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決着⑧

 皇帝からの使者が乗って来た馬車に同乗し、シャルル達は帝城へと向かう。使者の話しによれば、魔王の襲撃から帝都を護ったことに対する礼が述べられるらしい。

 当初シャルルは、「名誉も財宝も必要ないので、辞退したい」旨を伝えたのであるが、使者が号泣して懇願するため仕方なく行くことにしたのだ。「勇者を取り逃がした場合、死刑」と宣告されていたらしい。「取り逃がしたら」という言い回しに多少疑問を抱いたが、シャルルに登城する以外の選択肢は無くなった。


 シャルルは馬車の窓から、外の様子を見渡す。

 闇夜であったため見えていなかったが、被害は想像以上に大きい。東西南北の防壁が破壊され、見えないはずの草原や森が垣間見える。塔の近辺は被害が甚大で、破片や瓦礫により周囲の建物も無残な姿を晒していた。

 その光景を目の当たりにしたシャルルは、大きく息を吐いた。


「そろそろ、到着致しますので」

 使者の言葉に我に返る。その直後、馬車が停止し、ゆっくりと扉が開かれた。

 馬車の外は、一面純白の石が敷き詰められた広場になっていた。おそらく、ここが馬車の停車位置なのだろう。そして、視線を前にやると、その純白の敷石が道として伸び、聳える帝城へと続いていた。帝城もやはり同様の純白の石でできており、日差しを反射して輝いている。


「こちらでございます」

 同行してきた使者に先導され、城の入口へと案内される。真っ白な通路の両端には眩しいほどの芝生が広がっており、いかにアルムス帝国が豊かなのかが窺えた。


 横幅が30メートル以上はある入口には、フルプレートの騎士が片側に10名ずつ3メートル毎に等間隔で列を成している。その前を通り過ぎると足元が赤い絨毯に変わり、今度は白と黒で統一された女官が、やはり片側10名ずつ並んで頭を下げていた。その前を恐縮しながら通り過ぎたシャルルは、10段程の階段を上がり、ようやく謁見の間に到着する。


 そこは天井が遥か彼方に見える吹き抜けのスペースで、100人以上がゆとりを持って入れる程の広さがあった。最奥部の数段高くなった場所に玉座があり、そこに不機嫌そうな男性が座っている。太い眉毛の下から鋭い眼光でシャルルを睨み付け、右手はなぜか腰の剣に添えられている。


「よく来た、勇者シャルル・マックールよ。

 余がアルムス帝国皇帝、そしてフィアレーヌの父、キングスレイ・アルムスだ!!」


 名乗ると同時に剣を抜き、シャルルに襲い掛かる。

 いつかもこんな展開があったが、アルムス帝国の貴族や王族は、勇者を無意識に襲うユニークスキルでもあるのだろうか。そんなことを思いながらも、シャルルは半身になって剣先を避ける。シャルルは軽く考えていたが、皇帝が振り抜いた剣は床に突き刺さると、閃光が煌き剣先から数十メートルに渡り床に亀裂が走った。


「は?」

 驚いたシャルルが皇帝の持っている剣を素早く鑑定すると、伝説級の宝剣と表示された。まだ本気ではないらしく、気を溜めて振ると山が切れるとかどうとか。流石にシャルルも焦るが、皇帝をねじ伏せる訳にもいかない。


「父上!!」


 傍に控えていたフィアレーヌが叫ぶ。その声に皇帝が反応して振り返るが、なぜか、それは逆効果のようであった。

「お、おのれっ!!」

「おのれ?」

 意味が分からず困惑するシャルルに向かって、再び皇帝が剣を振り上げた。


「―――アナタ?」

 着衣を乱し、必殺の剣を振り出そうとしていた皇帝に、冷淡な声が掛けられる。その瞬間、皇帝は素早く剣を鞘に納めると、何事も無かったかのように玉座に腰を下ろした。そして、姿勢を正すと咳払いをする。

「オホン」

「失礼しました。年甲斐も無く逆上してしまって」

 声の主を確認すると、皇帝の隣に立っている皇后のものであった。皇帝は見えない位置を皇后に抓られているらしく表情が歪んでいる。


 それから数分後、ようやく場も静まり、皇帝が威厳を持って語り始めた。


「勇者シャルル・マックールとその従者達よ。此度は、我がアルムス帝国の危機を救ってくれたことに対し、感謝の意を表する。また、魔王を討伐したことに対しても、国を挙げて称賛しよう」

 その言葉に対し、シャルルを始め、パテトとイリアも頭を下げる。


「その功績に対し、アルムス帝国皇帝として最大限報いなければならぬ。何なりと、望みを申すが良い」

 その言葉を吐きながら、なぜか皇帝の表情が歪み手がワナワナと震えている。しかも、剣を握ろうとする手を、笑顔で皇后が防いでいる。

 その状況を目の当たりにし、シャルルは小首を傾げる。そして、皇帝に対して、自らの望みを口にする。

「そうですね・・・・・・特にありません」

「「はあっ!?」」

 その返事を聞いた瞬間、2人が同時に叫んだ。

 1人は当然のように皇帝であったが、もう1人はフィアレーヌであった。


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