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デスリー商会②

「とりあえず、デスリー商会が消えれば良いんですよね?」

「え?・・・あ、ああ、そうですわね。確かに、あの商会さえ無くなれば、大規模な魔石の密輸は防げるとは思いますけど」


 シャルルは、妙な違和感を覚えていた。

 上質な魔石を密輸したところで、良質な武器を製造する以外に使いみちはない。確かに、他にも利用価値はあるが、日用品であれば割高になってしまうため、通常は高価な魔石ではなく安価なクズ魔石を使用する。つまり、正規のルートを通らない魔石の販売先は、軍事力を持つ何者か―――という可能性が高い。


「調査されていたみたいですし、デスリー商会のアジトがどこにあるのか、知ってますよね?」

 どこかに美味しいレストランありますか?的なシャルルの軽い口調に、マリアが慌てて注意を促した。

「あ、あの、確かに、シャルル様はお強いのかも知れません。ですが、相手は大規模な密輸組織です。アジトには腕が立つ者達が、30人以上はいますのよ?」

 マリアは期待と憂慮とが入り乱れた表情で、平然としているシャルルを見詰める。


「分かってます。でも、時間が経てば経つほど組織は大きくなっていきますよ?

 それに、無料タダで行く訳ではありませんし。成功した暁には、当然、追加で莫大な報酬を請求しますから」

 シャルルは人差し指と親指で円を作り、その穴からマリアを覗いて笑う。

 その笑顔を見たマリアは大きく目を見開き、やがて深い溜め息を吐いた。

「どうか無事に、生きて帰ってきて下さい!!」



 デスリー商会のアジトにマーキングされた地図を受け取ると、シャルルはスイートルームを後にした。

 襲撃者が全滅した直後だということを考慮すれば、デスマが即座に動くとは考えられない。それに、最高級の宿ということもありセキュリティは万全で、簡単には外部からの侵入者を許さない。ひとまず、シャルルに後顧の憂いはない。


 シャルルは暗闇に身を投じると、移動速度を速めた。


 宿から高速移動すること数分で、目的の場所に辿り着く。場所は港の北に位置する倉庫エリアだった。大量の物資が貯蔵してある巨大な倉庫が、10棟余りも立ち並んでいる。その一棟一棟が、二階建て家屋3軒分ほどの大きさである。

 目の前は海であり、闇に紛れて波止場に船を着ければ密輸などやりたい放題だ。それに、この辺りには民家も無く、人目を気にする必要がない。仮に誰かに見られたとしても、倉庫区画で商人の身形をしていれば、不審に思う者もいないだろう。


 地図上に印が付けられている倉庫の屋根に飛び乗ると、シャルルは天井に小さな穴を開ける。そして、見下ろす角度から倉庫内を確認した。


「1、2、3・・・」

 思った以上に、倉庫内に人が多い。恐らく、30人以上はいるだろう。

 この街にいるデスリー商会の関係者が、全員ここに集結している可能性もある。マリアを襲撃して返り討ちにされ、しかも、上部組織からの刺客も討ち取られているのだ。そう考えれば、当たり前の行動なのかも知れない。

 身を寄せ合っていれば安全だと、弱者ほど錯覚する。

 ある意味で正解だが、今回に限っては悪手だ。

 今、この場にいるのはシャルルなのだから。


 次の瞬間、シャルルの姿がその場から消えた。


「結構な数の魔石が集まってますね」

「そりゃあそうだろ。アルムス帝国のダンジョンから獲れたCランク以上の魔石が、全部ここにあるんだからな。って、オマエ、誰だ?」

 魔石が詰め込まれた木箱を管理していた男が、突然話し掛けてきた男を見て首を捻る。今までに、全く見たことがない顔だったからだ。

「よくもまあ、こんなに密輸しましたねえ・・・」


 大人が余裕で入れそうなサイズの木箱が5個。それら全てに、隙間無く深紅の魔石が詰まっている。この量から考えると、サリウで採取された物だけではなく、他のダンジョンや貯蔵されていた物までもが、この場に集められているとしか思えない。


 魔石とは厳密には石ではなく、魔力が凝固してできた結晶である。それを加工する事により、魔力を使用する道具や武器を作り出すのだ。現代の人間にとって、必要不可欠な物となっている。採取とは呼ぶが、魔石は土に埋まっている訳ではない。魔物が生命力の源として体内に持ち、人間の心臓と同様に生命活動を維持している物だ。魔物を1体を倒せば1個。ランクが高くなるに従い純度が高くなり、魔石のランクも上がるのである。


 木箱を覗き込んでいるシャルルが侵入者だと気付き、遠巻きに取り囲んで武器を構える男達。その中の一人が凄味を効かせて叫ぶ。それをきっかけにして、周囲から罵声が飛び交った。

「おい、オマエ!!一体どこから入って来やがったんだ!!」

「ここがどこだか分かってるのか、コラアッ!!」

「死んだぞテメェ!!」

 小物過ぎる台詞を耳にし、シャルルは嘆息する。そして、大きく溜め息を吐いて天井を指差した。

「えっと、上から。

 そしてここは、密輸業者のアジトでしょ?」

「「「「「ふざけんな、コラああああっ!!」」」」」


 取り囲む男達が一斉に襲い掛かる。その真ん中にはシャルル。その中心部から一陣の風が巻き起こる。次の瞬間、取り囲んでいた男達が、蕾が開花するように、外に向かって仰向けに倒れた。

 唖然とするデスリー商会の者達を無視し、銅の剣を手にするシャルルが疾駆する。呆然として動けない者を狙い、死なない程度の剣戟を腹部に炸裂させていった。


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