カラルの伝説⑥
シャルルは全ての石像を収納して、ギルドに戻って来た。石像の取り扱いや、今後の方針について確認をしたかったのだ。
「あの、ちょっと良いですか?」
ギルドの受付で、シャルルは職員に声を掛けた。既に夕方近かったため、ロビーに冒険者の姿は殆ど見えない。ギルド職員もひと段落していたのか、受付に座っている人がいなかった。
「あ、無事にお帰りになられたのですね!!」
昨日、話を聞かせてくれた女性職員が、奥から小走りで近付いて来る。
「ええ、とりあえず、行方不明になった人達らしき物を持ち帰りました」
「・・・らしき物、ですか?」
シャルルの言い回しに、首を傾げるギルド職員。
「とりあえず、確認してもらいたいんですけど・・・どこに出したら良いですか?」
「・・・出したら?」
再び首を傾げる職員。シャルルは「ああ」と疑問に気付くと、アイテムボックスを持っていることを告げる。珍しい魔法なので驚いていたが、シャルル達をすぐに2階の会議室へと案内した。
受付のギルド職員を始め、上司らしき職員を2名を同行させる。全員揃った所で、シャルルはアイテムボックスから石像を取り出し始めた。
「生き物は入れられないんですけど、今は石像なので・・・」
そう説明しながら、シャルルは次々と全10体の石像を取り出して並べていく。その光景を目の当たりにしたギルド職員達は、驚愕の余りその場で固まって動けなくなっていた。
「えっと、これで全部ですけど・・・見覚えのある石像、いや人物はいますか?」
シャルルの声に我に返ったギルド職員達は、並べられた石像を1体ずつ確認していく。
「はい。行方不明になっている人達で、間違いありません。この方が、ご領主様のご子息様です」
ギルド職員達が確認したことにより、持ち帰った石像が誰なのか判明した。その中には、アサトランの息子であるナニワンも含まれていた。
しかし、まだ大きな問題が残っていた。この石化を解く方法がないのだ。シャルルの解呪やイリアの状態異常回復魔法が、全く効果を示さない。
それから1時間もしないうちに、領主であるアルフォート子爵がギルドを訪れた。貴族らしい豪華な服に身を包んだ子爵は、白髪混じりの髪を振り乱して叫ぶ。
「おお、息子よ。なぜ、こんなことに!!」
石像に縋り付く様は、いかに子供を大切に思っているのかが窺えた。
子爵はシャルル達の存在に気付くと、立ち上がって頭を下げた。
「ありがとう」
たかが余所者の冒険者に頭を下げるとは、なるほど、アルフォート子爵は仁君のようである。通常、貴族はその日暮らしの冒険者風情は、相手にしないのだ。
シャルルは子爵に求められるまま、自分達が目にしたものを余すことなく説明した。その話を聞いた子爵は、暫く黙り込んだ後、この地の秘密を語り始めた。
「君達も、ギルドの諸君も、これから話すことは他言無用と心得てもらいたい。
今回の件について、少し心当たりがあるのだ。これは、我がアルフォート家が子爵に叙爵され、この地の領主として任じられた時に遡る」
子爵は室内を見渡し、その場にいる者達を順番に見る。
「もう、1000年以上前の話しだ。この地には元々小さな町があった。しかし、帝都から遠いこと、また、凶悪な魔物が棲んでいる理由から、当時の貴族達からは見向きもされていなかった。この地に巣食っていた魔物、それはゴルゴーン三姉妹だ」
「それって、伝説上の・・・」
「そうだ。だが、伝説などではなく、この地に実在したのだ。ゴルゴーン三姉妹は、この地に住む者達を面白半分に石に変え、そして殺した。誰も敵う者などいなかった。旅人も兵士も、冒険者達も高額な懸賞金に釣られて挑戦したが、ことごとく石に変えられた。
そんな中、我が祖先がこの地に入り、見事にゴルゴーン三姉妹を討伐した。その功績により我が家は子爵に叙爵され、カラル一帯を領土として任されることとなったのだ。しかし―――」
饒舌に話していた子爵の口が止まる。シャルルが子爵の表情を窺うと、酷く葛藤しているように見えた。
「確かに、初代はメデューサ、エウリュアの姉妹を仕留めた記録が残っている。しかし、最後の一人ステンノーを討ったとの記載は、どこを探しても見当たらないのだ」
「それでは・・・」
シャルルが訊ねると、子爵が力無く頷く。
「ステンノーかも知れぬ。無傷であったとは思えない。であるならば、完全に回復するまで待ち、傷が癒えたため、我々に対する復讐を始めたのかも知れない」
確かに―――と、シャルルは納得する。
ゴルゴーンによる石化であれば呪いではない。それに、ゴルゴーンの石化がユニークスキルであるとすれば、状態異常と判別されない可能性も高い。
塞ぎ込む子爵に、シャルルが声を掛けた。
「ステンノーは、どうにかできるかも知れません。ただ、1つだけ問題があります。多分、ステンノーは山の中に棲んでいます」




