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ヤクモの深謀遠慮

 ―――ギガンデル神国の更に北。エストランド大陸の最北の地に、宗教国家ヤクモは在る。

 最北の地であるとはいえ、海水温が高いために気候は温暖であり、更に、水資源が豊富な肥沃な土地ということを活かして穀物の生産が盛んに行われている。王は置かず、代わりに教祖が10万以上に膨れ上がった国民を束ねている宗教国家だ。


 ヤクモの最大都市、教祖が住まうキョウが国都である。

 そのキョウの中心に建つ神殿に、ゆっくりとグリフォンが舞い降りた。乗っていた男が地面に足を着けた瞬間、グリフォンは忽然と姿を消した。男の召喚魔法が解除されたのである。


「ただいま戻りました」

 傲慢さの欠片も無く、地に片膝を突き頭を垂れる。

「オカティ、良くぞ無事に帰りました。それで、どうでしたか?」

 白い衣装を纏い、頭に金色の頭巾を被った人物が、穏やかな表情で彼を見詰めた。


「これに・・・」

 オカティが差し出したのは、木製の杖だった。しかし、それはただの杖ではない。膨大な魔力を秘めた、世界樹の枝からできているのである。そう、これは、ユラントヘイムのハイエルフが所持しているはずの杖だ。

 その杖を受け取った人物は、それを傍らに控えていた老人に見せる。

「使えそうですか?」


 老人はその杖を見るなり落ち窪んだ目を見開き、満面の笑みを浮かべた。

「おお・・・何という魔力!!これだけの魔力があれば、御館様と我等が大願が果たせるやも知れませぬ。おお、素晴らしい」


 それを聞くと、杖を手にしていた人物は、それを老人に渡す。

「では、ドーマ・アシン。これを預ける故、早く完成させて下さい。その時は、そんなに先ではありませんよ」

「はい。承知致しました」

 アシンはそう返事をすると、空間に溶けるように姿を消した。


「わ、私をどうしようと言うのだ!!」

 その時、移動中に気を失っていたエルフが目を覚ました。

「ここはどこだ!?私をこんな目に遭わせて、ただで済むと思っているのか!!」

「その方は誰ですか?」

 細められた目に、慌てて答える。

「世界樹の杖を放さなかったため、一緒に連れて来たエルフです」

「おい、聞いているのか!!この、下等な人間風情が!!」


 次の瞬間、音も無くエルフの首が宙を舞った。

 余りにも鋭利な斬り口故に、それが地面に転がって後、思い出したように鮮血が噴き出した。

「御館様に無礼を働くなど許せぬ」


 気配すら感じさせず、まるで影から染み出すように現われた者により、エルフは瞬殺された。最後に彼女の目に写ったのは、頭部を失った自らの身体であったに違いない。


 オヅノ・サコンは全身に黒装束を纏った、影の存在である。影に潜み、人知れず動き、再び闇に消える。そんな者達を、ヤクモでは忍者と呼ぶ。


 忍者であるサコンは、闇ギルド・デスマのリーダーでもある。世界各地で暗躍し、様々な事件を引き起こしている。しかし、その目的を見極めた者はいない。

 デスマは下部組織を使い、ユーグロード王国に大量の魔石を提供し、また、ジアンダから伝説の鎚を盗み出した。更に、サコンは当代の勇者であるシャルルとも遭遇し、目の前でフィアレーヌが所持していた光の護符を盗み出すことにも成功している。


「サコン」

「はっ」

 御館様と呼ばれた人物の穏やかな声に、サコンは素早く頭を下げる。

「これで、残るは1つになりました。勝算はありますか?」

 下げていた顔を上げ、サコンが答える。

「五分五分、という所でしょうか。しかし、大願成就のため、身命を投げ打ってでも必ず手に入れて参ります」

 再び深々と頭を下げると、サコンは自らの影に沈み込むようにして姿を消した。


「ではムボウ、そろそろ参りましょうか」

 振り返る事なく、背後へと声を掛ける。すると、巨岩のような大男が言葉を返した。

「はい、クロウ様。皆が待っておりまする」

 ウシワカ・ムボウ。クロウと呼ばれた人物の護衛であり、ヤクモ最強の武人である。


 そして、御館様と呼ばれし人物―――純白の袈裟と呼ばれる特殊な衣服に身を包み、頭上には金色の頭巾を被っている。彼こそが教祖、この宗教国家ヤクモの主たるクロウ・ミナトである。

 神殿の長い廊下を進み、正面の広場に面した場所に移動する。すると、その広場は数千人の人々で埋め尽くされていた。


 クロウの姿が見えた瞬間、人々は口を噤み一斉に頭を垂れた。誰かが強制したものではない。もちろん、クロウの指示によるものでもない。それでも、人々はクロウを目にした瞬間、頭を下げずにはいられないのだ。


 クロウは人々の前に立つと、穏やかな口調で語り掛ける。その声は不思議なことに、米粒のようにしか見えない場所にいる者の耳にも明瞭に届いた。


「その時は、確実に近付いています。皆さんの願いが叶う時は、もう目の前です。その時を・・・心安らかに待ちましょう」


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