魔王との再戦③
3体のベリアムが、離れた場所に移動して高らかに笑う。その声は重なり合い、まるで蛙の合唱のようだった。
「「「ゲロゲロゲロゲロ、グワグワグワッ!!」」」
「あ―――もう、うるさいっ!!」
巨木を弾き飛ばし、立ち上がったパテトが音を置き去りにして疾駆する。そして、魔を封じる爪を突き出し、捻りを加えて小ベリアムに突撃した。小ベリアムは全く反応できず、胴体の真ん中に強大な穴を開けて後方に吹き飛ぶ。
「お、女の子を足蹴にするなんて・・・何を考えているんですか。地獄に落ちさらせや!!」
地面に顔からめり込んでいたイリアが立ち上がり、杓杖を振り上げた。その瞬間、イリアの身体が眩いばかりの光に包まれ、もう1体の小ベリアムの視界を奪った。
「―――聖なる光の矢!!」
天から聖なる光りが降り注ぎ、杓杖が煌々と輝く。その光り直ぐに集束し、一筋の光線となって小ベリアムに放射された。小ベリアムはマジックシールドを素早く展開するが、直撃すると同時に霧散し、胴体に円形の穴を開けて吹き飛んだ。
ドロまみれの美少女が並び、小ベリアムが飛んで行った方向を睨み付けた。
「舐めんな」
「失礼ですよ」
ベリアムに連続魔法を叩き付けられ、極大魔法が直撃したシャルルは、意識を朦朧とさせながら立っていた。いくら高レベルだといえど、防御力以上の魔法が直撃しては無事ではすまない。しかもベリアムの魔法は、何かの固有スキルなのか威力が数倍に跳ね上がっていたのだ。
そんなシャルルに対し、イリアが再び回復魔法を唱える。
「―――完全回復魔法」
「―――黒球」
魔法の発動と同時に、重なるようにして放たれた魔法によって効果が相殺される。
「他人のことより、我が身を心配するのだな。信じられるのは己だけであろう!!」
吹き飛ばしたはずの小ベリアムが、何事もなかったかのようにイリアに杖を向けていた。
「―――雷撃」
その直後、雷光が閃き、パテトが立っていた場所を紫電が駆け抜けた。パテトはギリギリで直撃を免れるが、胴体に穴が開いたはずの小ベリアムは完全に回復していた。
打撃や斬撃だけではなく、魔法でさえもダメージを与えることだできない。これでは、何度攻撃しても無意味だ。それどころか、勝つ未来が全く見えない。
「人間よ、死に絶えろ。お前達に生きている資格はない。何の価値も無い。他人を踏み台にし仲間を見捨てる人間は、全員灰になれば良いのだ」
シャルルはフラつきながらも、ベリアムを見据えたままイリアに訊ねる。
「イリア、ユーグロード王国に伝わる、魔王の伝承を覚えているか?」
その問いの意図は掴めないものの、慌ててイリアは答える。
「はい。200年前、魔王は当時の勇者により、ラストダンジョンに封印された・・・」
それを聞いたシャルルは、その後を引き継いで話す。
「そして、アポネ遺跡に現われたジークは、600年前にベリアムと戦っている。魔王は、一定期間の周期で復活することが分かっている。つまり、ベリアムは、200年毎に復活する魔王だ。
―――そうだろう?」
最期の言葉は、シャルルからベリアムに対する問い掛けであった。それにベリアムが答える義務は全くない。しかし、魔王はその大きな口を開いた。
「聡いな。人間風情がよくぞ気付いた。その通りだ。我は200年毎に復活し、邪な人間共を駆除している。数だけ多くとも、倫理も秩序もない下等な生物に生きる資格などない!!」
シャルルは余りにも人間を嫌悪するベリアムに、疑念を抱いていた。それは、この戦いの切り札にも通じることだった。
「魔王ベリアム、お前は勇者に封印される度に復活を繰り返してきた。今回で6度目の復活だろう?」
即答できず、指折り数えた上でベリアムが答えた。
「な、なぜ知っている。確かに、今回で6度目だ。人間、お前はそんなに長く生きているのか!?」
「そんな訳ないわ!!いや、これで、色々と謎が解けたよ」
シャルルは笑みを浮かべ、ベリアムに宣言する。
「ついでに、完全に消滅させる方法もね」
それを聞いたベリアムが、巨大な口を大きく開き、毒の唾を撒き散らしながら叫んだ。
「人間が・・・人間ごときが、我の怨みを、あの日の慟哭を、受け止められるはずがなかろう!!」
全身からドス黒い瘴気を噴出し、魔力を高めていく。
「―――シャドー・イレイサー」
一瞬にして暗黒が周囲を包み込み、ベリアムはもちろん、ありとあらゆる物が闇に飲み込まれた。何も見えない、何も聞こえない、何も感じない。その空間の中を、触れる物全てを食い千切る真空の口が不規則に走る。やがて、全ての暗闇を食べ尽くした口が時空の狭間に消えて行った。
そこには、何も残っていなかった。巨大な木も、雑木林も、小さな草花までもが、跡形も無く消滅していた。シャルルを、パテトを、イリアを、全てを切り刻んだ。




