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ラナク海戦②

 その日の夜、マリアは立体地図の周囲に主だった者達を集合させた。ソマリに駐屯する兵は1500人。ここで敗戦する可能性を考慮すると、サリウの守備兵を動員する訳にもいかない。現在、ここにいる兵だけが全てである。


「作戦を伝える前に、まず隊を3つに分けます。第一部隊は300人。隊長はジュダイ・カーナル。そして、第二部隊は1000人。隊長はキヌイ・ルキャナンに、それぞれお願い致しますわね。もう1隊は、私が率いる本隊です」

「「はっ」」

 2人の精悍な男達が、マリアに頭を下げる。それを見たマリアは満足そうな表情をした後、地図に視線を落とした。


 ナラク海峡は潮流が速いため、岸壁が削り取られた断崖絶壁である。貿易港として開かれているイスタグローグやソマリ近辺以外の場所から上陸することは、非常に困難である。不可能とは言わないが、大勢の兵士が100メートル以上ある断崖絶壁を登るなど、攻撃の的にしかならない。従って、必然的に襲撃される場所が特定できる。


「第一に優先するのは、ソマリに住む人達の安全です。4日後の早朝、干潮から満潮に向けて潮が動き出すと同時に、この砦に住民を避難させて下さい。街の信頼できる人達には前もって話をしておきますが、不用意に口にしてはいけません。こちらが用意していることが、どこから漏れるか分かりませんから」


 マリアは全員の顔を見渡し、作戦を具体的に説明し始めた。


「敵が上陸してくる場所は、ソマリしかありません。ですから、ここが主戦場になるでしょう。ここをルキャナン隊長にお任せしますわ」

「承知しました。敵を粉砕し、我が祖国を必ずや護ってみせます!!」

 豊かな顎鬚を蓄えた大柄な男性が、壁が振動するほどの大声で受諾する。


「カーナル隊長」

 マリアに名前を呼ばれた細身の男は、口元をスカーフで覆っていた。外見とは違い、鋭利は刃物のような雰囲気を纏っている。


「貴方の隊には、これをお願い致しますわ」

 そう言って、マリアは封筒を手渡した。

「作戦の内容はここに書いてあります。この通りに動いて下さい。作戦の成否を、貴方が握っていると言っても過言ではありませんわ」

 カーナルは封筒の中身を確認し、勢い良く顔を上げてマリアを見た。


「私は、誰一人として死んで欲しくはありません。これだけは、よく覚えておいて下さい」

 最後に、マリアは集まった者達に向き直って告げた。


「さあ、必ず勝って、笑顔で再会致しましょう!!」




 マリア達が作戦会議をしていた頃、イスタグローグではトラトス王国の将軍と、エルトリア共和国の評議員が対談していた。兵達が到着する前に、今回の侵攻について話し合いの場が設けられていたのだ。


 トラトス王国の代表者は、歴戦の猛者であるアルワムナ将軍。軍閥出身であり、筋金入りの軍人である。規律に厳しく、何事にも慎重を期す人物である。

 一方、エルトリア共和国の代表者は、文官出身のラバルナ評議員。上昇志向であり、立身出世のためであれば手段を選ばない。今回の出兵も、ユーグロード王国に対するアピールの場と考えていた。


 水と油、裏と表のような両者が共闘できるはずがない。表面上は円滑に話が進んだものの、その行為に意味があるのかどうかさえも怪しい状況だった。しかし―――

 通常、集団の戦闘は兵数で勝負が決まる。数が互角であれば、「天の時、地の利、人の和」といった諸条件が勝敗の鍵を握ることになる。しかし、兵数が2対1になった場合は、誰が指揮を執ろうが負けることはない。例え、不利な条件である海から攻撃を仕掛ける場合であっても、負ける可能性はほぼ無い。しかも今回は、エルトリア共和国のみでも倍の兵力であり、連携が取れなくても、トラトス王国の兵を足せば4倍である。わざと負けようとしても、無理な相談であった。


 作戦の摺り合わせは殆どしないまま、ラバルナ評議員は先陣を切りたがり、アルワムナ将軍はそれを嗜めた。それでも、所詮は他国の人間であり、今回に限っては協力者である。真っ向から対立することはなく、先陣はエルトリア共和国が受け持ち、トラトス王国が援護することで決着した。


 翌日には両軍の兵士達の集結が完了し、船の整備及び、兵糧や武具の積み込み作業が開始された。今回の侵攻作戦は、6千人という大所帯である。その兵糧や武具の積み込み、更に船の最終的な整備に時間が掛かり、出陣の準備が整ったのは3日後であった。


 最後の打ち合わせと称して再会したアルワムナ将軍とラバルナ評議員は、出陣の時間を決める。

「明日の満潮はちょうど正午ですが、それで良いですかな?」

 アルムナ将軍の提案に、ラバルナ評議員が頷いた。アルワムナ将軍は、満潮時以外に上陸することは困難であると考えていた。そして、ラバルナ評議員は、明るい時間帯でなければ目立たない、と思っていた。

 

 お互いに思考の方向性は違っていたが、戦略的には合致したのである。


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