表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

200/231

ランズフロントの闇⑥

 その様子を眺めていたザックが頷く。

「とりあえず、これで同行する竜士族という条件はクリアできたな。あとは、守備兵との対戦だが・・・まあ、これはやらなくても結果が見えてるな」

 苦笑いをしながら、ザックが頭を掻いた。


 とりあえず、通行の許可を得るため、ザックの案内でシャルル達は防壁に向かう。そして、堅固な門に隣接する駐屯所に入った。

「じゃまするぞ」

 ザックが顔を入れ、中に向かって声を掛ける。

「ああ、ザックさん。昨日はありがとうございました」

「いや、俺は何もやってないんだがなあ・・・」

 ザックと守備兵は当然の様に顔馴染みだった。ザックは自警団の団長だ。一緒に行動することもあるのだろう。


「それで、何か用ですか?」

「ああ、ちょっとな」

 ザックはそう言うと、振り返ってシャルル達に視線を送った。


 ザックが経緯を説明し、それを聞いた守備兵達の表情が歪んだ。

「ええ・・・もう今更じゃないですか。闘竜級の邪竜派の奴等を、簡単に倒していたんですよ?俺達が敵うはずがないですよ。それに、緊急事態に協力してもらいましたし、仲間みたいなものでしょ」

「だそうだ」

 シャルルに向かって親指を立て、ザックは笑顔を見せた。


 通行証を受け取ったシャルル達は、ひとまずザックの露店に戻ることにした。上手い具合に空腹であったし、今後の方針について話し合っておきたかったからだ。



「あいよっ!!」

 ザックがどんどん串焼きを作り、それをカウンターに並べていく。それが、どんどんパテトの胃袋に消えていく。

「コラ、他の人の分を食べるんじゃない!!」

 シャルルがパテトの頭を押さえ、自陣への侵入を防いだ。

 その隣では、フィアレーヌが串焼きを手にして、マジマジと見詰めている。どうやら、食べ物なのかどうか確認しているらしい。そして、意を決したのか、前進から闘気を噴出しながら口に入れた。一噛み、二噛み。フィアレーヌのが目を見開く。

「こ、これは!!この芳醇な香りと、香ばしくも肉汁が滴り、そしてこの繊細な歯ごたえ・・・伝説のレインボーチキンの肉ですか!?」

「いや、普通の鳥だ。いいから、とりあえず食え」

 本日分の仕入れた肉が無くなった頃、ようやくシャルル達の胃袋が満たされた。


「ちょっと、肉を仕入れて来る。店番を頼むぞ」

 そう言って肉屋に向かうザックを見送り、ようやく話し合いが始まった。


「とりあえず、情報の整理をしよう」

 実質、アルムス帝国の近衛騎士団を統括していたフィアレーヌが、慣れた調子で話しを進める。

「それで、シャルル達が仕入れた情報というのは?」


 そう問われた瞬間、シャルルが視線を逸らす。そして、イリアは俯き、パテトは頭上にクエスチョンマークを点している。正直なところ、シャルル達はまだ何もしていなかった。知っているのは、ザックが話してくれたことだけだった。しかもそれは、先ほどフィアレーヌもザック本人から聞いた内容だ。


 その様子を見たフィアレーヌは大きく溜め息を吐いた。

「まあ、まだランズフロントに来て2日だし、仕方ないことかも知れない。だけど、もう少し勇者としての自覚ある行動をだね―――」

 フィアレーヌは、なまじ常識があるだけに話が硬い。既に、パテトの瞼が重そうだ。

「―――とは言っても、私も何も知らないんだけどね」

「「「え?」」」

 フィアレーヌがペロリと舌を出した。


「知っての通り、ギガンデル神国は1000年以上前から、ほぼ鎖国状態だし、隣国とはいえほとんど情報が入ってこなかった。分かっているのは、400年前に魔王が出現したことくらいなのだ」

「魔王が?」

 フィアレーヌが何気なく口にした言葉に、シャルルが驚く。


 エリンヘリアルとして現われた600年前に実在した勇者ジーク・アレクサー。彼が告げたことをシャシャルルは思い出した。

 魔王は全部で4体。自分が封印した魔王は3体。200年ごとに復活するスライムの魔王。300年ごとに復活するアンデッドの魔王。そして、シャルルがまだ遭遇していない、600年前に暴れ回った最強の魔王、吸血鬼の真祖ノーライフキング。


 ―――つまり、ここに最後の魔王が封印されているのだ。


「それは、邪竜様のことだな」


 そこに、肉を仕入れに行っていたザックが戻ってきた。

 4人の視線を受けたザックは、苦笑いしながら屋台の中に入る。そして、話しを続けた。

「この国には、飛翔スキルが行使できる鬼竜級の上に、完全な竜に昇華できる方が6人いる。王の側近である、赤、白、黒、青の四竜。そして、神と崇められる最強の竜、国王様だ」


 話を聞いていたシャルルが違和感を覚える。

「6人ではないんですか?それだと、5人しか・・・」

「そうだ。この国には、国王様以外にもう1人、神竜級の方が存在する」

「もしかして、それが魔王?」

 ザックはシャルルを見詰め返し、返事をすることなく話しを続ける。


「もう一方が、国王様の兄上でいらっしゃるガリトラ様だ。その強さは、国王様以上。お前達も強いが、神竜級の強さは半端ではない。ブレスは平原を焼き尽くし、その魔力を込めた咆哮は大地に巨大な穴を開ける。あの門の向こう側に行けば分かるが、あちこちに爪跡が残っている」


 山の形が変わっただとか、湖ができただとか荒唐無稽な話が続く。その話しを聞きながら、流石にシャルルも冷や汗を流す。


「そして、何が原因かは知らないが・・・1200年前、ガリトラ様は突如暗黒面に堕ち、邪竜になってしまわれた。この国のみならず、他国の街を焼き払い、人々を蹂躙し、阿鼻叫喚の渦を巻き起こす魔王となってしまわれた。過去に2度復活されたが、その度に四竜と勇者が協力して、どうにか封印してきた」


「神竜級の竜士族。しかも、理性という箍が外れているとなると・・・」

 シャルルの呟きに、ザックが反応する。

「戦闘力では、間違いなく、全世界で最強クラスだ。しかも―――」

「しかも?」

「四竜のうち、白竜様と黒竜様が、ガリトラ様に下った。

 何があったのかは分からないが、400年前、ガリトラ様が封印された時に王城を去り、封印された地に移られたのだ。つまり、以前のように、協力して封印するということができない。しかも次は、四竜のうち二竜をも相手にしなければならないということになる。現実的に、勝つことは不可能だ」


 完全なる竜―――それは、1体で国の存亡に関わる存在だ。ワイバーンや地竜などの亜種ではなく、完全なる竜との遭遇は、即ち死である。理性という枷から解き放たれ、完璧な戦闘モードに入った時、海が割れ、空が落ちる。音速を軽く凌駕する移動能力に加え、付加効果が込められたブレス攻撃。そして、何よりも竜語を介した古代魔法は超威力である。現存する魔法や防具では決して防ぐことはできず、その威力は環境さえも破壊する。


「お前達が、一体何をしようとしているのかは聞かないが・・・まず、神都に行け。そこで自分達に何ができるのか、何ができないのか、しっかりと見極めた方が良い」


 ザックの言葉に、シャルルが静かに頷いた。シャルル達に竜に関する知識は皆無だ。この国の現状が分かっていない。確かに、情報収集のためにも、神都に行くべきだろう。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ