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決着⑪

 城門でフィアレーヌと別れたシャルルは、ギルド本部へと向かった。荷物がある訳ではないが、清算をしていないためだ。


「ねえ、それで、次はどこに行くつもり?」


 パテトがシャルルの横に並び、今後の予定を確認する。パテトとしては、どこに向かっても良いが、心積もりというものがある。

 そんなパテトの問いに、シャルルは事前に決めていたのか即座に答えた。


「うん、北に行こうと思うんだ」

「オヅノを追って?」

 反対側から、イリアが訊ねる。

「いや、それもあるけど、もっと別の理由があるんだ」


 3人が並んで歩いていると、通りで作業をしていた男性が駆け寄って来た。


「シャルルさん!!」

 その声の主は、昨夜出会った商人のローランだった。

「ローランさん、ちょうど良かった。聞きたいことがあったんです」


 ローランは未だ片付いていない店舗の中に、シャルル達を案内する。そして、突き当たりにある一番奥の部屋に通した。そこはローランの執務室で、壁際の机には書類が山積みされていた。


「どうぞ、どうぞ」

 ローランはシャルル達に、部屋の中央に置かれたソファーを勧めた。そこにシャルル達が座ると、自らも机を挟んだ反対側に腰を下した。


「まだ店が片付いていなくて、何のおもてなしもできませんが」

 申し訳なさそうに軽く頭を下げるローランに、シャルルは逆に恐縮してしまう。

「いえいえ、お構いなく。実は、ローランさんに訊ねたいことがありまして」

「はい、何ですか?」

 シャルルの言葉に、全く思い当たることが無いローランは小首を傾げる。

「あの、商売繁盛のシンボルとされるスライムのことです。どこに行けば、詳しい話を聞くことができますか?」

 スライムという単語を聞き、「ああ」といった感じでローランが大袈裟に頷いた。


「カラルですよ」

「カラル?」

「クレタからずっと北に行った場所に、アルムス帝国最北端の街、カラルがあります。そこで、このスライムの伝説は誕生したんですよ」


 伝説という言葉に、シャルルが身を乗り出す。

「伝説ですか?」

「ええ。我々商人はもちろん、カラルに行けば幼い子供達も知っている有名な話です。私の拙い話を聞くよりは、実際に行かれて確認された方が良いと思います。もし、カラルに行かれるのであれば、私の実家が商店を経営していますので、紹介状をお渡し致しますけど」

「お願いします」


 ローランから紹介状を受け取ったシャルルは、再会を約束して店を後にした。


「カラルかあ。何が名物なのか、ローランさんに聞いておけば良かった。まあ、行ってからのお楽しみってことでも良いかあ」

 頭の後ろで手を組んだパテトが、既に到着した後の食べ物のことを考え始めている。それを聞きながら、シャルルは苦笑いする。パテトの頭の中は7割が食べ物、3割が戦闘でできているとしか思えない。


「それで、なぜスライムなんですか?」


 しかし、今はイリアもいるため、まともな質問も出る。

「うん。ラストダンジョンの最深部で遭遇した魔王ベリアムは、あ・・・イリアに置き去りにされたラストダンジョンの最深部で遭遇した魔王ベリアムは―――」

「ごめんなさい」

 項垂れて泣きそうになるイリアを見て、シャルルは頭を掻いた。

 贖罪のために生命を投げ出そうとしたイリアを、これ以上責めることは流石に違うと思ったのだ。


 ああ、もういいや・・・

 シャルルは心の中で呟いた。ラストダンジョンに置き去りにされた恨みよりも、もっと重要なことが世界には溢れている。もっと、大切なものがシャルルにはあるのだ。何もかも無かったことにはできないが、それでも人は、前に進むことしかできない。


「えっと・・・もう良いよ。イリアがしたことは、何もかも許す」


 その言葉を聞いた瞬間、イリアは勢い良く顔を上げ、シャルルの顔を見て固まる。そして一拍置いて、大声で泣き始めた。まるで幼い子供のように、人目を気にすることもなく声を上げて泣いた。


 しゃくり上げて泣くイリアの頭に優しく手を置き、シャルルは話を続ける。

「あの時、僕は魔王ベリアムを倒した。でも、あれはベリアムの本体ではなかった可能性が高いんだ。ベリアムは元々、最弱の魔物であるスライムだったらしい。何をどうすれば、魔王になれるのかは分からないけどね。ベリアムを討伐するためにも、僕はスライムの情報を少しで集めたい。だから、まだ行ったことがない地域に足を伸ばしたいんだよ」

 イリアはシャルルの説明を聞き、無言のまま何度も頷いた。


 再び歩き始めたシャルル達は、ようやくギルド本部に到着する。皇帝の手続きを待つ必要がなくなったシャルルは、そのまま受付に向かいイリアの加入手続きを済ませる。そして、そのまま宿泊代を支払うと、出発の準備を整えた。


「カラルまでは、どの位で着きますか?」


 ギルドの受付に訊ねると、すぐに答えが返ってきた。

「馬車で4日、徒歩だと7日以上かかると思います。途中に小さな町がありますけど、食糧などは多めに持って行かれた方が良いですよ」

「ありがとう」


 シャルルはパテトとイリアと共に帝都クレタを出発した。

 目指すは、カラルである。


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