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決着①

 イリアが去った空間で、シャルルが魔王であるエルダーリッチと対峙していた。

 魔王と直接対決するのは2度目である。押し寄せる重圧が可視化させれるほどだ。これが魔王の存在感であるならば、前回討伐したベリアムは本体ではなかった可能性が高い。


「300年振リニ目覚メタトイウノニ、忌々シイ存在ガ居ヨウトハ」


 封印が完全に解け、完全体となった魔王が全身を現した。

 漆黒のローブに身を包み、先端に暗黒のオーブが取り付けられた杖を持つ、禍々しい骸骨。白骨化した細く長い指には、魔法器具マジック・アイテムと見られる指輪が幾つも装着されている。その異常なまでの魔力は、生前トップクラスの魔法師であったことを証明していた。リッチも魔力は十分に高かったが、その比ではない。


 何の前触れもなく魔王の窪んだ目が光る。

「ココデハ狭カロウ―――超爆裂バスタード・ボム


 何気なく呟いた魔法名。その瞬間、室内の空気が一点に凝縮されていき、重複した空間の一部に膨大なエレルギーが蓄積されていった。そして、それは渦巻く魔力の本流となり、激烈な爆発を引き起こす。周囲の壁も建物さえも破壊し尽くし、その場にあったあらゆる物が粉々に飛び散った。


 逃げ場所がないシャルルは、その爆発に巻き込まれて吹き飛ぶ。目の前が真っ白になり、背中を地面にしたたかに打ち付けてどうにか停止した。シャルルの視野が回復した時、そこには、大聖堂が瓦礫と化した代わりに、決闘の場に相応しい広さの空間が出現していた。


「―――黒球ブラックボール


 再び耳が拾う魔法名。声の主を確かめるようにシャルルが振り返ると、ほぼ同時に、魔王が攻撃魔法を放った。しかもそれは1発ではなく、同時詠唱によって5発以上の漆黒のエネルギーを作り出していた。その全てが、シャルルに狙いを定めている。

 加速して、真っ直ぐにシャルルを狙うエネルギー弾。空中を放物線を描くようにして飛来するエネルギー弾。その全てがシャルルに襲い掛かってきた。その弾を最小の動作で避け、素早く前転して飛び込み、擦れ違い様に挨拶代わりの一撃を打ち込んだ。


 しかし、全く手応えがない。

 完全に胴体を捉えたはずの剣。本来であれば、真っ二つになるはずの身体を剣が擦り抜ける。それでも、これは当然の結果である。エルダーリッチは不死なのだ。


 魔王が暗闇の中で笑う。

 背後から魔王の手がスッと伸び、シャルルの肩に触れる。途端にシャルルの全身に倦怠感が巡り、意味が分からないままその場に片膝を突いた。死の宣告(デス・センテンス)―――魔王が触れることは死を意味する。


 魔王のエナジードレインは、死霊使い(スペクター)の数倍、いや数十倍の生気を吸い取る。もしも、シャルルでなければ、今の接触で決着したかも知れない。

 苦悶の表情を浮かべ、魔王から離れるシャルル。近接戦闘は危険が大き過ぎる。


「―――雷撃!!」


 シャルルが、離れた位置から魔法を放つ。宙空に紫電が走り、その一つが稲妻となって魔王を貫いた。何の防御しなかった魔王を直撃した雷は、そのまま地面に分散されて消失する。


「フム、人間ニシテハ上出来ト言エヨウ。

 ダガ、我ハ人間ヲ超越シタ存在、エルダーリッチ。ソノヨウナ稚拙ナ魔法ニ受ケルダメージナド皆無―――」

 何のダメージも受けていない魔王が、天に向かって両手を挙げる。

「―――流星雨」


 魔王が魔法名を唱えると同時に、天が真っ赤に染まった。

 まるで地獄の蓋が開いた様に、闇に覆い尽くされていた空が一気に燃え上がる。

 巨大な隕石が灼熱を纏って降ってくる。

 その範囲は10キロとは言わないだろう。

 その数は数百を超えている。

 クレタは間違いなく消滅する。

 跡形もなく、一人も残さず死滅するだろう。

 それが、疑いようのない未来だ。


「―――ブレイク」


 シャルルがそ口にした瞬間、世界に終わりを告げようとしていた流星雨が、まるで夢でも見ていたかのように消滅した。


 再び暗闇に沈む景色。そこには、膝を突くシャルルの姿があった。ブレイクは相手の魔法を消す代わりに、その魔法で消費される魔力をシャルルから奪う。魔王が平然と放った流星雨は、一瞬気を失いそうになるほどの魔力を消費させた。


「人間風情ガ、我魔法ヲ打チ消ストハ。勇者ヨ、ヤハリオ前カラ消サナケレバナラヌ」

「―――雷撃の嵐(サンダー・ストーム)!!」


 魔王が魔法を放つよりも早く、シャルルが雷系の最上級魔法を放つ。もし、次に超級魔法を唱えられると、もう防ぐことができない。

 突如として突風が吹き荒れ、魔王を中心に竜巻を巻き起こす。その中心部に向けて、何十という雷が雨あられと降り注ぐ。稲光を伴った暴風が吹き荒れ、その中心に凝縮されるようにして大爆発を起こした。その余波で大地が揺れ、遠く離れた場所の建物が崩壊した。


 これで無傷だとか有り得ない。

 もし、仮に全く効いてないとすれば、手の打ちようがない。

 祈るような思いで爆煙を凝視していたシャルルの耳に、掠れた呟きが聞こえた。


「―――雷撃」

 電光が閃き、その先端がシャルルを貫いた。


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