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ランズフロントの闇④

 防壁は海中まで続いている訳ではないため、どうしても海岸線には隙間ができてしまう。そこには見張り台と共に守備兵が常駐しているが、その数は僅かだ。そこを集団で襲撃されては、突破される可能性もある。邪竜派は、そこを突いたのだろう。


 ランズフロントは南北に3キロ程の街だ。防壁が途切れる北の海岸線までは、直ぐに到着する。シャルル達の目の前に防壁が近付いてきた。それと同時に、激しい戦闘音が聞こえてくる。


 北の端に到着すると、至る所で竜士族同士が拳をぶつけ合っていた。しかし、互角ではない。明らかに、黒い装束に身を包んでいる方が押し込んでいる。しかも、守備兵3人に対し、邪竜派は倍の人数であった。


「闘竜級は竜化が使える。身体強化までしかできないが、それでも一般の竜士族の2倍の膂力になる。このままだと全滅するぞ」

 そう口にすると、ザックは邪竜派同様に竜化し、乱戦の中に突入した。


  その姿を確認したシャルルが、振り向いて同意を求める。

「じゃあ、僕達も参戦しよう―――あれ?」

 既に、そこにパテトの姿は無かった。代わりに、背後から甲高い掛け声が聞こえる。

「アタシの前に道は無い。アタシの後ろに道ができる!!」

 意味が分からない。しかし、竜化しているはずの邪竜派の男が宙を舞った。


 あれほど分が悪かった戦況が、パテトの参戦により一気に覆る。黒装束の男達が次々と吹き飛び、地面にはいつくばっていった。


「では皆さん、そこに並んで下さい。―――回復魔法ハイヒール

 怪我をしていた守備兵の人達に、イリアが治癒魔法をかける。すると、守備兵達の傷が、何の痕跡も残さず消えた。


 驚愕する守備兵を尻目に、シャルルも剣を抜く。

「とりあえず、意識を刈り取れば良いのかな?」

 次の瞬間、視認できない速さで、シャルルが次々と男達の後頭部に一撃を放って昏倒させていった。パテトによって叩き伏せられた者を含め、邪竜派の襲撃者10人が完全に沈黙した。


 竜士族でも切れない強固な縄で拘束し、邪竜派の者達は拘束され、何処ともなく連行されて行った。それを見送るシャルル達に、守備兵が声を掛けてきた。

「協力感謝する。見たところ竜士族ではない様だが、理不尽なまでに強いな。是非、弟子にして欲しい」

「え?」

「いや、冗談だ。冗談」

 全く顔が笑っていない。恐るべし竜士族。

 そこにザックが加わった。

「とりあえず、一緒に飲みに行くか!!」


 食べる、戦う、食べる、戦う・・・行動パターンが、パテトと完全に一致している。ある意味分かりやすいが、かなり面倒臭い。シャルルは大きな溜め息を吐いた。


「ご飯、ご飯、ご飯」

 スキップをしながらシャルルの回りをグルグルと回るパテトを無視し、ザックに返事をする。

「お誘いはありがたいけど、宿屋が・・・」

「ん?宿屋は、どこなんだ?」

「港から一番近い―――」

「ああ、よし、そこで飲もう。その宿屋はな、料理が美味いので有名なんだ。まあ、竜士族以外には出さないがな」


 ここまで徹底していると、むしろ清々しい。それにしても、どうしてこんなにまで他種族を嫌うのだろうか。しかも、国民全体でとなると、少し異常だ。


 押し切られる形でザックと共に宿屋に戻ったシャルルは、受付係やオーナーの対応が激変したことに唖然とした。眉さえピクリとも動かさなかった受付の少女は満面の笑みを浮かべ、オーナーはわざわざ奥から出て来て出迎えたのだ。もしかすると、本来は愛想の良い人達なのかも知れない。


 案内すらされなかった1階の食堂に通され、ザックと共にテーブルを囲む。すると、豪華な食事が次々と運ばれてきた。酒も一級品で、異常耐性が低いのか、ザックは直ぐに顔を赤く染めた。


「いやあ、本当に今日は助かった。お前達がいなかったら、街は大変なことになっていただろう。連絡網が回っているはずだから、明日からお前達は仲間として扱われるはずだ」


 上機嫌で手酌をするザックに、思い切ってシャルルが訊ねた。

「特別扱いには感謝するけど、なぜそんなに他種族を排除しようとするの?」

 すると、ザックは手にしていたコップをテーブルに置いた。

「うむ、別に隠している訳でもないしな・・・」

 そう前置きをして、ザックは語り始めた。


「最初から、今の状態だった訳ではない。昔は交流もあり、ごく普通に国内にも他種族の者達は住んでいたし、竜士族も世界中に散らばっていた。

 ―――しかし、今から1000年以上前、人間が我々竜士族を裏切った。それ以来、他種族との交流は制限され、竜士族は強制的に帰国を余儀なくされたのだ。何があったのか、詳しいことは聞かされていない。だがな、国王はその心労から退位し、山に篭られた。何か重大な裏切り行為があったことは、疑う余地はない」


 再び酒を呷り始めたザックを眺めながら、シャルルは思考を巡らせた。


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