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オスティと伝説の海②

 ルーキーの受付係は愛想笑いも見せず、気怠い雰囲気を漂わせながら対応していた。


 ルーキーのうち約3割は、1年以内に魔物の襲撃やイレギュラーに巻き込まれて命を落とす。更にその約半分が才能の限界を感じて辞めていく。1年以上冒険者を続ける者など、実際には2割程度しか存在しないのだ。更に、Cランク以上になれる者となると、本当に極一握りの選ばれた冒険者のみである。

 それほどの能力を持っている者達は、ある種のオーラを纏っている。毎日何十人と接している受付係は、ある程度才能がある人間の見分けができる。だからこその、この態度なのである。


 適当なアドバイスを受けたルーキーのパーティが、受付の若い女性職員に頭を下げて去って行く。そして、ルーキーの列に並んでいたシャルル達の順番になった。

「次の新人さーん、早くここに来てえ」

 この態度を許しているギルドもいかがなものかと思うが、ここがそういうギルド支部であるならば仕方が無い。


 シャルル達が窓口に立つと、カウンターの内側からギルド職員が値踏みするような視線を向ける。

「で、何?クエストの受注がしたいの?それとも、冒険者カード返却?」


 シャルルもイリアも、普段は自分達の能力を隠蔽している。一見すると、ただの若い冒険者にしか見えない。しかも、ここにいるのはシャルルとイリアの2人のみである。通常、2人組みのパーティが高ランクの冒険者である可能性はない。


 カウンターに肘をつき、受付の担当者が半目でシャルルに詰め寄る。

「早く用件を言ってくれない?私の仕事が終わらないじゃない」

 穏やかな笑みを浮かべながら小刻みに震えるイリアを手で制し、シャルルが受付の担当者に訊ねた。

「えっと、あの冒険者の行列はなんですか?」

 ベテラン冒険者が100人以上並んでいるのである。ギガンデル神国行きの船についても聞きたいが、そちらの方を先に確認した。


「はあ?新人さんには関係無いクエスト。内容が聞きたけりゃ、せめてDランクパーティになってから言いなさい。FだのEだの、下々の者はお呼びではないのよ。何?冒険者カード?そうよね、ギルドに登録してるなら、冒険者カードを見せないと・・・・・・」


 冒険者カードを確認した瞬間、ギルド職員の表情が激変した。青を通り越して、紫になっている。

「僕達、一応だけどAランクなんですよ。だから、話しを聞かせてもらっても大丈夫ですよね?」

 Aランクパーティは、実質冒険者の頂点なのである。 


「そ、そんな・・・嘘でしょ!?」

 受付の担当者は往生際悪く、シャルルの冒険者カードを鑑定専用のオーブに翳した。冒険者ギルドには、世界共通、全てのギルドと同期している鑑定用のオーブがある。そこには、冒険者本人のランクやステータス、パーティメンバーが表示されるのだ。


 次の瞬間、受付の担当者はその内容を確認して絶句した。

 シャルルはともかく、パテトはアニノート王国第一王女、イリアは公爵令嬢にして聖女だ。シャルルは知らないが、名前だけのパーティメンバーであるリルイは、マギナテクノ魔道国の技師長、つまり国家元首である。そして、フィアレーヌは、アルムス帝国の第三皇女なのだ。対応を間違えれば、斬首にされても仕方が無い顔触れと言える。


 ギルド職員は紫色になった顔をシャルルに向け、直立不動でダラダラと汗を流す。しかし、シャルルは情報を入手したいだけなのである。失礼極まりない対応はいつものことなので、特に気にもしていなかった。


「それで、あの行列は何ですか?」

 シャルルが再び、行列の方を眺めながら質問する。すると、受付の担当者は即答した。

「あれは、ギルドの緊急クエストに参加する冒険者達です。はい」


「緊急クエスト?」

  シャルルが質問を重ねると、受付の担当者は1枚の紙をカウンターに乗せた。

「これです。ここオスティからギガンデル神国へと向かう航路に、強大な海獣が出没しているのです。航行する船舶を軒並み襲い、その全てが沈められてしまって・・・」


 その説明を聞いている途中で、シャルルは丘から見下ろした時の光景を思い出した。

「なるほど、それで、湾内に商船が停泊しているんですね?」

「その通りです。そこで、ギルドがオスティのみならず、全世界に対し海獣の討伐クエストを発令したのです。そのクエストを受けた冒険者が、あの行列です」


 受付の担当者の回答により、シャルルの欲しい情報が手に入った。行列は緊急クエストであり、そのクエストが達成されない限り、ギガンデル神国には行くことができないのである。


「それで、あの人達は、いつ出発するんですか?」

「明日の朝です。凡そ、船で2日程の地点に海獣は出没するので、早ければ4日後には結果が分かると思います」

 ひとまず、最低でも4日は待たなければならない。


「それで、一体何の海獣が出没するんですか?」

 受付の担当者は小さな声で答えた。

「クラーケンです」


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