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死の魔王と聖女の祈り④

 そもそも、霊体は純粋なエネルギーの塊である。個々の力は弱くても、数が集まれば途轍もない量のエネルギーとなる。それを1ヶ所に集め外部からきっかけを与えると、通常では考えられないほど強力な爆発を引き起こす。それが今、南塔で起きたのだ。


 内部からの凄まじい威力の衝撃に耐えられず、外壁に無数の亀裂が入り、最も影響を受けた塔の先端が崩れ落ちた。その先端は落下する途中で塔の中腹に衝突し、巻き込む形で塔を破壊した。中間付近に巨大な穴を開けた塔はその部分から崩壊を始め、巨大な瓦礫によって更に自らを削っていく。


 その一連の出来事を、連絡係の兵士達はただ呆然と眺めることしかできなかった。


 東、西、南の塔が崩壊し、当然のように都市内の住民も異変に気付いた。一体何が起きているのか、正確に把握している者はいない。それでも全ての住民は、伝え聞いていた300年前の悲劇を脳裏に思い浮かべていた。300年前、クレタを壊滅に追いやったアンデッドの大軍勢。それを率いた魔王。その身をアンデッドと化したエルダーリッチを。



 城下が騒がしくなり、帝城でも防壁で起きている異常事態に気付いていた。クレタのシンボルである5つの塔。その外輪を形成する塔が、次々と倒壊しているのだ。正門からの伝令が王宮に到着した時には、既に皇帝は玉座にて待機していた。


「緊急事態につき、ご無礼をお許し下さい!!」


 謁見の間の入り口で、片膝を突いて頭を下げる兵士。通常ではれば、伝令が直接皇帝に報告などをできるはずもない。しかし、急を要する用件であることを、その場にいる全員が理解していた。


「申せ」

「はっ。現在、防壁の外にアンデッドがの大群が押し寄せております。正門には、1万を超えるゾンビ、5000を超える骸骨戦士スケルトンウオーリアー、更に500を超える食屍鬼グールが攻め寄せています。既に、東塔は陥落。西、南の両塔も、帝城に向かう途中で崩壊を見届けました」


「な―――」

 その場に居合わせた者全員が絶句する。


 正門に押し寄せているアンデッドだけでも、既にクレタ存続の危機である。その状況下に置いて、更に西と南の塔が破壊されたということであれば、その2ヶ所も同等の戦力で攻められているということになる。そして、狙われている塔はもう1棟残っている。しかし、クレタには防衛する戦力は残っていない。


 塔が狙われている理由を、皇帝だけ知っていた。それだけに、顔色を失い青褪めた。



 ―――――暗闇。


 果てしない奈落から、イリアは何者かの笑い声を聞いた。

 祈りの言葉を捧げ両手を合わせた瞬間に、何者かの存在を感じた。

 それは、時間の経過と共に大きくなり、イリアを飲み込むほどに巨大になろうとしている。

 しかし、その存在を感じながらも、イリアの心が乱れることはない。

 イリアが考えていたことはいつもと同じ、全ての人々の安寧。

 そして、ある仲間に対する贖罪のみである。



 最後に残された北の塔。3つの塔が破壊され、既に次に狙われる場所の目星が付いている者達がいた。それは、皇帝直属の兵士である近衛隊である。正門からの伝令が到着した直後、近衛隊に対し皇帝直々に命令が下されたのだ。


 全近衛隊は約5000人。近衛隊としては多いが、そもそもの考え方が違う。皇帝を守護するというよりは、クレタに異変が起きた際の予備隊としての意味合いの方が強いのである。実際、北塔に向かう近衛隊は3000人にものぼる。2000人を帝城の守護に残し、残りの全兵士は北塔に向かったのだ。


 しかし、近衛隊が到着するよりも前に、北塔が面している防壁は攻撃に晒されていた。正門は既に激戦区であり、しかも途中の防壁はリッチの強力な魔法により崩壊している。北塔を守護したくても、1人も向かえる状況ではなかった。連絡係の兵士の眼前で、一方的な破壊が繰り広げらることとなる。


 防壁の外には、漆黒の巨大な馬に跨った漆黒の戦士の姿。右手に大剣を持ち、配下の者達に指示を出している。それだけであれば、ただの騎士である。しかし、その姿には普通の騎士とは決定的に違う部分があった。それは、その騎士には首から先が無く、そこに在ったであろう頭を左手に持っていることである。


 デュラハン―――首無しの暗黒騎士。アンデッドの中でも最強と呼ばれる存在であり、生前に培われた剣技は世界でも最強クラスであったと言われている。そのデュラハンが、殺戮騎士キラーナイトなどアンデッドの騎士を3000体以上も率い、今や遅しと突撃の時を待ち構えている。


 そして、その前方には、直径2メートル以上ある巨岩を軽々と持ち上げて行軍するオーガゾンビ。そのオーガゾンビ達が、手にしてきた巨岩を雨あられと防壁、更にはその奥に建つ北塔に向かって投擲する。身長が5メートルに届こうかという巨人のゾンビである。動作は緩慢であるが、その怪力は尋常ではない。投擲された岩は唸りを上げ、次々と北塔に激突して鈍い音を立てた。


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