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ランズフロントの闇③

「強さこそ正義!!」

「強ければ仲間!!」

 そんな言葉を当たり前のように叫ぶ露店の主に、シャルル達は串焼きを山盛りにされていた。


 基本的に、竜士族は他種族を嫌悪するが、強者は受け入れる。拳で語り合い、剣を交えて火花を散らす。それで相手の力を認めれば、どんな種族であろうが熱い握手を交わす。店主が特別な訳ではなく、元々そういう脳筋しか存在していないのだ。


 既に食べ切れない量を焼いているにも関わらず、店主は上機嫌で串を焼き続けている。左右の頬を腫らし、頭に包帯を巻いているにも関わらず絶好調だ。


「いやあ、お前達は異常に強いな。もう、これは仲間だな。うん、そうだ仲間だ」

 基準が全く分からないが、店主は涙を流しながら何度も頷いている。


 折角の機会なので、シャルルは情報収集を始めた。串焼きの方は、放っておいてもパテトが胃袋に詰め込むだろう。


「あの、オジサン」

 シャルルが話し掛けると、店主は指を立てると左右に振った。

「俺の名前はザック・バーガス。ザックと呼んでくれ」

「じゃあ、ザックさん。向こうに見える防壁は、やはり通り抜けできないんですか?折角ここまで来たので、あの向こうにも行ってみたいなあ・・・とか思っているんですけど」

 それを聞いたザックは、豪快に笑いながら断言した。

「まあ、無理だな」


 肩を落とすシャルルを見て、ザックは話しを続けた。

「いや、絶対という訳ではないのだが、条件が厳しいんだ。

 ・・・あの防壁はなあ、入国を拒否するという意味もあるが、もっと別の役目も果たしている。つまり、敵は外にいるだけとは限らない―――おっと、これは失言だな」

 大きい手で大男が自分の口を塞いでも、可愛さの欠片もない。


「それで、入国の条件というのは?」

 食い下がるシャルルに、ザックが怪訝な表情をする。それでも、その入国条件を教えてくれた。

「まず、力だな」

「は?」

「力を示すことだ。俺達は強ければ認める。これは竜士族の特性だ。この部分は、絶対に曲げられない。つまり、あの防壁の門番をぶっ飛ばさなければ、通ることはできない」

 シャルルは思わず 「全員そうなのかよ!!」と、叫びそうになったが、ここは流石にグッと堪える。


 ザックの話は更に続く。

「そして、もう1つ。国内を移動する時には、竜士族の同行が必須だ。これが、絶対に不可能だ。まず、そんな奴はいない」


 その時だった。竜士族の若者が、串焼きの露店に飛び込んで来た。

「ザ、ザックさん!!」


 名前を呼ばれたザックの表情から笑みが消える。その様子から、何か緊迫した事態が起きていることが分かる。ザックがすぐに、その若者に訊ねた。

「どこだ?」

「北の海岸線です!!」

「分かった、すぐに行く」

 ザックが返事をすると、若者はどこかに走り去った。


「すまんな、店仕舞いだ」

 若者を見送ることもなく、後片付けを始めたザックがシャルル達に告げる。


「何かあったんですか?」

「ん?ああ、防壁が作られた、もう1つの理由が起きたってことだな」


 もう1つの理由。それは先程の説明で、防壁が築かれた理由としてザックが口にしたことであろう。それを知れば、ギガンデル神国の内情が分かるかも知れない。


「それって、僕達が協力できたりしますか?」

 シャルルの申し出を受け、ザックが動きを止める。そして、暫く思案した後、それを受諾した。

「そうだな、人手はいくらあっても足りないくらいだ。強さ的にも申し分ないことだし、一緒に来てもらおう」


 店を片付けたザックは、防具を装着すると北に向かって移動を始めた。

「今から言うことは、他言無用にしてくれ。約束できるか?」


 並走するシャルルに、ザックが真剣な表情で訊ねる。シャルルはその問いを受け、即座に頷いた。

「この国はな、今、内戦状態にあるんだ」

「え?」

「竜士族には、その強さにより階級がある。大半は、何も名称が無い竜だ。しかし、強大な魔物の討伐や、各地で開催される武闘大会で優勝したりすると成竜になる。俺はここだな。この階級は細かく分かれていてな、一番上が神竜様だ」


 国全体が脳筋だということに、シャルルは辟易する。この国では誰と会っても決闘になる予感しかない。


「その神竜様が問題なのだ。1人ならば何も問題はない。だがな、今、この国には神竜様が2人いるのだ。1人は国王様、もう1人が邪竜と呼ばれるお方だ」

「その2人が争っていると?」


 ザックは首を振り、その言葉を否定する。

「違う。暴れているのは、邪竜を崇める邪竜信者の若者達だ。奴等は邪竜こそが真の最強の竜士族だとして、それを否定する街や施設を襲撃しているのだ。邪竜を新国王とすることを最終的な目的とし、国内を暴れまわっているのだ」


 なるほど。と、シャルルは納得する。確かに、防壁を築いた理由の1つだろう。


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