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カラルの伝説②

 イリアの笑顔に気圧された冒険者が、手首を押さえて尻餅を突く。暴力を否定したイリアが、一番恐ろしい。そんなやり取りを華麗に無視し、シャルルはギルド職員に向き直った。


「それで、先程聞いたんですけど、今大変なことが起きているとかどうとか?」

 シャルルの問いにギルド職員の表情が曇った。

「・・・それが、ここ1、2週間のうちに、この町のギルドに所属している冒険者が5人以上も行方不明になっていまして。それを捜しに行った冒険者も、1人として戻って来ないのです」


 シャルルは顎に手をやると、暫くその場で思案する。

「魔物とか、ですか?」

「それが、全く分からないのです。確かに、山に近付けば危険な魔物もいますが、町の近くには低位の魔物しかいないのです・・・もし、お急ぎでなければ、捜索隊に加わって頂けると嬉しいのですが」

 シャルルは即答せずに保留する。その前に、行かなければならない所があるのだ。

「分かりました。時間が許せば協力しますね」

 ギルド職員は、薄く笑みを浮かべて頭を下げた。


「あ、アサトラン商会というのは、どこにありますか?」

「この前の道を真っ直ぐ進むと、モニュメントが在る中央広場に出ます。その広場のすぐ傍にありますよ」


 シャルルは礼を言うと、ギルド支部から出た。

 まずはローランの実家に行き、スライムの伝説を聞きたい。そう思っていたのだ。


 扉を開け外に出ると、そこにはパテトが立っていた。足元には大柄の冒険者らしき者達が4、5人転がっている。パテトは可愛い外見とは異なり、中身は猛獣の類である。声を掛ける相手を間違っている、としか言いようがない。


「美味しかったか?」

 シャルルの問いに、パテトが満面の笑みで応えた。

「とりあえず、ローランの実家に行くから」

「分かった」

 腹ごなしと食後の運動を済ませたパテトは、ご機嫌そのものだ。

「暴力はいけませんよ、暴力は」

 イリアの余計な一言で、パテトが瞬間的に不機嫌になる。いがみ合う2人を眺めながら、シャルルは「似たようなものだけどな」と密かに思う。当然、口に出したりはしない。


 構わずシャルルが歩き始めると、顔を背けたまま2人も足を動かす。心眼でも覚醒したのか、2人はぶつかることもなく前進している。

 数百メートル道なりに進んで行くと前方に石像が見え、そこが広場になっていることが分かった。ここが中央広場で間違いないだろう。


 中央の一段高くなった場所に、2体の石像が飾ってある。等身大のスライムと男性が並んでいるモニュメントは、人間と魔物という相容れない関係でありなあらも、なぜか満たされた空間を作り出していた。


 そのモニュメントの向こう側に、「アサトラン商会」という文字が見えた。

「あれでしょうか?」

 イリアがアサトラン商会と書かれた看板を見詰めながら告げる。

「そんなの、見れば分かるじゃない」

 パテトの余計な一言で、再びいがみ合う2人。しかし、シャルルは華麗にスルーして、店に向かって歩き出していた。


 広場の周囲で一番大きいその建物は、ガラス張りで近代的な雰囲気を醸し出していた。それでけで、かなり儲けていることが想像てきる。

 ガラス越しに中を覗き込むと、陳列棚に様々な雑貨が並んでいた。シャルルは扉に手を掛け、引くというプレート通りに手前に引く。


「いらっしゃいませ!!」

 店内にいた女性販売員が、即座に笑顔で近付いて来た。従業員の教育が行き届いている証拠である。しかし、シャルルは訪問者ではあっても、別の意味での客である。

 すぐにシャルルは、懐からローランドの紹介状を取り出した。積極的に接客されても、何か購入する予定はないのだ。


 シャルルから手渡された紹介状を訝しげに眺めた後、店員は仕方ない、といった表情で奥に駆けて行った。ローランの父親は店にいるようだ。


「こちらにどうぞ」


 暫くして戻って来た店員は、シャルル達を店の奥へと案内した。商品の間を擦り抜けて付いて行くと、最奥部に事務所があり、ローランの父はそこでシャルル達を待っていた。


「アサトラン・ローランドです」

 開口一番で名乗ったアサトランに、シャルルが自己紹介をする。

「シャルル・マックールです。スライムの伝説が聞きたくて、ここまで来ました」

「ああ、そのようですね」


 中肉中背で黒髪。年齢は50代半ばといったところだろうか。オールバックにした髪には白い物が混じり、目の下にはクマができている。仕事で忙しいのかも知れないが、全体的に疲れが見える。覇気を全く感じないが、商人とはこういうものなのだろうか。


「この町のシンボルになっているスライムについて、私が知っていることをお話ししましょう。とは言っても、この町の住民や商人は、誰もが知っているますけど」

 アサトランは苦笑し、ゆっくりとスライム伝について話し始めた。


「これは、今からもう1000年以上前の話です。口伝として残されてきたものなので、少しずつ変わってきているのかも知れませんが。大筋は当初のままだと思いますよ」


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