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ラナク海戦⑥

 ラバナルが危惧した通り、攻略は遅々として進まなかった。中型船、大型船のみならず小型である軍船も、打ち込まれた杭を突破することができないままだ。

 一部の兵士を海中に潜らせて、杭を引き抜くように指示は出している。しかし、水深が5メートル以上と潜水するには深く、しかも、杭が地中深く突き刺さっているために抜くことができないのだ。


 その作業と平行し、それぞれの船が乗せてきた手漕ぎボートにより、筏を越えて突撃する部隊も編成された。1隻に乗れる兵士は5人。ボートの数は約100隻。一度に送り込める兵士が500人程度であるため、何度も往復しなければならない。それを勘案すると、前線には400人ずつしか移動ができない計算になる。

 ここで、トラトス王国にボートの提供を求めていれば戦況は変わったかも知れない。しかし、ラバナルのプライドがそれを邪魔した。そして、アルワムナ将軍もまた、自らラバナルに協力しようとする気がなかった。


 ボートで陸地に近付くが、そこには筏よりも数段頑丈な防御柵が設置されていた。太い棒を組み合わせた高さ3メートルほどの柵を、簡単に越えることなどできない。しかも、6千人が一度に襲撃するならばともかく、少人数で破壊することなど到底不可能だった。おまけに、無理矢理降ろされた場所は胸まで水がある海の中である。戦闘どころではない。

 陸上に陣を敷き槍を突き出す防御兵により、次々と突き伏せられる兵士達。ボートが次の兵士を連れて戻った時には、味方の死体で海が埋め尽くされていた。


 それでも、杭を抜くことに成功し、軍船が入り江内に突入できるようになると戦況が動き始める。引き続き攻撃側が不利な状況は変わらないが、一方的な戦況から徐々に互角の戦いになる。アルムス帝国側の守備隊は500人足らず。一方、攻撃側のエルトリア共和国の兵士数は、その倍以上なのだから。


「相手に、魔法師がいないことが救いですわね」


 戦況を見詰めながら、マリアが呟いた。

 トラトス王国は重装歩兵を重視した物理重視の国柄であり、魔法師は補助的役割を請け負う者程度しか存在しない。それは、共和制を採るエルトリア共和国も同じだ。その理由は戦術面云々ではなく、単に運用経費が非常に高いからである。


「もし、強力な魔法師がいたら、簡素な防御柵など一撃でしたでしょうに」


 潮の流れを確認したマリアは、上空を見上げて太陽の位置を見る。

 何としても、あと1時間は護り抜かなければならない。そんな思案をしているマリアの視線の先で、トラトス王国の将軍アルワムナが動いた。



「ふむ。このままでは埒が明かぬ。我らは我らで、ソマリを攻めるとしよう」


 入り江の入口付近に停泊していたトラトス船団の旗艦で、戦況を眺めていたアルワムナ将軍が呟いた。事実、眼前で繰り広げられている戦闘は、数的有利があるにも関わらず劣勢であった。悪戯に時間ばかりを費やしているのだ。歴戦の猛者であるアルワムナからすれば、いくらでも方法があるように思えた。


 アルワムナが見詰める先は、筏の先端が固定されている漁村だった。無理に入り江を船で突破しなくても、陸路で攻め込めば良い。そう、考えたのだ。

 漁村付近にも何かの仕掛けがある可能性があるため、小型のボートに分乗して行くしかない。しかし、一度に500人も渡ることができれば十分だと判断する。アルワムナは自らの戦闘力に自信を持っていた。トラトス王国において、アルワムナに勝てるどころか、互角に戦える者すらいなかったからである。


 沖合いでボートに乗り込み、アルワムナは約500人の兵士達と共に漁村へと向かった。そこに上陸できれば、海岸を突破してソマリに突入できるという判断をしたのだ。


 しかし、当然のことながら、その行動はマリアに予測されていた。

 海が駄目なら、必ず漁村に上陸し陸路を進もうとするだろう―――と。そのため、漁村にも数々の仕掛けが施されていた。


 近付くボートには、すぐ傍の断崖の上から火矢が打ち込まれた。距離はあるが、高所からの射撃である。射程距離が大幅に伸びる。次々と矢が打ち込まれ炎に包まれるボート。半ばで海中に沈むボートが多数見受けられた。それでも、アルワムナを含み、兵士の半数以上がどうにか上陸を果たした。


「よし、行くぞ!!」

 剣を抜き、アルワムナが先陣を切って走り始める。

 漁村の前を突っ切り、ソマリへと続く海岸線に突入する。その時だった。アルワムナは地面に違和感を覚え、走る速度を利用して前方に大跳躍を決行する。その直後、先程までいたはずの地面が音を立てて崩れ落ちた。


 驚愕するアルワムナの眼前で、次々と地面に飲み込まれる兵士達。そして、穴の向こう側に残っていた兵士達には、潜んでいた弓兵から一斉に矢が放たれた。絶叫と共に矢を受けて倒れる兵士達。その姿を目の当たりにしたアルワムナは、それを振り切るように前を向いた。


「将兵とお見受け致す。その首、私が貰い受けましょう」


 いつの間にか、アルワムナの目の前には剣を抜いた兵士が立っていた。放たれる殺気により、ただの雑兵ではないことが一瞬で理解できた。


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