ラストダンジョン①
ユーグロード暦1272年―――
勇者が魔王を封印して200年後、世界の中心と言われるムーランド大陸の最北の地にて、魔王ベリアムは復活した。ラストダンジョンと呼ばれる最果てのダンジョンを本拠地とし、魔物の軍団を編成しつつ再び全世界に対し、宣戦を布告した。
ユーグロード王国は200年前の勢力を失ってはいたが、勇者の預言を継承し、その準備を怠っていなかった。魔王を討伐するための人材を育成し、魔王復活と同時に、当代の勇者も迅速に発見し管理下に置いていた。
魔王復活から半年。ユーグロード王国で編成された勇者のパーティは、早くもラストダンジョンの入口に到達した。残すはダンジョンに侵入し、魔王を討伐するのみである。
勇者パーティのリーダーである金髪碧眼の美麗な青年が、シャルルを見下すように命令する。
「勇者様、そこに荷物を置いて、この扉に手を当ててもらえますかね?」
「はい?」
「はい?じゃねえよ!!この扉は、勇者じゃなきゃ開けられねえんだよ。早くこっちに来て開けろ!!」
「は、はい!!」
名ばかりの勇者であるシャルルは、パーティのリーダであり、戦士職として前衛を務めているダムザの指示に従う。ダムザの本名はダムザ・ユーグロード。ユーグロード王国の第二王子である。
最後尾に並んでいたシャルルは荷物を地面に置き、ダンジョンの扉前へと移動する。どういう理屈なのかは分からないが、勇者でなければ魔王に挑戦すらできない仕組みのようだった。
停止しているパーティメンバーを最後尾から追い越し、先頭のダムザの元に辿り着く。そして、目の前にある扉に手を触れた。すると、漆黒の山肌に取り付けられた頑強な扉が、ギリギリと大きな音を響かせながら開いた。
「よし!!オマエら、行くぞ!!
ああ、勇者様は、足手まといになるから、ここで待ってても良いですよ。ハハハハハハ!!」
「確かにそうですね!!ハハハハハハハ!!」
「でも、また勇者限定の仕掛けがあるかも知れないから、連れて行かないとダメなんじゃないですか?」
「仕方ない、まあ、連れて行ってやるか。
荷物、ちゃんと丁寧に運べよ!!」
「ハハハハハハハ!!勇者様、使えなさ過ぎるんですけど!!」
シャルルは愛想笑いを浮かべ、最後尾へと戻る。
笑われても、シャルルは笑顔で頭を掻くだけだ。自分が役に立たないことを、一番良く理解していたからだ。
―――――この世界には、ステータスボードと呼ばれるマジックアイテムが存在する。
10歳になるとステータス診断を受診し、将来性があると見込まれた者のみが所持することを許されるアイテムだ。縦横20センチ、厚さ0.5センチほどの銅板に似た板に、署名した者のステータスが表示される。ステータスボードの所持が許可される者は全体の3割程度であり、全員が持てるというものではない。
ステータスボードには署名した者の職業および、体力・力・魔力・防御力・スキル等の情報が表示される。通常の生活において開示することはまずないが、ギルドへの登録、王立学校の受験資格を得るためには必要となる。そもそも、ステータスボードを所持できない者は、その資格自体がないのだ―――――
勇者のパーティは、シャルルを含めて7名。
リーダーであるダムザは、レベル38の戦士。一般人のレベルは5前後。一般兵士がレベル8前後。近衛兵や部隊長クラスがレベル15程度なので、破格の戦闘力と言える。現に、ここに辿り着くまでの戦闘で、危険な状態に陥ったことなどなかった。
そして、ダムザの傍でシャルルを笑っている人物が、アドバン・ラザール。伯爵家の二男で、レベル37の剣士。その隣の女性は、ララ・ローランド。侯爵家の長女であり、レベル35の魔道士。そして、唯一シャルルを心配そうに見詰めている人物が、イリア・テーゼ。公爵家の二女であり、レベル34の準聖女。職業適性は血と言われていて、高レベルに到達する者はどうしても貴族が多くなる。
その後ろに、レベル42の弓士、エルフの国、ママイオ国の第三王女のコルド・マーマイオ。狼の獣人、レベル38の武闘家、王国武道大会三連覇中ガザンドラン・ザガールだ。
最後に当代の勇者、シャルル・マックール。レベル19の勇者だ。スキルなし、魔法適正なし。本格的にお荷物。なんちゃって勇者。この世界では珍しい漆黒の髪と漆黒の目が、200年前に現れた勇者と同じらしい。しかし、似ているのは本当に「外見」だけだ。
とりあえず戦闘には参加しているため、偶然魔物を倒すこともあり、どうにか即死しない程度にはレベルが上がている。