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勇者と勇者②

「ん?少し話し過ぎてしまったか?まあ、お前さんがやることは、目の前にいる、敵である俺を倒すことだな。もし、俺が殺そうと思っていたら、お前はもう死んでるぞ?」


 ジークの言葉にハッとして、シャルルは後方に飛んで距離を取る。

 確かに、ジークの言う通りだった。もし、ジークが本気ならば、スキルの説明などせず、一方的に攻め立てていたはずだ。もし、そうされていたとすれば、間違いなくシャルルは地面に倒れていた。


「さあて、どうするんだ?降参して逃げるか?俺に弱い者いじめをする趣味はない。追わないでおいてやるぞ」


 他人の言動に振り回されることがなくなっていたシャルルであるが、再び挑発的な言葉を投げ付けられ拳を握り締める。他人に影響されないのは、自分に絶対的な自信があるからだ。その自信が揺らいでいる今、シャルルは挑発を無視することができなかった。


 物理攻撃はスキルにより回避される。しかも、それを擦り抜けたところで反射スキルにより、数倍の威力になって返されてしまう。物理攻撃に対しては、ほぼ無敵だと思える。

 しかし、それは、あくまでも物理攻撃に対してのみだ。シャルルは剣士ではなく勇者である。当然、攻撃魔法も使用できる。しかも、無詠唱で。


「―――雷撃!!」

「―――絶対魔法防御」

 シャルルが放った魔法は、ジークに当たる瞬間に消滅した。


「おいおい、俺は3体の魔王とその幹部達を倒したんだぞ?魔法攻撃の備えをしていないはずがないだろう」


 事も無げに話すジーク。その姿に、シャルルは初めて恐怖する。絶対魔法防御は、あらゆる魔法を無効化する防御魔法である。高位の僧侶か神官しか会得できないとされる最上級魔法だ。それを、勇者の身で習得し、しかも無詠唱で発動したのだ。絶対魔法防御を発動すると、敵だけではなく自らの魔法も無効化してしまうが、ジークの場合は関係ない。そもそも、物理攻撃が無効なのである。


 剣を下ろして立ち尽くすシャルル。もはや、シャルルにはどうすることもできない。あらゆる攻撃手段が無くなった今、できることがあるとすれば、逃げることだけである。


 そんなシャルルを見て、呆れたようにジークが笑う。

「だから言っただろう。レベル100を超えた者同士の戦いは、スキルが影響すると。死線をどれだけ潜ったかが経験になり、己を強くしていくんだと」

 初めてジークが腰に手をやり、伝説級とも思える大剣を抜いた。

「歯を食い縛れよ」


 立ち尽くすシャルルの腹部に、ジークの剣がめり込む。同時にシャルルの身体が宙を舞い、その後地面を激しく転がって止まった。呻き声すら上げることができず、大の字に横たわるシャルル。そこに、ゆっくりとジークが歩み寄って来る。


「どうやら、お前は何も分かっちゃいないようだなあ。

 ステータスボード。名前の横にある文字の意味を、何も分かっちゃいない」

「も、文字の意味・・・?」

 どうにか上体を起こし、言葉を紡ぐシャルル。少し離れた位置で立ち止まったジークが鷹揚に頷く。

「そうだ。そこには、一体何が書いてある?」

 シャルルはステータスボードを頭に浮かべ、そこに何が表示されているのか思い出す。

「・・・職業」

 そう答えながら、シャルルが立ち上がった。


「それが、間違いだ」

 ジークの声が聞こえた瞬間にその姿が忽然と消え、唐突にシャルルの目の前に大きな拳が迫った。今度は殴り飛ばされ、数メートル後方にあった壁に背中から激突する。しかし、今度は瞬間的にガードを固めたため、打撃によるダメージはほとんど受けていない。


 シャルルの反応速度を見たジークは短く口笛を吹いた。

「身体能力だけなら、ピカイチなんだがなあ」

 そう言って、ジークは再びゆっくりと距離を詰め始める。


「お前の答えは間違いだ。そんな事だから、俺に簡単にやられる。あそこに書いてあるのは、職業なんかじゃない―――可能性だ」

「可能性?」

 思わず聞き返したシャルルに、ジークがニヤリと笑う。


「よく考えてみろ。

 まだ何もしていないヤツのステータスボードは、一体どうなっている?

 本当ならば、そこは空欄のはずだ。何もしていないんだぞ?当然だ。

 だが、誰のステータスボードにも、何かしらの文字が書いてある。変だと思わないか?まだ、何もしていないんだぞ?」


 ジークの説明を聞き、すぐにシャルルは納得した。

「確かに・・・」

「そこに書いてあるのは、あくまでも適正であり、可能性の1つにしか過ぎないのさ。しかも、そこに書いてある職業を習得するためには、果てしない努力と能力が必要だ。決して、無条件に辿り着ける訳ではない」


 歩み寄って来たジークが、シャルルの胸倉を掴んで持ち上げる。

「そこのお嬢ちゃんは、誰が見ても武闘家だ。ステータスボードにも、武闘家と書いてあるだろう。

 だが、それは絶え間ない研鑽の末に獲得したものであり、ただの文字じゃない」


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