海の王者と消えた大陸①
「俺は海賊王になる男だ」
イヤな予感がする・・・・・・
「海賊王に、俺はなるっっっ!!!!」
それは、いろいろ問題があるセリフだろ!!
周囲をハラハラさせながらも、エドワードが部下を乗船させてシャルルに相対する。
「約束通り、お前をクラーケンのいる海域まで連れて行ってやる。まだ、名前を聞いてなかったな」
船の前で仁王立ちするエドワードに、シャルルは笑みを浮かべる。
「僕の名前は、シャルル・マックール。よろしく頼むよ」
その笑顔に、エドワードも白い歯をみせた。
「ところで、お前達は・・・3人という訳ではないんだろ?何人くらいのパーティなんだ?」
今回の緊急クエストもそうである様に、クラーケン級の巨大な魔物の討伐は、通常、数十人、或いは百人単位で行われる。それでも退治されないクラーケンを討滅するには、もっと戦力が必要なはずだ。
「いや、この3人だけだよ」
シャルルの返事に、エドワードだけではなくメアリも固まる。当たり前に考えて、死にに行くようなものだ。
動揺を見せるエドワードに、今度はシャルルが訊ねる。
「この、サンエレナード号は、簡単に沈む船なのか?もしそうなら、他を探すけど・・・」
「そんな訳がねえだろ!!この船はなあ、どんな波に叩かれても、どんな風が吹き付けても、絶対に沈まない船だ。俺が、バーゴ海賊団が、絶対に沈ませねえ!!」
「―――なら、大丈夫だ」
何の気負いも感じられない声が、エドワードの耳に届く。
「は?」
「それなら、何の問題もない」
既に話を聞いていないパテトは置いておき、シャルルの言葉にイリアは同意の笑みを見せる。エドワードは俯くと、クツクツと笑い始めた。そして、その笑い声は次第に大きくなる。
「ハハハハハハ!!よし、行こうか。クラーケンをぶっ飛ばしに!!」
ずっと整備されてきたらしく、漆黒の船体にはフジツボの1つも付着しておらず、甲板はピカピカに磨かれていた。その一段高くなった場所に、エドワードが立つ。それを見上げる乗組員達の目に涙が浮かぶ。
かつて、漆黒の海賊船はセンタマリア海の盟主であった。
数多の海賊を打ち破り、幾度も海獣の脅威を退けた。
オルチとともに姿を消したサンエレード号。
その勇姿が、150年ぶりに帰ってきた。
再び、海の王者となるために。
宿敵、クラーケンを討ち取るために―――
シャルル達が乗り込んだことを確認すると、エドワードが手を上げた。
「出航する!!」
バーゴ家は、代々操船のS級スキルを生まれながらに持っている稀有な血統である。それ故に、どんな条件下であろうと、船を走らせることができた。そして、このサンエレナード号もまた、特殊な船である。漆黒の船体は異常なまでの強度と浮力を持ち、どんな荒波でも切り裂いて進む。素材は世界樹ではないかと言われているが、誰もその真相は知らない。最良の船長に最強の船。そして、海で最大の力を発揮する乗組員。その行く手を遮る者はいない。
入り江は、キヌイとトトスを始め、商人の船で埋まっている。その間を突き抜けて、外海に出るなど、普通に考えれば不可能である。しかし、突如現われた漆黒の船の進行方向に、まるで海が裂けるようにして道ができた。
商人は忘れても、船乗り達は忘れてはいなかった。
ずっと、この海の伝説として語り継がれていた。
漆黒の船に乗った英雄は、オスティが危機に陥った時に現われる。
船乗り達は信じている。
必ず、クラーケンを倒してくれる、と。
商船が作った道を、サンエレナード号が進む。
「勝手なものね。クラーケンに追い返されたオルチ様を罵ったくせに」
腕を組んで悪態をつくマーマンを、エドワードが嗜める。
「まあ、そう言うなよ。罵ったのは船乗りではなく、商人どもだ」
「そうよ。悪評を流したのは商人。海の者達は、本当の英雄が誰なのか知っているわ」
商船の間を通過し、外海へと抜け出る。その間、両側に並ぶ船の船員達は全員敬礼をしていた。それが、何よりの証拠であろう。
外海に出ると、船足が一気に速くなる。入り江では十分な風を受け止めることはできないが、ここではその性能を極限まで引き出すことが可能である。
「まあ、1日半くらいで目的地に到着すると思うぞ。こも船は足が速いからな」
エドワードは状況が落ち着いたのか、舵をメアリに預けた。エドワードは甲板の端に立つと、水平線を眺めながら口を開く。
「シャルルは、この海が、どんな海か知っているか?」
気にもしていなかったことを聞かれ、シャルルは口ごもる。実際、こうして船に乗るまで、全く考えもしていなかったのだ。想像さえつかない。
「知らない」
エドワードはシャルルが知らないことを前提に話していたのか、意地の悪い笑みを浮かべている。
「センタマリナ海は、別名レリムア海とも呼ばれている」




