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国境の町 イグスタルーグ④

「まあ、人それぞれ事情はありますし、詮索するつもりはありませんわ。

 では、先ほど見せて頂いた、マーヤ金貨をお願いできますか?」

 シャルルはローブの内側に手を入れるフリをして、アイテムボックスに手を突っ込んだ。

「どうぞ」

 シャルルは取り出したマーヤ金貨を、テーブルの上に置いた。マリアは満面の笑みを浮かべて金貨を手に取ると目線を合わせ、何度も角度を変えて詳細に確認する。そして、視線をシャルルに戻して頷いた。

「ダリル」

「はい、お嬢様」

 名前を呼ぶと同時に、ダリルが銀色のトレーに乗った布袋を差し出す。マリアはそれを受け取ると、テーブルの上に乗せた。

「金貨10枚です。確認して頂けますか?」

「はい。でも、その前に、お願いが1つあります」

 小首を傾げるマリアに、シャルルは話しを続ける。

 少し図々しいかとは思いはしたが、こんな機会はそうそうあるものではない。

「何ですの?」

「実は・・・・・」

 そう切り出し、シャルルは懐から更に2枚のマーヤ金貨を取り出した。


 最終的に、追加の2枚も買い取って貰ったシャルルは、合計30枚の金貨を手に入れた。

 当面の生活費と、ラナク海峡を渡る資金を得ることに成功したシャルルは、安堵の笑みを浮かべる。余程珍しい品らしく、マリアは3枚も買い取れたことを非常に喜んでいる。それにしても、金貨30枚が簡単に出てくる辺り、本当に商人であればかなりの豪商だろう。


「それにいたしましても、こんな状態が良いマーヤ金貨を、しかも3枚も、どうやって入手されたのですか?」

 「え・・・まあ、色々とありまして」

 まさか、ラストダンジョンで魔王を倒して入手しました―――なんて言えるはずもなく、あと1万枚の在庫ストックがあるなんて事実も、とても言い出せる雰囲気ではない。


 その後、「せっかくなので、夕食をご一緒致しましょう」と誘われ、断る理由もなかったシャルルは、そのまま豪華なコース料理を堪能することとなった。運気の揺り戻しというのか、悪い事ばかり続いていたシャルルに、ようやく運が回ってきたような気がした。店の外に出るまでは。


 何時間、談笑していたのだろうか。

 食事を済ませてレストランの外に出る頃には、既に夕陽が水平線に沈む直前だった。中途半端な明るさで、ちょうど視界が悪い時間帯だ。夕陽に照らされて伸びる陰が、更に感知力を下げる。


 ドアマンの手によってドアが開け放たれた瞬間、シャルルは周囲から注がれる殺気に気付く。それはダリルも同じだったようで、マリアの前に立つと両の拳を握り締めて周囲を見渡した。


 次の瞬間、周囲の物陰からマリアを目掛けて無数のナイフが飛んで来た。その正確な狙いと速度は、明らかに素人の投擲ではないことを物語っている。

 この奇襲で、普通の商人と護衛であれば、間違いなく命を落としていた。しかし、執事兼護衛のダリルは、飛来するナイフの大半を両の拳で払い落した。レベル15の武闘家であれば、このくらいの対応は可能である。


「ジイさん、なかなかやるねえ」

 門柱の陰から現れたのは、昼間の露店商であった。「覚えてろ!!」と叫びながら逃げて行ったが、本当に忘れる前に襲いに来たのだ。


 露店商が右手を上げると、周囲の物陰から7人の男達が姿を見せた。この男達が、先程のナイフを投げたのだ。それほど強そうではないが、あの投擲を見る限り素人という訳でもないのだろう。

「一応俺も、この街を牛耳るデスリー商会の人間だしよ、舐められたままって訳にもいかねえんだよ」

 露店商が絶対的優位を誇る形勢に、下卑た笑みを浮かべる。


 それを目にしたダリルが、マリアを後ろに庇ったまま、足を一歩前に踏み出して重心を落とす。そして、軽く右手を突き出した。この姿勢が、ダリルの武闘家としての型なのだろう。


 しかし、その構えも長くは続かず、ダリルはフラリと片手を地面についてしまう。

「バカなのか?

 俺達はスポーツをしてるんじゃねえ。殺し合いをしてるんだ。ただ刺すためだけに、ナイフを使う訳がねえだろうが?ギャハハハハ!!」


 その言葉を聞き、シャルルがダリルに視線を送る。

 よく見ると、ダリルの左肩にナイフに切り裂かれた後が残っていた。間違いなく、即効性が高い何かの毒だろう。戦場において、確実に相手を仕留めるという行為は決して間違ってはいない。しかし、知り合いが目の前で毒に犯されると、シャルルでも不愉快になる。


 一瞬、動こうとしたシャルルであったが、全く動じないマリアの態度に自粛した。何か、考えがあるのかも知れない。


「よし、やれ!!

 ジジイは殺しても良いが、女は生け捕りにしろよ。たっぷり可愛がった後、奴隷商に高値で売り飛ばすんだからなあああ!!」

 その言葉を合図に、一斉に襲い掛かるデスリー商会の刺客達。多勢に無勢である。一方的に蹂躙され、見るも無残な姿に―――は、ならなかった。結果的には、真逆の結末を迎えていた。襲い掛かった瞬間、刺客達は全員ほぼ同時に、その場で前のめりに倒れたのだ。


 唖然とする露店商。その背後には、既に短刀(ショートソード)を構えた男が立っている。そして、いつの間にかマリアを囲むようにして、武装した男達が5名も片膝を突いて控えていた。


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