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風神の谷①

 アルフォート子爵邸を訪れた翌日、早速シャルル達はギルドに向かった。風神の谷への入場許可を得るためだ。危険な地域だけに、ギルドが入場、いや、挑戦者の制限をしているのである。


「え・・・Aランク以上なんですか?」


 ギルドの受付で、風神の谷への入場許可を得ようとしたシャルルは、信じられないことを告げられた。

「はい。風神の谷に挑戦する冒険者自体が殆どいらっしゃらないのですが、稀に挑戦した人達は全員帰ってきていないのです。それで、余りにも危険ということになりまして、Aランク以上でなければ挑戦させられないと・・・」


 受付で固まるシャルル。実力はともかく、人数でランクの上限が決められているアルムス帝国では、Aランクになるためには最低でも5名のパーティメンバーが必要となる。


「シャルル様のパーティの場合、既にAランクに昇格できるだけの貢献をされていますので、あと1人メンバーを増やせて頂ければ大丈夫なのですが」

「そうは言われても・・・」

 そんなに簡単に、パーティメンバーが見付かるはずがない。そもそも、魔王と戦うシャルル達に同行できる者など限られている。


 シャルルは天を仰ぎ、ついつい愚痴を零してしまう。

「遠方に住んでいて、名前だけ貸してくれるような人がいれば良いんだけどなあ。それなら、魔王に関わることもなく、平和に暮らせると思うんだよね。でも、そんな都合が良い人がいる訳―――」

「いますよ」

「は?」

 クエストの貼り付けてある掲示板を眺めていたイリアが、有り得ない発言をする。

「いえ、ここに、そういう依頼が貼ってあります」


 シャルルが急いで依頼書を覗き込むと、イリアの言う通り奇特な人がそれを可能にしていた。その依頼書を剥がすと、シャルルは受付に提出する。


「この依頼受けます。報酬はパーティメンバーへの加入で!!」

 シャルルが提出したクエストは、広域募集の依頼であった。国境を越え、全世界に宛てた依頼。内容はこうだ。



―――研究資金の援助を求む―――


 金貨3000枚(ギルド口座に入金のこと)

 報酬は : お金以外であれば何でも

 依頼主 : マギナテクノ魔道国、リルイ・ノキア



 シャルルはアイテムボックスから、宝石や財宝の数々を取り出す。

「これでは、ちょっと・・・換金してきて頂きませんと」

「では、私がお支払いしましょう」

 名乗り出たのはイリアであった。ギルド口座に金貨3万枚。さすが、公爵令嬢。


 名前しか知らない遠い異国の誰か。その人物をパーティメンバーに加えたシャルル達は、即座にAランクへと昇格した。現在、Sランクパーティは、特殊な事情がある1組のみだ。つまり、Aランクパーティはアルムス帝国内において、実質的には頂点とも言える立場なのである。


「おめでとうございます!!これで、シャルル様のパーティはAランクとして認定されました」

「はあ・・・」

 気の無い返事をするシャルルに、ギルド職員が身を乗り出してくる。シャルルにとって、パーティのランクなど何の意味もない。「入れない」と言われた場合にのみ、必要となるものに過ぎないのだ。


「本当に、凄いことなんですけど・・・」

 シャルルの態度に嘆息し、ギルド職員は1枚の地図を取り出す。そして、それをカウンターに広げると、渋々説明を始めた。


「ここが、カラルになります。ここから西へ真っ直ぐに進むと・・・この辺りですね。この辺りまで行くと、小さな谷間があります。ここが、風神の谷になります」


 地図はかなり大雑把で、詳しいことはほぼ分からない。「何となく、この辺り」といった感じだ。とにかく、ここ数百年の間、調査に行った冒険者が誰も帰って来ないのである。仕方のないことだ。


「何のために行かれるのかは分かりませんが、無事に戻って来てくださいね」

 心配そうに見詰めてくるギルド職員に、笑顔を見せてシャルルが言い切った。

「遅くても5日以内には、戻ってきますよ」


 ギルドを後にしたシャルル達は、そのまま風神の谷に向けて出発した。

「ああ、アレ・・・」

 突然パテトが立ち止まり、通りの反対側を指差す。

「あそこの串焼きが美味しいの」

「ハハ・・・」

 苦笑いを浮かべながら、シャルルはその店で、あるだけの串焼きを買い込んでアイテムボックスに収納した。


 カラルから風神の谷までは、徒歩で2日の距離。場所の詳細が不明とはいえ、大雑把な位置も分かっている。どうにかなりそうな雰囲気ではある。シャルルはパテトとイリアを連れ、西へと向かった。


 街道などは存在しないため、太陽を目印にして、ひたすら西へと進むしかない。道標となる場所やシンボルも無く、本格的に勘だけが頼りであった。それに、人間が足を踏み入れないこともあり、魔物も多く出没する。強力な魔物は含まれていないが、とにかく数が多かった。


「コイツらに聞けば良いんじゃない?」

 猪の魔物を踏み付けたままのパテトが、ポンと軽く手を叩いた。


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