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海の王者と消えた大陸⑤

 「不味い」と言いながらも、満腹になるまでクラーケンの丸焼きを堪能したパテトは、再び動き始めた船に酔い、甲板を転げまわっている。イリアは、そんなパテトを仁王立ちで見下ろす。どうやら、注意したにも関わらず、無視して食べ続けた結果に御立腹らしい。


 そんな2人を横目に、シャルルとエドワードは進行方向を見詰める。そこには水平線が広がっているだけだが、2人には違うものが見えているのかも知れない。


「お前、レリムア大陸のことをどれだけ知っている?」


 唐突なエドワードの問いに、シャルルは戸惑いながらも答えた。

「1000年以上前に、突如として消滅した大陸。その後、調査した者はいるが、その痕跡すら見付かっていない。だから、レリムア大陸など、ただの作り話であり存在していなかった―――こんな感じかな」

 シャルルが話した内容は、レリムア大陸に対する現代人の共通認識である。一部の熱狂的な信者の間では未だに信じられているが、現実的に考えて巨大な大陸が姿を消すなど有り得ない。


「だよな。多分、それが一般的な反応だ。だが、俺はレリムア大陸は在ったと思っている」

 その言葉に驚いたシャルルが、エドワードに視線を移した。エドワードはその視線を受け止め、不敵に笑う。


「レリムア大陸が、どんな場所だったか知っているか?」

 シャルルが左右に首を振ると、エドワードは満足したように頷いた。

「そう、なぜか誰も知らない。変だと思わないか?どうして、これだけ有名な伝説にも関わらず、その大陸がどんな所だったのか何も残っていないんだ?普通なら、どんな国があったとか、緑が豊かだったとか、何らかの伝承が残っているはずだろ。何も無い―――これは、どう考えても異常だ」


「というと?」


「何者かが、レリムア大陸の情報を意図的に抹消した。内容の無い伝承であれば、誰も信じない。信じないということは、存在しないと同意だ。だが、俺はレリムア大陸がどんな所かを知っている」


 驚きの余り、目を見開いて固まるシャルル。それを見てエドワードが再び笑う。

「まあ、そういう反応になるわな。俺も、この耳で聞くまでは信じられなかった。多分、古い爺さんの航海日誌を読んでも、笑い飛ばしていたと思う」


 エドワードは真剣な表情になると、シャルルに驚愕の真実を告げた。

「俺達人間は・・・何者かによって、記憶を改ざんされているんだ」


「は?」


 シャルルはエドワードが何を言っているのか、意味が分からなかった。

人間・・が、記憶を改ざんされている?」

 そう口にしたところで、シャルルはサンエレナード号の乗組員達のことを思い出した。

「まさか・・・」


「そうだ。普通、人間は魔物を忌み嫌い、共同で何かをやろうなどということは考えない。常に敵であり、お互いに憎しみ合っているからだ。だから、魔物・・は何もされていない」

 エドワードの言葉を、セイレーンのメアリが継ぐ。

「私達の世界では、レリムア大陸が在ったことは公然の事実なのよ。このセンタマリア海の真ん中に、1200年前まで確かにレリムア大陸は存在していたわ」


 驚きの余り言葉を失うシャルル。その背後でイリアも同様に、口を開けたまま固まっている。そんな2人の様子を見目にしたエドワードは、笑いながら告げる。

「最初に話を聞いた時は、俺も全く同じ反応をしたよ。だがな、メアリ達から話しを聞き、古い爺さんの航海日誌を呼んで確信した。間違いなく、レリムア大陸は存在した。しかも、暗黒大陸としてな」


「暗黒大陸?」

 新たな単語の登場に、シャルルが聞き返した。


「レリムア大陸には時空の歪みがあったらしい。だから、常に何もかもが不安定で、殆ど生物は存在しない不毛な大陸だったそうだ」

 その内容を聞き、シャルルが頷いた。

「だから、暗黒大陸だと・・・」

 しかし、エドワードは左右に首を振った。


「違う。この世界を滅ぼそうとする大悪魔とその配下の者達は、いつもレリムア大陸から襲来していたんだ。存在したという時空の歪みが周期的に異界と通じ、その暗闇から滅びの使者が出現した。だから、暗黒大陸と呼ばれているのさ」


 エドワードが大悪魔の存在を知っていたことに驚いたが、それが魔物にとっては周知の事実だと知り、シャルルは愕然とした。

 大精霊達が告げたように、ハイエルフが説明したように、大悪魔は存在し、この世界を滅ぼそうと狙っている。この事実を人間は知らない。1200年前の出来事も、人間の世界では大魔王と勇者が戦ったことになっている。


 勇者とは魔王と戦う存在だ。

 だとすれば、1200年前に大悪魔を追い払ったのは誰だ?

 人間の記憶から、レリムア大陸の記憶を消去したのは誰だ?


「まあ、行ってみれば何か分かるだろ」

「そうだな」


 シャルルは考えることを止め、前方に広がる大海原を眺めた。


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