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ラナク海戦⑦

 アルワムナの前に立っていたのは、マリア配下の隊長ルキャナンであった。


 いかにも二級品といった軽装備のルキャナンを見て、アルワムナは一瞬でも相手が強敵であると認識したことを恥じた。仮にも自分は、トラトス王国で1、2を争う武将である。しかも、全身を包む鋼の鎧は、王から直々に賜った極上品だ。剣はトラスト王国随一と言われる鍛冶師の業物。それに対し、敵兵の装備は脆弱、剣も一撃で折れそうなほどに頼りない。


 アルワムナは味方が全滅した状況においても、余裕の態度を崩さなかった。自分が生きていれば、十分にソマリまで辿り着けると信じていたのだ。


「我はトラトス王国将軍アルワムナ。いざ、尋常に勝負!」


 名乗りを上げると、剣を両手で持ち正面に構える。それを目にしたルキャナンも、半身になり剣を持つ右手を突き出して応えた。


「我が名はルキャナン。アルムス帝国の臣にて隊長。悪に染まりし侵略者を、この手で誅する者也!!」


 足場が悪い砂地を物ともせず走り出すアルワムナ。それに応じるように、ルキャナンも間合いを詰める。一見、一撃でアルワムナが勝利すると思われたが、ルキャナンは初戟を剣で見事に受け止めた。

 甲高い音を響かせ、アルワムナの剣が弾かれる。瞠目するアルムワナを、間断無くルキャナンの剣が襲った。体を捻るが、鎧の繋ぎ目部分を剣先が通り抜けた。激痛が奔り、鮮血が飛び散る。


「ば、馬鹿な・・・」

 自分が斬られたことに驚愕するアルワムナ。たかが隊長レベルの剣技で、自を傷付けたことが信じられなかったのだ。その動揺を見透かしたように、ルキャナンの猛攻が始まる。


 互いの剣が交錯し、火花を散らす。簡素な剣がアルワムナの豪剣と何度も打ち合うものの、全く折れる気配はない。しかし、それは当然のことだった。ルキャナンの剣は外見が簡素なだけで、実はミスリルの名刀だった。隊長に任命された折に、マリアから下賜された物だった。


 更に数合打ち合った後、濁った音が響き剣先が飛ぶ。

 剣戟に耐えられず折れたのは、アルワムナの剣だった。次の瞬間、目を見開くアルムワナの胸にルキャナンの剣が深々と突き刺さった。


「な、なぜ・・・」

 自らの敗北を認めたアルワムナが吐血する。その呟きに弾む声が答える。


「我らは、地獄を見たのだ。笑顔で告げられる試練の数々・・・強くならぬ方が無理というものだ。その間、貴方は頂点に座していただけ。その差だ」



 入り江の先端から湧き上がる歓声に、マリアの顔が跳ね上がる。重大な何かが起きた証だ。準備は万端だった。しかし、それでも絶対ということはない。いつでも、不運は口を開けて待っているのだから。


 数分後、原因を調べに行っていた兵士が息を切らせながら帰って来た。目の前で跪こうとする兵士を制し、そんな儀礼よりも報告を求める。


「ルキャナン隊長が、敵将アルワムナ将軍を討ち取ったとのことです。更に、上陸しようとした兵士を殲滅。ボートを全て焼き払うことに成功しました!!」


 その報告に周囲から歓声が上がり、マリアも自らの拳を握り締める。


 あと30分。踏ん張ることができれば、どうにかなる。

 マリアは自分を守護する兵士達にも、前線に出るように指示を飛ばす。



 アルワムナの死により、トラトス王国の軍勢は頭を失った。副将はいるが、戦術的なことは何一つ分からない。アルワムナが良将であっただけに、副将は無能でも務まっていたのだ。未だ2500人前後の兵力を有していたが、完全に攻撃の手を止めてしまう。


 一方、ソマリの最前線である防御柵では、一進一退の攻防が繰り広げられていた。突破された場所はないものの、圧倒的に兵力が違うのだ。いくら足場の悪い海中からの攻撃とはいえ、徐々に疲弊していくアルムス帝国軍は、次第に押され始める。

 誰が見ても、善戦したと言える。しかし、それでは駄目なのだ。


「あと15分です。もう少し、もう少しだけ、顔を上げて、腕を前に突き出して下さい!!」


 飛来する矢を気にも留めず、マリアが防御柵の直ぐ後ろで檄を飛ばす。その姿に、兵士達は最後の力を振り絞り、雄叫びを上げた。空気が震え、海面に波が広がってゆく。


 マリアの檄は確かに効果があった。一度は戦線が崩壊しそうになっていた場所は持ち直し、更にユーグロード王国軍を押し返した。兵士達に生気が蘇り、士気が上がっていく。しかし、それは沖合いから侵攻してくる船団を目にするまでだった。


「あ・・・・・・」


 兵士の一人が、その光景を目にして止まる。それに釣られるようにして、次々と兵士達の視線が沖へと向かい、動きを止めた。ついに、防御用の杭を抜き取った場所から、大船団が入り江に侵入して来たのだ。中型船、大型船の甲板に数百の弓兵が並び、既に発射の指示を待っている。あれに参戦されては、流石に打つ手が無い。


 その時、マリアの目に奇跡が写った。



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