルを含めた全員が吹き飛ばされた。2度目の羽ばたきで、その巨体が一気に空高く浮き上がる。3度目に翼を打つと、瞬時に加速して空の彼方えと消え去った。


 どうすることもできず、シャルルはフィアレーヌの姿を見失った。パテトは叫んだだけで、何もすることができなかった。イリアは杓杖を握り締めたまま、硬直して動けなかった。


 しかし、それで良かったのだ。もし、少しでも動こうものならば、一瞬にしてこの世界から抹消されていたであろう。


 シャルルの膝が折れ、その場で崩れ落ちる。止まらない出血。それに加え、竜語魔法による強力な攻撃によるダメージ。もう、既に限界を超えている。


「シャルル!!」

 パテトが駆け寄り、ようやく動ける様になったイリアがそれに続く。しかし、ただそれだけだ。パテトにもイリアにも、シャルルを救う術が無い。普通の回復魔法では、何の効果もないのだ。呼吸が弱くなるシャルルを前にしても、2人は成す術が無い。


「やれやれ・・・」


 その時、聞き覚えのある声が聞こえた。反射的に、イリアが自分の手にしている杓杖に視線を落とす。その視線の先で、杓杖にしがみついていた人形が2メートル程の高さに浮き上がる。そして、2人を見下ろした。


「―――交代チェンジ、じゃ」

 人形がそう呟くと同時に、その場にイルミン本人が現われた。


「な、何で!?」

 驚いて尻餅を突いたパテトが、詰まりながらも声を発した。

「人形と自分を交換する、古代魔法の1つじゃ」

 不敵な笑みを浮かべて着地するイルミン。呆気に取られたイリアが呟いた。

「何でもありですね」


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