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国境の町 イグスタルーグ②

 アイテム取引所とは、文字通り各種アイテムの売買をしている所である。ダンジョンや遺跡を探索して得た遺物やアイテム、魔物や野獣の部位、それに不要になったアイテムなど、値段がつくものであれば、何でも売買してくれるのだ。


 公的で、尚且つ公平に売買してくれるのは、ギルド内にある取引所だ。ここは、ステータスボードを開示するか、ギルドに登録している者しか利用できない。お尋ね者になっているシャルルは、当然利用することができない。

 そうなると、私営の取引所を利用するしか方法はない。しかし、この私営の取引所には格差がある。怪しげな個人で営業している店もあれば、大手の商会が取り仕切っている所もある。中には、裏で非合法な物を売買をしたり、詐欺同然の手口で買い叩き、あるいは販売する業者もいる。鑑定のスキルでも持っていれば別だが、大手の商会が営む取引所を利用する方が無難である。


 シャルルは仕方なく、街中にある私営の取引所を探すことにした。しかも、大手商会以外の取引所だ。こんな遠隔地にまで手配書が回っている事態を考慮すれば、大手の商会にも手配書が回っていることも考えられる。


 メインストリートから1本路地に入り、シャルルは左右を見渡す。すると、50メートルほど先に「アイテム取引所」の幟が立っていた。目の前まで行くと、あからさまに怪しげな露店で、地面に敷物を広げ、そこに様々なアイテムを並べていた。アイテムは回復ポーションや毒消しなど、馴染みのアイテムが多く、意外にも価格は良心的だった。


 シャルルはとりあえず、この店で査定してもらうことにした。

 商品を挟んで販売員の反対側に座ると、あらかじめポケットに忍ばせていた金貨を取り出す。この金貨は、ラストダンジョンから持ち帰った物だ。随分と古い金貨らしく、当然のように、ユーグロード王国では使えない。


 手の平に金貨を乗せ、シャルルが店主に見せる。

 現在の共通金貨と交換できれば、シャルルは十分だった。店主は差し出した金貨をマジマジと見詰め、その後でシャルルの顔を見詰め返した。


「これ、いくらで買い取ってもらえますか?」

 シャルルの問いに、店主は小首を傾げると、座ったままの状態で返事をする。

「ううむ・・・・・まあ、銀貨30枚ってところかな。

 この金貨はマーヤの金貨といって、今から200年以上前に使われていた古銭なのさ。この時代の貨幣は、残念ながら金メッキなんだよねえ。中身は銅。だから、学術的な価値しかないのさ」


「銀貨30枚か・・・」

 シャルルは、少なからず落胆する。

 しかし、すぐに思い直した。この金貨は、シャルルがベリアムの隠し部屋で発見した物だ。しかも、雑然と山積みされていたため、とりあえず全てアイテムボックスに投げ込んだのである。恐らく、シャルルのアイテムボックスに、軽く1万枚は眠っている。結局、所詮は拾い物なのだ。


「じゃあ、それ―――――」

「少しお待ちになって下さいますか?」

「え・・・?」


 シャルルが店主に同意の意志を示そうとした瞬間、背後から涼やかな女性の声が響いた。

 振り返ると、そこには長い銀髪をなびかせ、シャルルと同年代の美少女が立っていた。その少女の背後からは、老年のタキシード姿の紳士が日傘を伸ばしている。豪奢なドレスに身を包んだ少女は、明らかにただの町娘とは違う雰囲気を纏っている。その笑顔にも、どこか品が感じられる。


「その金貨、少しだけ見せては頂けませんか?」

「はあ、別に構いませんけど・・・」

 シャルルは手にしていた金貨を、その少女に手渡した。少女は金貨を手にすると、顔を近付けて細かな文字の部分まで細かく確認していく。そして、ゆっくりと視線をシャルルに戻し、金貨を返却して口を開いた。

「確かに、これはマーヤ金貨に間違いありませんね。しかも、これほど状態が良い物は、これまでに見たことがありません」

「はい・・・」

「そのマーヤ金貨、私が、金貨10枚で買い取りましょう」

「え、金貨10枚!?」

 シャルルが聞き返すと、少女は柔らかく微笑んだ。


「オイオイ、ちょっと待てや!!」

 シャルルが少女と商談をしていると、突然、低音の怒声が響いた。その声の主は、ずっと座っていた取引所の店主だった。勢い良く立ち上がり、肩を怒らせながら少女を威嚇する。

「何ですの?」

「黙って聞いてりゃ、勝手に商談進めやがって。先に話しをしていたのは俺の方だろうが。

 ひとの客を盗ってんじゃねえぞ、小娘があっ!!」


 眉間にしわを寄せ、少女相手に凄む店主。袖を捲り上げ、その筋骨隆隆の太い腕を見せ付ける。しかし、少女は微塵も動揺する素振りを見せず、微笑んだままで応えた。

「私が聞いていたところ、まだ商談は成立していませんでした。・・・それに、同じ商人として、詐欺行為を見過ごす訳にはいきませんの」


 詐欺行為という言葉に、店主が明らかな動揺を見せる。

「な、何を根拠に。こ、これは、間違いなく、金メッキの金貨だ。銀貨30枚でも高いくらいだ!!」

「本当は御存じなのでしょう?

 このマーヤ金貨は確かに金メッキです。しかし、メッキの下は銅貨ではなく、オリハルコンだという真実ことを」


「ク、クソアマがっ!!」

 店主は背後からナイフを取り出すと、少女に向かって飛び込んだ。


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