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魔王との再戦④

 しかし、何もかも消え去った空間に、縦横4メートル程度の立方体が残っていた。


「な、何だこれは?」

 ベリアムが気付き、その立方体に近付こうとする。その時、突然その立方体が消滅し、中からシャルルを始め、パテトとイリアも現われた。

「なぜだ。なぜ消えていない。マジックシールドごときでは、絶対に防げぬはずだ!!」


 絶対の自信を持って放った魔法であったのか、ベリアムは再び毒の唾を撒き散らしながら叫ぶ。シャルルはそれに対し、冷静に淡々と説明する。

「古代魔法だよ。水牢の結界といって、4大精霊の1つであるサラマンダーが1200年もの間、成す術もなく囚われていた封印魔法だ。それで自分を囲えば、中途半端な魔法で壊すことなどできない」


「ムムム、古代魔法だと?既に完全に忘れられた魔法のはずだ。それを人間ごときが、知るはずがない。そもそも、使えるはずがない!!」


 べリアムの言葉に、シャルルは首肯する。

「確かに、その通りだ。本来であれば、僕が古代魔法など知っているはずがない。でもね、あるダンジョンの隠し部屋で、古代魔法が載っている本を見付けたんだよ。そこに書いてあった魔法を、全部覚えたのさ」


 そこまで説明されて、ベリアムは思い出した。ラストダンジョンの最奥部の隠し部屋に、自分が収集した魔法の全てを保管していたことに。

「に、人間があああ!!我の蔵書を盗みおったのか!!まだ、読んでなかったのに!!」


 勝敗を決したのは、正に「まだ、読んでいなかったのに」であった。

 シャルルは荒れ狂うベリアムに向かい、古代魔法を放つ。その魔法はベリアム本体だけではなく、2体の小ベリアムに対しても同時に放たれた。


「―――風牢の結界」

 合計3個の立方体が、それぞれのベリアムを囲った。


「な、何だこれは!?」

 慌てふためくベリアムに、冷淡に言い放つ。


「それは、魔法の風による牢獄の結界。あらゆる魔法を弾き返し、どんな物理攻撃も無効化する結界だ。その結界を破壊しない限り、塵ひとつ外に出ることはできない。当然、その中では転移魔法も無効だ」


 驚愕の事実を知り、全身からダラダラと汗を噴き出すベリアム。

「その中で、高威力の魔法を発動させれば、細胞すら残さず消滅するだろう。収集だけではなく、内容を読んでおけば、解除できたものを―――地獄の業火(ヘル・フレイム)


 煉獄の炎が召喚され、結界の中を焼き尽くしていった。


 風牢の結界に召喚された地獄の業火は、その中にあった物を灰にし、更に超高温で燃え続けた。そして、炎が完全に鎮火した後、そこには何も残っていなかった。細胞の欠片も、魔力の残滓さえも、何もかもが焼失していた。


 パテトが警戒を解き、周囲を見渡す。周囲の森がベリアムの強力な魔法によって破壊されたが、世界樹には何の影響も出ていない。パテト自身はイリアの回復魔法により治癒されており、表面上の負傷は無い。シャルルは未だにボロボロのままだが、倒れそうな雰囲気ではない。イリアも装備の破損はあるが、現状は無傷だ。


 その時、あの幼いエルフが木陰から突然現われた。シャルル達の監視を命じられていたのか、戦闘が終了すると、駆け寄ってきたのだ。


「はい、これ」

 差し出された手に持っていた物は、小さな彼女が両手で持たなければならないほどの巨大なビンだ。その中には濃い緑色の液体が入っている。

「石化を解く秘薬。いるかと思って」

 シャルルは差し出された秘薬を受け取ると、アイテムボックスに収納する。


 そこに、パテトとイリアが歩み寄る。その顔には、安堵の笑みが浮かんでいた。

「これで魔王ベリアムも―――」

 そう言い掛けたイリアの言葉を遮り、シャルルが2人の手を掴んで告げる。

「まだ、まだ終わっていない」

「は?」

「え?」

 目を見開く2人に、更に驚くべきことを告白する。

「実は、転移魔法が使えるんだ。色々と制約はあるけどね―――転移」


 転移魔法は究極の禁呪である。簡単に、しかも一瞬にして望む場所に移動できる魔法など、本来あってはならないものだ。そのため、シャルルは殆ど使用することはないし、使えることも教えない。ただ、今回だけは、時間的な猶予を考えると他に方法がなかったのだ。


 視界がグニャリと曲がり、それが元に戻ると、3人はカラルが見える草原に転移していた。茫然自失の2人を余所に、シャルルはカラルの街に向かって走り出した。それに気付いた2人も、慌ててその後を追う。


 カラルの街並みを見たことにより、パテトとイリアは石化している街の人達を思い出した。確かに、石化した街の人達を回復させることが依頼であり、今回の最終目的である。魔王と対決することになったが、それは偶然である。


 シャルルはカラルの街に入ると、そのまま中心部に向けて走り続ける。

 ようやく、全てが終わる時が訪れたのだ。


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