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シャンテリー山脈の秘密⑤

 エルフ達は前衛に軽装の剣士が7人、その後ろに弓士が7人。そして、その背後に魔力を高めている魔法師が10人余り。個々の力量は分からないが、人間などの他種族と比べ寿命の長いエルフは総じて戦闘力が高い。そのエルフが30人弱。しかも、最も厄介な魔法師が10人以上も構えている。


「あ、あの、僕達は決して怪しい者で・・・・・・怪しいか」


 釈明をしようとしたシャルルが、思わず言葉に詰まる。封印を強引に打ち破って現われ、しかも不可抗力とはいえ森を焼き払った。そんな自分達を鑑みてシャルルは口を噤む。誰がどう見ても、明らかに危険な存在である。


 剣と弓はともかく、エルフの魔法は脅威だ。嘆息した後、シャルルはイリアに指示を出した。

「イリア、絶対魔法防御を」

 イリアが頷き、即座に無詠唱で最上級の絶対魔法防御を展開する。


「―――絶対魔法防御アンチ・マジック・シールド


 イリアを中心として、光の波が全方向に広がる。その範囲は半径300メートル以上。通常の効果範囲は50メートル程度であり、その凡そ6倍という驚異的な干渉力である。

 魔法を準備していたエルフ達は、自分達の呪文が掻き消されたことにより、アンチ・マジック・シールドを張られたことを悟った。しかし、もはや後の祭りであった。


 魔法を使えないのは、こちらも同じである。シャルルとパテトは直接攻撃のみで、イリアを護りつつエルフを無効化しなければならない。

 エルフは基本的に菜食であり、森の妖精とも呼ばれるように全員が華奢である。全身のバネを生かしてスピード重視で戦うほか、肉体強化などの補助魔法やマジックアイテムを使用し、戦闘力を強化して戦に挑む。それが一般的に知られている、エルフの戦闘スタイルだ。それ故に、魔法を行使しない戦闘が不得手という訳ではない。


 しかし、相手は物理攻撃に特化した獣人のパテトと、当代の勇者シャルルである。魔法の援護がないエルフでは、全く勝負にならなかった。

 パテトが瞬動で剣士の懐に入り、両手に嵌めていた爪で次々と剣を叩き落としていく。その背後に控える弓士の元には、シャルルが神速で飛び込み全ての弦を切り飛ばした。


 何が起きたのか分からず、呆然と立ち尽くすエルフ達。


「えっと、僕達は怪しい者ではなくて、ですね。・・・・・・ああ、水竜の滝(ウォーターフォール)

 シャルルは絶対魔法防御が解除されると同時に、燃え上がる森に大量の水を降らせて消火する。そして―――

「―――復元レストア

 デタラメな魔法で元に戻した。


 最初からやり直し―――とばかりに、何事も無かったかのように爽やかな笑顔を浮かべるシャルル達。しかり、エルフ側からしてみれば、より警戒心が増しただけである。倒せそうな気配は無い。しかし、余りにも危険で放置することもできない。


 偶然とはいえ、エルフと出会えたことは幸運だった。上手く交渉し、石化を解く薬を入手したいところである。


 何の反応も見せないエルフを前にし、ダラダラと汗を流しながら引き攣った笑みを浮かべ続けるシャルル。この緊張感漂う空気の中でも、シャルルはあと30分程度は笑顔を保てそうである。しかし、そろそろパテトが持ちそうにない。口角がプルプルと震えている。シャルルが「マズイ」と思った時だった。


 ―――その者達を連れて来るのじゃ―――


 頭の中に直接、若い女性の声が響いた。念話の一種であろうが、この場にいる全ての者達に同じ声が聞こえているようだ。しかし、それは本来であれば有り得ないことだ。一対一の念話ですらレアスキルである。多伝できるとなれば、古代魔法かユニークスキルだろう。


「はっ」

 その声を聞いた瞬間、先頭に立っていたリーダーらしきエルフが口を開いた。

「人間、ハイエルフ様がお会いされるそうだ。来い」

「ハイエルフ!?」

 イリアが口に手をやって驚く。珍しくパテトも目を見開いたままで、言葉を失っている。


 ハイエルフ―――それは、希少種であるエルフの中でも、有史以来たった9人しかいないと言われる至高の存在である。寿命という概念は無く、真の不老不死。長い時間の中で練られた魔力は極大であり、神と同じ神代魔法を行使できるとさえ伝わっている。人間を嫌悪しており、ハイエルフに対面した者はいない。


「早く来い!!」


 取り囲んでいたエルフ達が下がり、真ん中に道ができる。警戒を解いた気配は感じられないが、ハイエルフの指示には従わなければならないのだろう。


 シャルル達は、エルフの後を森の方に向かって歩き始めた。草原と森との境界線上に、木材のみで作られた屋敷が見える。どうやら、あそこに連れて行かれているようである。先導するエルフの後にシャルル達が続き、その後ろから警戒心剥き出しのエルフ達が武器を構えて続く。ほんの数分で、目的の屋敷に到着した。


 屋敷とはいっても、せいぜいギルド支部と同じ位の大きさだ。ただ、全てが木材であり、緑色の屋根が森と同化している。

 先導していたエルフが扉を開けて振り返る。「中に入れ」、ということのようだ。シャルル達がそれに従って中に入った。


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