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風神の谷④

「なるほど、サンドワームでは弱い気がしたんだよね。あれなら、Aランクパーティなら勝てそうだ。でも、コイツは・・・」

 ガーゴイルを注視しながらシャルルが唸る。


 ガーゴイルの身体は魔力で強化された石だ。物理攻撃の効果は低く、魔法攻撃にも耐性がある。しかも、ガーゴイルは槍による攻撃、風や土系統の魔法も操る。何よりも、背中に生えている翼による飛行が厄介な魔物である。主に、宝物や神殿の守護者であることが多い。


「ガーゴイルは四大元素では土に属しています。当然、サンドワームも土属性です。それに、ガーゴイルは守護者として存在する魔物・・・つまり、ここにノームがいるということではないでしょうか?」

 状況を分析し、イリアがその結論を口にする。


「なるほどね。このガーゴイルが、この暴風を起こし、中にいるノームを護っていると。相手がガーゴイルなら、Aランクパーティが全滅したことも頷けるし」

 シャルルがイリアの判断に同調する。ただ、1つだけ納得できないことがあった。仮にもノームは四大精霊の一角である。戦闘力も、このガーゴイルよりも間違いなく上である。自分よりも弱い存在に護られる、という理由が分からない。


「えっと・・・つまり、何?結局、コレを倒せば良いんでしょ?違うの?」

 パテトは両手に封魔の爪を装備して身構える。

「まあ、簡単に言うと、そうなる」


 シャルルの言葉を受けた瞬間、パテトが神速でガーゴイルに迫る。ほぼ同時に鈍い音が響き、ガーゴイルの胴体から火花が散った。しかし、ガーゴイルは微塵も動かず、背後に現われたパテトが、両手をブラブラと振っている。

「硬っ。手がジンジンするよ」


 ガーゴイルの胴体を薙いだにも関わらず、そこに傷ひとつ残せない。逆に、攻撃した側のパテトが反動でダメージを負っている。そこに、振り返ったガーゴイルの穿突が襲い掛かった。パテトは反射的に上体を逸らして避け、逆に懐に潜り込んで蹴りを放つ。再び鈍い音が響き、今度は流石にガーゴイルが後方に吹き飛ぶ。しかし、ダメージは殆ど見られず、その勢いを利用して空中に飛び上がった。


 今度は蹴りを放った右足をブラブラさせ、苦悶の表情を浮かべている。

「もうヤダ。今度は足が痛い・・・」

 確かに、物理攻撃が効かない相手に対し、格闘は単なる自爆攻撃だ。


「―――暴風の嵐(ストーム)

 ガーゴイルが広げた翼を数度羽ばたかせ、暴風の魔法を放つ。瞬時に、荒れ狂う疾風がシャルル達を襲った。


 猛り狂う暴風に向かい、シャルルの剣が閃く。その剣閃が暴風を真っ二つに切り裂き、瞬時に霧散させた。驚愕するガーゴイルの前で、シャルルは剣を鞘に納めた。


「物理攻撃は効果が薄いだけで無効っていう訳ではないし、魔法は普通に入りそうだけど―――風刃ウインド・カッター


 突き出されたシャルルの手から、エアカッターが放たれる。それは目視できないほどの速度でガーゴイルを擦り抜けて、右側の翼を切り飛ばした。


 バランスを崩し地表に落下するガーゴイル。そこに上空から跳び上がっていたパテトが急降下する。そして、残っていた翼の付け根に踵を落とした。轟音が響き渡り、その衝撃により、ガーゴイルを中心に直径5メートル程のクレーターができた。


 千切れ飛ぶ翼を眺めながら、パテトが不敵な笑みを浮かべる。

「物理が無効じゃないんなら、耐久以上の力で攻撃すれば良いだけよね」

 着地すると同時に、ガーゴイルの膝が折れて地面に崩れた。


 始まってみれば、圧倒的な力の差があった。所詮は単体、Sランクの魔物である。それに比べ、シャルルは勇者、イリアは聖女、パテトは既に拳聖レベルの強者だ。当然の結果だと言える。


 完全に飛行能力を失ったガーゴイルが、地面を這うようにして攻撃を仕掛けてくる。しかし、その攻撃は空を切るばかりで一向に当らない。しかも、その度にガーゴイルは吹き飛ばされてダメージを重ねていく。誰の目にも、既に勝敗は決していた。


 何度かの交戦の末、ついにガーゴイルが地に伏した。まだ完全に仕留めてはいないが、もはや虫の息である。そして、魔力切れを起こしたのか、ガーゴイルが張っていた暴風の防御壁が消失した。


『僕をここから出してくれないかな』


 どこからともなく、男の子の声が聞こえた。

 その声はシャルルとパテトだけに聞こえているようであり、イリアには聞こえていない。


 シャルルが周囲を見渡すと、少し先の川の上に箱状の何かを見付けた。それは、いつかも見た水牢の結界に酷似していた。しかし、今度は水ではなく風でできている。いわば、風牢の結界とでも呼べば良いだろうか。


 シャルル達がそちらに近付こうとすると、既に半死半生のガーゴイルが立ち上がった。どうしても、そこに行かせたくないらしい。最後の力を振り絞り、攻撃を仕掛ける。


『止めなさい』


 しかし再び先程の声が響き、それによってガーゴイルの動きが完全に停止した。


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