魔王との再戦②
べリアムの放つ魔法の威力が、以前とは桁違いに上がっていた。今までと同じように剣で弾こうとしていれば、ただでは済まなかったであろう。しかし、それはシャルルにとっては重大な問題だった。全ての魔法を避けなければならないのだ。
「―――雷撃」
「くっ―――雷撃!!」
べリアムの放った魔法を、シャルルは同じ魔法で迎え撃つ。雷撃は、シャルルの得意魔法の1つだ。しかし、自信があるはずの魔法は空中で激突し、その場で激しい爆発を起こした。
「な・・・」
その光景を目の当たりにし、シャルルは驚愕した。まさか、相殺されるとは思っていなかったのだ。
「人間ごときが、我と同等の魔法を行使するとはな・・・地獄で誇るが良い。―――ダークディメンション」
空間が歪み亀裂が走る。時空の狭間に、相手を飛ばす古代魔法である。これに巻き込まれれば、どこに飛ばされるか分からない。最悪、別次元に飛ばされ、戻って来られない可能性もある。
「くそっ、ブレイク!!」
べリアムが発動しようとしていた魔法が、跡形もなく消え去る。その現象を目にしたべリアムは瞠目し、そして不敵な笑みを浮かべた。
「その魔法、覚えているぞ。あらゆる魔法を無効化するが、1度しかつかえないのであろう。―――爆裂」
シャルルが反射的に後方に跳ぶと、今までいた場所が爆発して巨大なクレーターを作った。
「―――魔法の矢」
連続で行使される魔法がシャルルを追い詰める。シャルルが飛び上がって躱すと、待ち構えていたかのようにに、再び連続で魔法が放たれた。
「―――炎の嵐、雷の斧、黒球」
防御する間も無く、シャルルは炎の渦に飲み込みこまれる。紅蓮の暴風によって姿が見えなくなったシャルルに、雷の斧が稲妻を撒き散らしながら叩き付けられた。真紅と黄金色の光が天へと昇り、周囲の木々が衝撃波で吹き飛ぶ。その中心部へと、トドメとなる漆黒のエネルギーが着弾した。
「シャルル!!」
「―――上級回復魔法!!」
分体と対峙していたパテトが叫び、反射的にイリアが回復魔法を行使した。
2人の視線の先で、立ち込める砂塵と爆煙が晴れていく。その中心に、人影が見えた。2本の足で立っていたシャルルが、ガクリと膝を折った。破損してボロボロの装備、黒焦げになった軽鎧から煙が上がっている。
「あ、ありがとう、イリア・・・」
シャルルはべリアムを見据えたまま、ゆっくりと立ち上がった。
ベリアムが行使する魔法の威力が、以前とは比較にならないほど上昇していた。本体だけに、ラストダンジョンで消滅させた分体とは魔力量が全く違うということだろう。
得意気な表情でシャルルを見下ろし、ベリアムは隙だらけの状態で言い放つ。
「卑怯な人間ごときが、矮小な、仲間を平気で捨てるような人間が、我に勝てるはずがないのだ!!」
その言葉を言い終える前に、シャルルはベリアムに向かって地面を蹴った。何せ、ベリアムは「隙だらけ」なのである。これを見逃すほど、シャルルはお人好しではない。
シャルルの蹴った地面が陥没し、衝撃波を伴ってシャルルの身体がベリアムに迫る。一瞬の交錯。斬戟が閃き、風を切るような鋭い音が駆け抜ける。その後に残っていたのは、胴体で真っ二つになったベリアムの姿だった。
しかし、その切断されたはずの身体は、それぞれの切断面が波打ち、触手のように絡み付くと合体する。愕然とするシャルルに、ベリアムの魔法が襲い掛かる。
「―――暗黒の振動波」
ベリアムから間断なく、音速を超越した暗黒の真空波が放たれる。それはシャルルの身体を切り刻み、鮮血を巻き上げて吹き荒れた。シャルルは成す術もなく翻弄され宙を舞い、数十メートル離れた場所の地面に頭から突っ込んだ。
「シャルル!!」
それを目にしたパテトが駆け寄ろうとするが、小ベリアムが立ち塞がる。
「―――ダーク・ショット」
威力は低いが、小型のエネルギー弾がパテト目掛けてて連射される。直撃される訳にもいかず、パテトはそれを装着した封魔の爪で迎撃する。しかし、そちらに気を取られている間に、特大の魔法の準備が終了した。
「人間に助力する獣人など、暗黒に飲み込まれるが良い―――漆黒の焔」
突然、パテトの頭上に漆黒の穴が開き、そこから真っ黒な炎が噴出した。火山の噴火に匹敵する炎を避けることなどできず、パテトは黒い火渦に飲み込まれた。
「ああ・・・いやあああ!!完全回復魔―――」
2人を救おうと、イリアが最上級の回復魔法を唱える。
しかし、その魔法が完成する直前に、もう1体の小ベリアムが空から降って来た。それも、イリアの頭上に。
イリアは魔力が異常に高い。それ故に、シールドを張らなくても魔法のダメージを受け難い。しかし身体能力は同じレベル帯では低い部類に属している。それを見透かしたかのように、ベリアムはその巨体で押し潰そうとしてきたのだ。
次の瞬間、鈍い音と共に地面が陥没した。




