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クレタの聖戦②

 驚愕するリッチを気に留めることもなく、シャルルは自分の思いを口にする。それは、シャルルなりの決意表明なのかも知れない。


「あの時は、まだ、よく分かっていなかったんだ。一体何がしたいのか、何のために戦っているのか・・・でもね、今は分かっているんだ。僕は、この街を護りたい。そして―――」

 シャルルが剣を抜いて、下段に構えた。

「―――ここにいる全てのアンデッドを、救いたいと思ってるんだ」


 次の瞬間、リッチの視界から完全にシャルルの姿が消える。


「だから、僕は先に進むよ」


 その声は、リッチの背後から聞こえた。リッチの身体がローブごと切断され、腹部で真っ二つになる。しかし、リッチは微塵も慌てず高らかに笑う。

「ハハハハハハハハ、愚カナ。我ハ不死。剣デ切ッタトコロデ、ドウニカナルモノデハナイ!!」


 しかし、シャルルはそのまま通り過ぎ、もう振り返ることはしなかった。


「我ニ背ヲ向ケルトハ、愚カナリ、愚カナリ人間!!」

 絶叫するリッチ。その手にしている杖を振り上げた瞬間、それは起きた。

「ウ、ナ、ナ何ダコレハ・・・」

 シャルルによって斬られた身体は再生することなく、その切断面から閃光を放つ。

「マ、マサカ・・・マサカ、我ハ消滅スルノカ?・・・本当ニ逝クコトガデキルノカ?」

 既に骸骨と化して永い年月を重ねたリッチの表情が、生前の神官であった頃に戻っていく。


 アンデッドの頂点であるリッチは、元々高位の神官、若しくは魔法師である。本人が深淵を覗き込みリッチとなることも多いが、大半の場合は不死の呪いである。心の奥底で蠢く、不満や嫉妬・・・その隙を突かれ闇に堕ちるのだ。その業は深く、不死故に滅びることさえも許されない。果てしなく続く懺悔と後悔の中で精神は病み、生者に対する悪意だけが増大していく。


 しかし、勇者の剣は、その呪いを断ち切ったのだ。全てを護り、全てを救う―――それが、シャルルの目指す勇者の姿だ。


 やがて、リッチの身体は足元から光に飲み込まれていき、最後に顔を残すのみとなった。

「ああ、私は、ようやく・・・・・」

 穏やかな表情に変わった神官は、1200年もの長き苦悩の末にようやく天界に召された。



 シャルルはそのまま、北塔に向かって移動する。


 すぐに、帝国の近衛隊が闇の騎士団と戦う姿が見えてきた。そして、その激戦の最中で激しく剣をぶつけ合う、緋色の騎士と漆黒の騎士も。

 首から上が無い騎士と馬。その異様な容姿から、暗黒騎士デュラハンであると容易に判別できた。


 近衛隊と闇の騎士との乱戦はともかく、フィアレーヌと暗黒騎士の戦いにはシャルルも目を奪われた。なんと、空中で戦闘を繰り広げていたのである。


 シャルルはすかさず、鑑定スキルでフィアレーヌのステータスを確認する。現状、飛行魔法を行使できる者はいない。それに、飛行する魔法具の存在も確認されていない。フィアレーヌは皇女であるだけに、もしかすると、皇室に秘匿されてきた魔法具を所持しているのかも知れない。


 すぐに、シャルルの眼前にステータス内容が浮かんだ。

 フィアレーヌ・アルムス、17歳、レベル35。竜騎士S、飛行スキル―――


 シャルルの思考が停止する。

 竜騎士?

 飛行スキル?

 もし本当であれば、フィアレーヌは人間と竜氏族のハーフということになる。


 竜士族はそもそも竜・・・ドラゴンが祖であり、その能力を色濃く受け継いでいると言われている。閉鎖的で他種族との交流を望まないため、その全貌は未だに謎のままである。この大陸に国を建設しているが、入国を許された人間はいない。

 その竜士族の中に、ドラゴンの能力をより強く発現する者が生まれることがある。その者は竜化することによってドラゴンの能力を行使し、飛行することもできるという。


 シャルルはフィアレーヌを見上げて呟く。

「飛びたい・・・あれ、コピーさせてくれないかなあ」

 現実的に考えて、皇女を抱き締めることなど許されるはずがない。それこそ、絞首刑になるかも知れない。


 その時だった。


 何の前触れも無く、クレタの市街地から猛烈な魔力が迸った。先程のリッチなど及びもつかないほどの圧倒的な魔力が、大聖堂付近から噴き出している。


「―――魔王か」


 自らが口にした言葉に、シャルルの身体が熱くなる。

 戦いを好きにはなれない。もし、話し合いで解決できるのならば、そちらを選択するだろう。だが、魔王は勇者とは真逆の存在である。もし出会うことがれば、相対するしかない。


「シャルル殿!!」


 魔王の存在に気付いたフィアレーヌが、クレタの中心部を剣で示す。シャルルは顔を上げ、首肯することでそれに応えた。この場は、フィアレーヌと近衛隊に任せるしかない。皇女の存在と近衛隊の士気を考えれば、ここがそう簡単に陥落するとは思えない。


 シャルルは防壁に向かって走ると、その勢いを殺さずに跳躍する。そして、そのまま大聖堂を目指して疾走した。


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