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敗戦と滅亡②

 コルドがエルトリア共和国に到着したのは、パテノを発って3日目であった。


 事前に連絡しておいた通り、協議員達は議会堂に集まっていた。集められた理由が、先日の敗戦にあることは明白だった。トラトス王国を合わせ6千人もの軍勢で出兵したにも関わらず、1500人程度の敵軍に負けたのだ。しかも、エルトリア共和国から出陣した3千人のうち、帰還した兵は3百人足らず。見事なまでの完敗である。


「一体、どんな無理難題を押し付けてくるのだろうか・・・」

「金か?国宝か?それとも、人質でも出せとでも言ってくるのか?」

「いやいや、我々の命を奪う気なのかも知れませんぞ」

「まさか・・・・・・」


 そこで協議員の会話が途絶えた。そんなことがあるはずがない―――とは言い切れないところが、若き国王ダムザに恐怖する理由であった。圧倒的な国力と、強兵を誇る軍隊。それを、惜し気も無く、他国の侵略に投入するのだ。しかも、トラトス王国、エルトリア共和国が従属した裏には、数々の陰謀も張り巡らされていた。まともに戦って、勝てる相手ではない。協議員の誰もが、そう思っているのだ。



「あれが、議事堂ですか?」

 巨大な円形の建物を前にし、コルドが傍にいるエルフに訊ねた。

「はい。あの銀色の建造物が、エルトリア共和国の最高機関になります。全ての協議員に召集をかけておりますおで、あの中で全員がコルド様を待っているはずです」


 その返事を聞き、コルドが口角を上げる。

「なるほど。では、あの建物ごと消してしまえば、大幅な時間の短縮が望めるのではないのか?」

 コルドの言葉に、エルフが恭しく頭を垂れる。

「その通りでございます」

「それでは、先に片付けるとしよう」

 そう言って、冷徹な目をしてコルドは笑った。

「力を貸しなさい」

「はい」


 コルドのすぐ傍にいたエルフが片手を挙げ、他の9人に合図を送る。すると一気に、周囲の魔素量が増幅された。10人のエルフが、内に秘めていた魔力を開放したのだ。魔法は基本的に、自分自身の魔力と、その場に在る魔素を消費して行使する。自分の魔力が高ければ、単独でも強大な魔法を行使することができる。しかし、1人の魔力など知れている。そのため、強力な魔法を行使する場合、魔力を秘めた道具や補助者を立てるのだ。


 コルドは10人ものエルフを自分の補助として、強大な魔法を放った。


「―――破滅の暴風」


 議事堂の真上に極小の光る球体が現われた。直径3センチほどの球体はゆっくりと議事堂へと降りていく。そして、それが屋根に触れた瞬間、そこを起点として暴風が吹き荒れた。

 天まで届く風の渦が、議事堂を瞬時に破壊して瓦礫を巻き上げる。その竜巻は、その風速ゆえに雷雲を発生させ、周囲に落雷の雨を落とす。損壊する街と雷の轟音により、断末魔と悲鳴が掻き消されていく。巨大化した渦が真空の刃を、周囲に撒き散らし、音も無く建物を切断する。構造物の破片は暴風によって凶器と化し、更に被害を拡大していった。


 10分後、創生された魔力が尽きた時には、議事堂のみならず、首都カロスの3分の1余りが瓦礫の山と化していた。

 エルトリア共和国の反抗心は、コルドの魔法が完全に刈り取った。たった11人で、一瞬にして協議会を殲滅し、首都機能のみならず国家の中枢を完全に破壊したのだ。そんな化物相手に、逆らう気など起きるはずがない。


 コルドはエルトリア共和国の軍権を完全に掌握し、軍部の力を利用して労働者の徴発を実行した。その数、約5千人。そして、すぐにイスタグローブの北に新設された造船所に、労働力として送り出した。



 強攻策と迅速な対応により、コルドが王都パノマに凱旋したのは出発から9日目だった。

 報告のため、コルドは謁見の間を訪れた。それに応対したのは、やはりダムザとリリスだ。


「宣言通り、10日以内に帰って来ましたよ」

 自慢気に報告するコルドは、ダムザに平伏することなどしない。たかが人間相手に、頭を下げる必要性を感じていなかったのだ。しかし、尊大な態度のコルドは、ダムザの言葉に唖然とする。


「うむ。しかし、随分と時間がかかったのだな。ガザドランは3日前に、作戦完了の報告をしてきたぞ。まさか、遊んでいたのではあるまいな」


 絶句して硬直するコルド。それを目にしたダムザが大声で笑う。

「まあ良い。ガザドランが異常なだけだ。しかしな、コルドよ。国王に対して、その不遜な態度はなかろう。もし、人間に平伏することが納得できないのであれば、我が真名を教えよう」

「真名?」

 コルドの表情が訝しげに歪む。


「我はノーライフキングと呼ばれし最強の吸血鬼、モルガン・カフカス。ダムザの肉体と精神は、完全に我が物となった。6百年振りに復活を遂げし我が目指すもの―――それは、世界を征服し、闇に葬ることである」



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