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クレタの聖戦⑧


 時を同じくして、街の反対側の防壁でも激しい戦闘が繰り広げられていた。


 近衛隊と闇の騎士団は、依然として膠着状態にあった。互いに重装備であり、一撃で致命傷を与えることはできず、しかも、正々堂々と真っ向勝負であるため一進一退のままなのだ。仮に、どちらか一方に強力な魔法師がいれば、瞬く間に戦況は変わっていただろう。


 その攻防からやや離れた場所で行われている一騎打ちも、やはり一進一退の攻防が続いていた。その原因も同様に真正面からの力勝負だったからだ。

 緋色の騎士と呼ばれる近衛隊副隊長の第三皇女フィアレーヌは、レベル35の剣士である。しかも、装備品は皇室が保管してきた一級品。少々威力がある攻撃程度では、傷ひとつ付けることはできない。対する漆黒の騎士は暗黒騎士デュラハンである。生前は名のある騎士であったらしく、剣技は一級品。しかも、通常の物理攻撃ではダメージを受けないのである。


 一騎打ちが始まって既に30分以上が経過し、平然と剣戟を繰り出す暗黒騎士に対し、フィアレーヌには疲れが見え始めていた。上下に動く肩、鉄仮面の中から聞こえる呼吸音が激しくなっている。

 それに気が付いたのか、暗黒騎士の攻撃に変化が生まれた。数合打ち合っては離れるという戦法を使用していたが、間断無く攻撃する方法に方針を転換した。


 連続で放たれる剣戟に、フィアレーヌは次第に防戦一方となる。それでも、全ての攻撃を往なし、その剣先が身体を掠めることさえない。しかし、生者には自ずと限界が訪れる。無尽蔵のスタミナなどというものは存在しないのだ。

 ついに、暗黒騎士の剣がフィアレーヌの兜を捉えた。剣先が頭頂部に突き刺さり、そのまま鉄仮面を弾き飛ばす。同時に、紅の髪が闇夜に広がり、フィアレーヌの端整な顔があらわになる。その姿は、激しい鍔迫り合いを繰り返す戦場に咲く、大輪の花であった。


 素顔を曝け出したフィアレーヌは、髪を靡かせながら再び正面に剣を構えた。そして、乱れていた呼吸を整え、暗黒騎士からの攻撃に備える。

 しかし、身構えるフィアレーヌとは逆に、その姿を目にした暗黒騎士は、明らかに落胆して剣を下ろした。


「まさか、女とは・・・数百年ぶりの好敵手と思うたが、とんだ茶番であったわ」


 婦女子を相手取って剣を振ることは、騎士の名折れである。そう思ってきた暗黒騎士は、戦意を失いつつあった。そんな態度の暗黒騎士に、フィアレーヌは猛然と襲い掛かった。その剣は容易く暗黒騎士に受け止められたものの、互いの剣を挟んでフィアレーヌが睨み付ける。


「性別は関係ない。強い者が生き残る・・・それが戦場だろう!!」


 お互いが剣の腹で相手を弾き、再び2人の距離が開く。

 毅然として剣を構えるフィアレーヌ。その姿を目にした暗黒騎士は、先程の非礼を詫びる。


「確かに、貴殿の言う通りだ。失言であった、許せ。

 しかし、そういうことであれば、我も本気を見せるとしよう」


 そう言った暗黒騎士の気が膨れ上がり、騎馬を含めた全体から漆黒のオーラを放ち始める。一気に膨れ上がった魔素で、周囲の空気までもが漆黒に染まっていく。


「ゆくぞ―――」

 その言葉と同時に、暗黒騎士は自分の頭を上空に投げ上げる。

「―――黒死剣!!」

 今まで片手で振っていた大剣を両手で持ち、大上段から漆黒のオーラを纏う斬戟を放つ。その威力はこれまでとは段違いであり、フィアレーヌは剣で受けたものの5メートル以上下の地面に叩き付けられた。鈍い衝撃音が響くと同時に、土埃が噴き上げられ視界を奪った。


 勝利を確信したかのように、空中から見下ろすデュラハン。その手に、空中に投げ上げた頭が落ちてくる。微かな風に舞い上げられていた埃が流され、次第に戦場が明らかになる。そこには、直径が5メートル以上に渡って地面が抉られ、巨大なクレーターが出現していた。そして、そのクレーター中心には、膝を突くフィアレーヌの姿があった。


「なんだと!!」


 驚愕したのは暗黒騎士である。暗黒のオーラを込めた、必殺の一撃だったのだ。それに耐えられる人間がいることが、信じられなかったのである。その視線の先で、フィアレーヌは鮮血で顔を染めながらも立ち上がった。


「いやあ・・・凄い一撃であった。今度は、我が必殺の一撃をお見せしよう」


 再び飛行スキルによって宙に浮かぶフィアレーヌ。その姿に、暗黒騎士は動揺を隠せなかった。

「お、おかしい・・・それは、いくら何でも、有り得ない・・・」

 その言葉を薄く笑って受け流したフィアレーヌの背には、身の丈程の真紅の翼が生えていた。それは、竜士族の証であり、ドラゴンの能力を使用するという宣言でもあった。


「まさか、竜士族なのか!!」

混血ハーフではあるがな」


 次の瞬間、フィアレーヌの持つ剣が緋色に輝きドラゴンのオーラを纏う。それは、一時的にドラゴンの牙と同様の効果を持ったことを意味している。その能力とは、あらゆる物質を灰燼と帰す力。暗黒騎士クラスでは無効化することなど不可能だ。


 翼の推進力を加え、猛然と加速するフィアレーヌの一撃を、暗黒騎士がまともに受ける。紅に染まった剣は黒剣を砕き、そのまま漆黒の鎧をも両断した。


 灰燼と化す暗黒騎士。フィアレーヌは満足そうに笑うと、ゆっくりと前のめりに倒れた。


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