国境の町 イグスタルーグ⑥
一体、どんな材質で作られているのだろうか。男が手にしているナイフは、本当の意味で赤狼メンバーの3人目を真っ二つに切り裂いた。
そんな光景を目の端に写した反対側にいたメンバーは、高レベルであるが故に男に反応していまう。しかし、逆にそれが仇となった。男が投げたナイフは視線を逸らした瞬間、バラバラと3本に分裂する。薄い3本のナイフを重ねて投擲していたのだ。1本だと思い込んでいた赤狼メンバーは対処することができず、2本目を弾くと同時に、3本目のナイフが眉間に突き刺さった。
背後に倒れる仲間の姿を確認すると同時に、最後の赤狼メンバーがマリアを放り出して逃走を図る。振り向くこともなく、全力でメインストリートの方向に疾駆する。しかし―――
「その判断は間違ってないがよお・・・テメエと俺じゃあ、格が違い過ぎるんだよ」
ほんの数メートル進んだ位置で、空間が煌めくと同時に動けなくなる。男はゆっくりと移動し、背後から最後の1人の首にナイフを当てた。
「依頼人を置き去りにするってのは、流石に俺達でもしねえぞ?」
敷石が赤く染まると、糸の切れた人形のように最後のメンバーが膝から崩れ落ちた。
男はユラリと振り返り、シャルルを見詰める。
「テメエには悪いがよお、目撃者は消さないといけねえんだわ」
男が歪な笑みを浮かべた瞬間、シャルルの周囲がキラキラと光る。それを目にしたシャルルは、手にしていた銅の剣を真横に振り抜いた。
微かな金属音。そして、その音の原因がゆっくりと地面に落ちる。
鋼糸。鍛え上げられた超強度の細い鋼線が、青石の上に力無く横たわる。男はこの鋼糸を自在に操り、対決を優位に進めていたのだろう。敵に気付かれずに殺害するための、アサシン特有のハイレベルな技術だ。
「おお、これを見切るたあ、ちょっと驚いたぜ!!」
余裕の感想を述べながら、男が瞬動でシャルルの間合いに飛び込む。必殺のナイフが、シャルルの心臓目掛けて一直線に突き出される。しかし、シャルルはそのナイフを、右手の人差指と中指で軽軽々と挟んだ。
「はあ!?」
驚愕に見開かれる男の目。シャルルの手刀が、容易く男の意識を刈り取った。
殺しても仕方がないため、シャルルは男が意識を失っている間に鋼糸で縛り上げる。
シャルルが周囲を見渡す。瞬時に全滅した赤狼のメンバーが累々と屍を晒しているだけで、何の気配も感じられない。もう、危機は去ったと考えても良いだろう。
「大丈夫、ですか?」
警戒を解いたシャルルに、マリアが不安そうに歩み寄って来る。




