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オスティと伝説の海①

 カラルの町外れに転移したシャルル達は、街に立ち寄ることなく東に向けて出発した。


 ベリアムやヨハネスクのことは街の人達が話し合う事案であり、シャルルが立ち入るべきではない。どのような結論が出され、1人と1匹がどのような結末を迎えるのかは分からない。しかし、それで良いのだと、シャルルは思っている。



 イルミンが話していた通り、カラルから東へと向かう街道が延びていた。通行する者が多いのか、舗装してある訳ではなかったが、踏み固められた地面は随分と歩きやすくなっている。これからシャルル達が向かう街は、サリウ同様に他国との交易拠点である。しかも、造船所等も立ち並んでいるため、サリウよりも規模が大きい港湾都市だ。それ故に、アルムス帝国の直轄領になっている。


 カラルから徒歩で3日の距離にある港湾都市オスティ。そこに向かう道中に町や村は無く、宿泊施設などの設備は無い。自己責任により野営をしなければならない。しかし、当然のように兵士や委託された冒険者による魔物の駆除が頻繁に実施されており、十分に安全は確保されている。


 その街道を進むこと2日。通常よりも1日早く、シャルル達はオスティの見える小高い丘に到着した。眼下に広がるオスティの街。そこはサリウの10倍はあろうかという強大な入り江になっており、湾内には商船が折り重なるように停泊していた。


「想像以上に栄えている感じですね」

 イリア漏らした感嘆の声に、シャルルが同意する。

「確かにね。まあ、造船所なんかもあるみたいだし、定住している人が多いんだと思う」

「じゃあさ、名物料理とかあったりして?」

 パテトが2人の会話に、首を突っ込んで来る。

「いやいや、さっき、おやつに何か捕まえて食べてただろ?食べ物より、泊まる所と情報を集めるのが先だ」

 項垂れるパテトの頭をイリアが撫でる。いつの間にか、すっかり打ち解けているようである。


 オスティは海に向かっては開かれているが、陸地側には高さ5メートルほどの防壁が設置されている。街道はその防壁まで続き、木製の巨大な門で終点となっていた。


 シャルル達が開け放たれている門に辿り着くと、門番の兵士が声を掛けてきた。その背が高い兵士は、長い槍を立てたまま歩み寄って来る。

「やあ、君達は冒険者だよね?もしかして、ギルドからの依頼を受けて来たのかい?」

 

「ギルドの依頼?」

 シャルルが首を傾げると、3人を見た兵士はバツが悪そうに笑った。

「いや、申し訳ない。何でもないんだ。とりあえず、オスティは何かと賑やかな街だ。ゆっくり見物でもすれば良いさ」


 門番の兵士は、笑顔でシャルル達から離れて行った。

「冒険者と言っても、あんな若い子達に依頼する訳がないか・・・」

 兵士の呟きが、微かにシャルルの耳に届いた。


 頭上に疑問符が浮かぶシャルル。

 一体、何の依頼なのだろうか?


 オスティの街に入ったシャルルは、今後の方針についてイリアに意見を求めた。ちなみに、露店を見付けて駆け出したパテトは、既に姿が見えない。


「僕達の目的は、この街の港から船に乗り、海路からギガンデル神国に向かうこと。だけど、何をどうすれば船に乗れるのかも分からない・・・とりあえず、困った時にはギルドだと思っているんだけど。どう?」

 シャルルの問いに、イリアは殆ど考えることもなく答えた。

「それが良いと思いますよ。一応、私達はAランクパーティですし、無碍に扱われることはないと思います」

 イリアの意見にシャルルが頷いた。パテトと2人の時と違い、意見交換ができるようになったことを、シャルルは素直に喜んでいた。


「・・・えっと、パテトは―――」

「勝手に探して、後から追い掛けて来ると思いますよ。多分・・・」

「そう、だよね。多分・・・」

 シャルルはイリアを伴い、オスティのギルド支部に足を向けた。


 オスティの街は、交易の拠点であるためか確かに人が多い。造船所という働き場所があることの影響も大きいのかも知れない。そう、確かに人は多い。だが、シャルルの目には、何となく街全体が沈んでいるように見えた。


 ギルドのオスティ支部は、門から港に向かうメインストリート沿いにあった。街の規模が大きいためか、ギルド支部の建物も帝都並みの大きさだ。正面扉を開き中に入ると、そこには、100人余りの冒険者によって長蛇の列ができていた。その顔触れは大半がベテランと思われる雰囲気を纏っていて、少なくとも駆け出しの冒険者は見当たらない。


「何だか、人が多いなあ」

 溜め息を吐きながら列の最後尾に並んだシャルルに、ロビーの案内係りが声を掛けてきた。

「ああ、キミ、キミ!!ここは、ルーキーが並ぶ場所じゃない。ルーキーの担当はあそこだから、あの受付に行って!!」

 細身の若い男性職員が、空いている窓口を指差した。とりあえず、話しを聞きたいだけなので、シャルルは素直に職員の指示に従うことにした。


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