表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

159/231

シャンテリー山脈の秘密⑦

「ところで、そなた達は一体何の目的でここまで来たのじゃ?」

 その問いは、シャルルが話したい内容でもあった。

「実は、シャンテリー山脈の麓にあるカラルという街に、ステンノーによって石像に変えられている人達がいます。貴方達が、その人達を元に戻す薬を持っていると聞いたので。それを分けてもらおうと、ここまで来たのです」


 シャルルの説明を聞き、イルミンが神妙な表情で頷いた。

「なるほどの。確かに我々は、ゴルゴーンの石化を解除できる秘薬を持っている。いや、作る技術を持っている・・・そう、言うべきだのう」

 イルミンの迂遠な言い回しに、シャルルは首を傾げる。怪訝な表情をするシャルル達を見て、イルミンは話し始めた。


「そなた達は、ここが一体どこにあるのか分かっているかの?ここは、シャンテリー山脈の高い峰に囲まれた高原じゃ。更にこの地は、古来より聖域として崇められてきた場所でもある」

「・・・聖域?」

「そうじゃ。この地に立った時、そなた達は見なかったのか?森の中心に聳える、あの天まで届きそうな大木を」


 幹回りを1周するためには、馬車でも優に数時間はかかりそうな太さ。緑に生い茂る巨大な葉は、1枚が数メートルはあるという桁外れの大きさ。そして、天辺は雲を突き抜け、その先端を目視することができない。大地に深く根を張り、竜脈より魔力と霊力を吸い上げて蓄える―――そんな木は世界に1本しか存在しない。


「世界樹・・・」


 イリアの呟きに、イルミンが首肯する。

「そうじゃ。あれが世界樹じゃ。世界の魔力と霊力を吸い上げ、そして葉から発散させることにより、この世界のバランスと保っている。そういう意味では、世界の調整者とも言える。その世界樹の葉から滴る水が、秘薬を製造するためには必要なのじゃ。だがのう・・・」


「だが・・・何ですか?」


 シャルルの問いに、イルミンは僅かに顔を上げて答える。

「その場に行って確認すれば分かると思うが、世界樹の根元に魔物が取り付いておる。1000年ほど前からおったのだが、これまでずっと無害であったため放置しておった。しかし、そやつが最近になって、世界樹から魔力を吸い取り始めたのじゃ」


 「1000年程前」「最近」という言葉を耳にし、シャルルの脳裏に最近の出来事が浮かんできた。その中には当然、ラストダンジョンでの死闘も含まれている。


―――魔王ベリアムは、分身のスキルを持っている。お前さんが倒したのは、本当に本体だったのか―――

 そう訊ねられた記憶を、シャルルが鮮明に思い出した。


「ワシが討ち滅ぼしても良いのだが、ワシらエルフは世界樹の守り人としての役目がある。世界樹を後世に残すために、この地を守護しなければならない。軽く一捻りできたとしても、万一があってはならぬのじゃ。特に、ハイエルフはワシ1人しか残っておらんしのう。

 そなた達が魔お・・・害獣を駆除している間に、我々エルフで世界樹の雫を入手し、秘薬を作ろうではないか。どうじゃ?」


「つまり、自分達の代わりに魔お・・・害獣を討伐しろ、と。その謝礼として、石化を解く薬を作ってやる―――そういうことですね?」


 イルミンの目を見詰めながら、若干の嫌味を含ませてシャルルは要点をまとめる。イルミンはその内容に対し、あからさまに不機嫌な表情を浮かべた。


「できぬのならば、この話は無しじゃ。別に、そなた達に恩義がある訳ではないし、当然のうように何の義理も無い。・・・そもそも、ワシからすれば、下等な人間如きがどうなろうと構わぬのじゃ」

 後半部分はシャルル達には聞こえていなかったが、侮蔑されたことは雰囲気で分かった。


 イルミンを始めとし、エルフ達は人間を下等な種族だと思っている。その思想は、シャルル達に対する態度や言葉の端々に現われていた。面白くはないが、最初から選択肢は1つしかない。シャルルは自分の大切な人達のために戦うと、心に誓っているのだ。魔王の存在が皆の平穏を脅かすのであれば、絶対に倒さなければならない。


「分かりました。我々で討伐しますので、その間に薬を作って下さい」

 姿勢を正し、シャルルはイルミンに頭を下げる。その態度を目にしたイルミンは、満足したように笑みを浮かべた。

「良かろう。そなた達は起床と同時に世界樹へと向かい、早急に害虫を駆除してもらう。その間に、間違いなく秘薬は作らせておくのじゃ」


 そう告げるとイルミンは食事中にも関わらず席を立ち、もう振り返ることもなく退室して行った。


「ちょっと、あれ何?ぶっ飛ばしても良い?」

「良い訳ないだろ・・・」

 パテトが得体の知れない草の茎に食い付きながら、イルミンが去った扉を睨み付ける。その気持ちは理解できたが、それでもシャルルはパテトを諭した。


「僕達の目的は、あくまでも石化を解く薬の入手だ。余計な揉め事は避けたい。それに、魔王はいずれ戦わなければならない相手なんだ。早いか、遅いか、だけの違いでしかないから」

「そうだけど・・・」

 納得いかない表情のパテト。2人の会話にイリアも加わる。

「ハイエルフって、何かガッカリですね」

 シャルルにも、その気持はよく分かった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ